殺しの美学

村上未来

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感情を知らない女

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 時間が過ぎた。

「もう一時だな…俺もう寝るけど、美玲はまだ寝ないのか?」

 食後のお茶を飲み終えた竜二は、壁に掛けられた時計を見て、欠伸をこらえた。

「私はもう寝る。睡眠不足は妊婦の体に悪いからな。その前に歯を磨かなければならない。しかし、食後三十分以内に歯を磨くと、エナメル質が欠損するのは学習済みだ」

 美玲はそう言うと、時計を見詰めた。

「へぇーそうなんだ。美玲は相変わらず物知りだな…じゃあ俺も、三十分ぐらい置いてから歯を磨いて寝るよ」

「うむ。後二十二分すれば、私は食後三十分が経過する」


「…なぁ美玲、明日産婦人科の定期検診だよな?」

「そうだ。平山竜二は会議があるから行けないんだったな」

「外せない会議なんだ…俺がいないと始まらないからな」

 竜二はそう言うと、溜め息を付いた。
 竜二は大学生である。そして、高校三年の時に自ら立ち上げたデザイン会社の経営をしている。
 社員は五名とまだ少ないものの、業績は前年度に比べると倍以上で、これからを期待されている会社だ。
 明日、いや後数時間後に開かれる会議では、これからの会社の将来を、大きく左右する議題を話し合う予定だった。

「…もう三十分経ったな」

 壁に掛けられている時計を確認した竜二は立ち上がった。

「うむ。私は歯を磨いて寝る」

 美玲も立ち上がると、二人は洗面所へと向かった。
 歯を磨き終えた二人は、寝室の同じベッドに潜り込む。

「…おやすみ」

 美玲のお腹に手をあて、愛しの我が子と会話を堪能した竜二は、大きな欠伸を掻いた。

「うむ。おやすみ」

 美玲は静かに目を閉じ、呟いた。
 程なくして寝室には、二人の寝息が木霊した。
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