殺しの美学

村上未来

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シナリオ

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「…柳田、尾行されてないだろうな」

 柳田からダイヤモンドと携帯電話が入ったセカンドバックを受け取った黒川は、眼光鋭く尋ねた。
 蛇に睨まれた蛙の如く、動きを止めた柳田は、緊張した面持ちで答えた。

「…だ、大丈夫です」

 どこか自信なさげに答えた柳田の額に、一筋の汗が流れた 
 黒川の恐さを柳田は十二分に知っている。尾行されている筈はないが、もしされていたら。その事が頭に浮かび、柳田は緊張している。

「…バックに、GPSや盗聴器は取り付けられてなかったんだな?」

 黒川は視線を逸らさず、柳田を凝視し続ける。

「だ、大丈夫です!何度も調べましたし、これでちゃんと調べましたから!」

 柳田は左手に握り締めたトランシーバーのような機械を震えながら掲げた。この機械もそうだが、犯行に使われた車やバイク、携帯電話は御堂が全て裏のルートを使い、格安で用意した物である。

「…そうか、ご苦労さま」

 黒川は強面から一点、ゆるキャラのような和やかな笑顔を作ると、労いの言葉を掛けた。

「御堂、さっそく捌いてくれるか?」

 セカンドバックから取り出した用済みとなった携帯電話を真っ二つにへし折り、黒川はセカンドバックを御堂に手渡した。

「…あぁ」

 御堂はセカンドバックから袋を取り出すと、手の平に全てのダイヤモンドを転がした。大小様々なダイヤモンドが、部屋の灯りに照らされ輝きだした。

「…一億円相当ってこんなもんなのか、少ねぇな」

 御堂の手の平で輝くダイヤモンドの群れを見て、黒川はつまらなそうに呟いた。
 黒川は最初から乗り気ではなかった。このダイヤモンドで得る金の一部は、黒川達より上の立場である若頭の佐野島に渡さなければならない。その為、喜びは薄いのだろう。

「…じゃあ、行ってくる」

 ダイヤモンドを袋に戻し、セカンドバックに仕舞うと、御堂は部屋を後にした。

「…じゃあ、俺達は帰るか」

「…はい」

 黒川と柳田は疲れ切った精神を癒やすように、深い溜め息を吐きながら部屋を出て行った。
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