殺しの美学

裏切り

6

「えっ？…でも竜二さんには、結婚を約束した彼女がいるんじゃ…」

「彼女とは別れる…だから結婚してください」

　竜二の言葉を聞き、暁美の瞳から大粒の涙が零れた。決して綺麗ではなく、心の底から歓喜の涙を流す暁美は、希望に満ち溢れている。

「…はい、結婚してください」

　暁美はその涙の下に、幸せに満ちた顔を覗かせた。

「ありがとう。二人で子供を育てていこう」

　竜二は暁美の手を取り、優しく微笑んだ。
　それから二人は日替わりランチを注文し、今後の事を話し合いながら、食事をした。

「…昼休みも終わりそうだから、行きますね」

　二人きりの時間が終わる。暁美はそう思っているのだろう。どこか悲しい顔をして立ち上がった。

「うん。俺は家に帰って、彼女にちゃんと話してくる」

　そう言った竜二の笑顔を見て、暁美に笑顔が戻った。
　家に帰り、竜二は鞄に自分の荷物を纏め始めた。そして、その動きをぴたりと止めた。
　暁美の前では見せなかった涙が、漸く頬を伝っている。

「…別れるしかないんだよな」

　美玲と暮らす思い出溢れる室内を見渡し、竜二はぽつりと呟いた。
　窓から差し込む光が茜色に変わる頃、玄関の方でドアが開く音がした。荷物を纏め終わり、リビングのテーブルに座っていた竜二は、静かに顔を上げる。

「平山竜二、帰って来ていたのか。ただいま」

　リビングのドアを開け、竜二を視線に捉えた美玲は、礼儀正しく頭を下げた。

「…おかえり…美玲話があるんだ…座ってくれないか」

　今にも泣き出しそうな顔で、竜二は呟いた。

「少し待っていてくれ。帰ってきたら、うがい手洗いをしなければな」