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第1章 魔法を極めた王、異世界に行く

27:お手玉

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「よーし、それならちょっとしたゲームをしてみようか」

 3人それぞれ距離を取り三角形を描くようにして待機する。まずは俺がエリィに向かってファイアボールをゆっくりと放つ。エリィはそのファイアボールに、自分の魔力を火属性に変化させファイアボールに少し乗せてブルーに弾き飛ばす。今度はブルーがエリィと同じ事をして俺に向かって飛ばす。魔法のお手玉みたいな感じだが、弾き飛ばすのは誰にでもいい。
 このゲームの肝は、まず3人とも一歩も動かない事。弾き飛ばす者は、正確に次の人の場所へ届かせるようにコントロールしなければならない。もし弾き飛ばした方向がズレていたり相手の頭上を超えたり手前で落ちたりしたら1カウントする。最終的にそのカウントが一番多い人が負けのゲームだ。

 さらに2週目3週目と今度は魔力が増えてくるので、より正確なコントロールが必要となる。自分で魔力を多く込めすぎれば、次に回ってきた時にどんどん大変になって行くのだ。
 もちろんそれだけでは無い。慣れてきたら、今度は別属性のボールを織り交ぜながらスピードにも緩急をつけて行く。咄嗟の判断や魔力の属性変更に体力やコントロールなど、求められる物がどんどん増えて行くのが面白いところだ。

 最初のうちはゲームという事もあり2人とも楽しく遊んでいたが、どうやら途中からこれも修行の一環だと気付いたらしい。「どこ飛ばしてるのー?」とか「あ、届かなかった!」とか「ブルーこれで2カウントー!」とか、そんな和気藹々な雰囲気も消え始めた。
 回数を増すごとに大きくなるファイアボールを2人とも真剣な表情で弾き始めて行く。負けず嫌いが出始めているらしい。
 もちろん素っ頓狂な方向へ向かったファイアボールは、安全のために俺が魔法消滅マジックディサペアで消しながらだ。

「ほれ、追加して行くぞ」

 さらにファイアボールを追加して行く。最初のゆっくりとは違い、少しスピードを速くしたものだ。それでも2個ならなんとか2人とも捌いているので、3個目を投入する。
 すると、少しづつ2人のペースが崩れ始めた。ひとつ弾いた瞬間に次がやってきて対応が間に合わなかったり、二つ同時が見えた事によって次の動作に気を取られ、初めに弾いた方のコントロールが乱れてあらぬ方向に飛ばす。
 2人とも弾く事に集中し続けているので、カウントは必然的に俺の役目となった。

「はい、エリィ27カウント。あ、ブルー28カウント」

 悔しがってる暇はない。次から次へと魔法は飛んでくるし、3人の間にはもう10個のファイアボールが飛び交っていて一息つく暇もないのだ。
 もちろん魔法同士をぶつけてしまえばその2人にカウントが増えるので、球数が多くなればなるほど弾き返す時にはある程度の導線確保も必要になってくる。
 俺はもちろん弾く際は一個ずつ操作しているのでぶつけるようなヘマはしない。

「あー! 何で師匠は落とさないの!!」
「くそぉ! 僕今何個落としたの!?」

 ほう、喋る余裕はまだあるらしい。これならその内別属性を入れてもいいかもしれないな?
 そんな事を考えた瞬間、俺が弾いたファイアボールが別のファイアボールで撃ち落とされた。そっちの方を見ると、どうやらエリィがわざと撃ち落としたらしい。
 少しニヤけた顔で「はいししょー1カウントぉぉ!」なんて叫んでやがる。そしてエリィに気を取られた瞬間、今度はブルーの方で撃ち落とされた。
 どうやら2人がかりで俺のカウントを増やす作戦らしい。

「おーまーえーらぁぁぁ!」

 俺はなくなった4つのファイアボールを2人に向けて均等に打ち出した。すると2人の間にある6個のファイアボールを順番に俺に向かって弾き飛ばしてくる。
 ちゃんと緩急をつけた状態で、6個同時に俺を責めるつもりらしい。俺の飛ばしたファイアボールを避けて打ち出しているので、一気にカウントを稼ぐつもりだろう。
 まぁ6個ぐらい俺の手にかかれば大した事なーーーー

「ブルー!」
「はいよ!」

 俺が2人に向けて打ち出した4つのファイアボールを、息を合わせて撃ち返してきた。さらに示し合わせたかのように魔力を多く込めて、先に弾き返したファイアボールに追いつくよう速度を合わせている。これで合計10個が一気に俺に襲いかかってきたのだ。

「ハハッ」

 思わず笑みが溢れた。弟子が成長するのは喜ばしい。俺を倒すために、今この場で考え出した戦略。しかも声をかける事なくお互いの考えを読み合ってだ。それなら俺もちゃんと期待に応えてやらねばな!

 そのまま打ち返すだけでは味気ないので、ちょっとだけ本気を見せてやろう。

亜空速遅スタグネイア

 自身を中心に指定範囲内の速度を著しく落とす魔法。この魔法は発動中にゴリゴリ魔力だけを削ってくるので長期戦には向いてない魔法だが、今回のような時にはぴったりの魔法でもある。
 もちろん俺自身は普通に動けるので、外から見れば俺が超加速して動く姿が見られるだろう。
 俺の手が届く範囲を指定し、上下左右から襲いくるファイアーボールと対峙する。

 ……いやはや、本当に凄いものだ。10個のファイアーボールはしっかりと、ほぼ同時に俺に着弾されるように設定してある。さらに何個かは込めた魔力量に細工をしてあり、下手な力で弾こうとすればそのまま暴発しかねない。
 余裕を見せながら弾いていた姿を見て油断してるとでも思ったのかな? 残念、魔法に手を抜くと言うことはないのだよ!!

「ハァッ!!」

 両手を使い10個の魔法を全て2人に弾き返す。もちろん5個ずつに分けて、魔力は少なめにして返してやった。
 さて、2人はどうやって5個同時を捌いてくるかな?

「はぁぁぁ!?」
「えっ!? なに!? 何が起きたの!?」

 あ、速度考えずに弾いてしまった。エリィ達に向けて弾かれたファイアーボールが一気に遅いにいく。
 エリィは1個目と2個目を捌いたが3個目が体に当たりバランスを崩し、そのまま全弾命中。
 ブルーも1個目を弾いたが、弾いた方向が悪く2個目と重なり爆発し、視界を塞がれたところに追撃が。
 結局2人ともそこで力尽きてしまった。

「なんだー? もう終わりか?」
「もう……無理ですよ!」
「僕も……降参……だぁ」

 2人とも息切れしながら悔しそうに叫んでいる。まぁこのお手玉はいろんな神経を使うし、魔力操作に体力も使うからここまで耐えられたのも凄いんだけどな。

「師匠には絶対に勝てないですよー!」
「いい作戦だったと思ったんだけどなー」
「おう。俺にちょっと本気出させたんだ、凄いぞ?」
「「!?」」

 やはり俺の動きはちゃんと見ていたらしい。間違いなく10発を綺麗に弾き俺に当たると思ったが、俺が超高速で魔法を全て弾き返したのを見て唖然としたそうだ。
 まぁ俺に勝つのは100年早いが、弟子が頑張ったのを褒めない訳にはいかない。俺がどうやって魔法を弾き返したのかもちゃんと説明し、俺に本気を出させたことをもう一度誉めると2人とも嬉しそうな笑顔になる。

「くぅー! 今度こそ師匠倒しますよ!」
「ぼくもー! 負けないよ!!」

 ふふふふ。いい傾向だ。こうやって俺にも届きうると考えさせて、どんどん模擬戦などにも組み込んでいこう。そうすれば2人ともいい魔法使いになれるからな。

 それから俺たちは休憩を挟みつつ、この森を出る準備を進めた。
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