殺しの美学

村上未来

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残酷な音

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「分かったんだ?なら、今日はこのぐらいにしといてあげる。また明日ね」

 茜はそう言うと、竜二に背を向けた。

「…京子行こう」

 美玲の耳元で囁いた茜は、ドアに向かい歩き出した。
 美玲は口をむんぐと閉じると、茜と一緒に部屋を出た。

「…殺ったんですか?」

 竜二の叫び声を聞いていた黒川は、近付いてくる茜に尋ねた。

「殺してないよ。ナイフで刺しただけ。それよりみんなはちゃんと寝れたの?」

「…いや、みんな寝てませんよ」

 御堂はぽつりと呟いた。

「じゃあ、今日はお開きにしましょう。また明日集合ね」

「分かりました」

「京子、じゃあ帰ろう」

 茜は美玲の手を取ると、繋いだまま一緒に部屋を出た。

「…柳田、お前はここで寝てくれ。俺達は一旦帰るからな」

 黒川は欠伸をかみ殺した。

「はい、分かりました」

 柳田を残し、黒川達も帰って行った。

「美玲、あいつが刺された時、どんな気持ちだった?」

 駅へと向かう道。茜は美玲の手を繋ぎ、最高の笑顔を作った。
 美玲は口をむんぐと固く閉じ、首を傾げた。

「…あっ、美玲、もう喋ってもいいんだよ。喋って欲しくないのはあいつの前でだけだから。声で美玲ってあいつにばれちゃうでしょ?」

「ん?そうなのか?もしかして、私はもう只野京子ではなく、園山美玲に戻ったのか?只野弥生も榊原茜に戻ったのか?」

 口をぱっと開いた美玲は、矢継ぎ早に言葉を並べた。

「そうだよ。あいつの前でだけ、私は弥生で美玲は京子なんだよ」

 茜は空いている手で、美玲の頭をよしよしと撫でた。
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