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催眠術
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「…付きました…付けないようにしてたのに…」
杉山は不思議そうな顔をして田村を見詰めた。その人差し指同士の先は、本人の意思に反してぴったりとくっついている。
田村は伊織に視線を向け、微笑んだ。
伊織は対象的に冷静な顔をしている。さして驚いていない様子だ。
「催眠術って本当にあるんですね…」
杉山は感慨深そうに頷いた。
「…では一旦、皆様には出ていってもらいましょうか」
田村の言葉を聞き、伊織は杉山達に向かって、手で追い払うような仕草をした。
その不躾な態度には慣れているようだ。杉山達は嫌な顔などせずに、ソファーから立ち上がると、伊織に一礼し、部屋を後にした。
「…今のは催眠術に掛かりやす人を見極める為にやりました」
田村の説明を聞かなくても、伊織はそれを分かっていた。同じような事を書いていた記事が、調べた中にあったのだ。
伊織は黙ったまま田村を見詰めた。
「…催眠術というのは、全ての人に掛けられるものではありません。掛かりやすい人もいますし、全く掛からない人もいます」
「…あぁ、それで?」
伊織は田村に説明の先を促した。先程は説明を拒んだが、今は聞く耳を持っているようだ。それを田村も感じたようだ。
「催眠術とは簡単には言えば、思い込みを利用します」
それも調べた中にあった。伊織は黙って聞いている。
「テレビなんかで催眠術のショーを見た事はありますか?」
「あぁ」
昨夜見たばかりだ。
「あれは予備催眠と呼ばれるものを予め掛けてから行っているのでしょう。予備催眠で催眠術が掛かりやすい状態にしてあるのです」
予備催眠の事も知っていた。伊織の眉間に皺が寄ってきた。それに田村は気付いた。
田村は言おうとした説明を止め、要所だけを話した。
「…催眠術を掛ける者と、掛けられる者との信頼関係がないと、催眠術は掛かりません」
「信頼関係?」
それは知らなかったようだ。昨夜は三十分程しか調べていない。まだまだ知らない事は多いだろう。
「はい…信頼関係がないと掛けられません。催眠術を心の底から信じていない人にも掛ける事ができません」
「…そうか」
伊織の背中がソファーの背もたれから離れた。前のめりな姿勢で聞くのは、興味があるからだと言われている。伊織は興味が増したのだろう。
催眠術を扱う者は、心理学にも長けている。田村も伊織の変化に気付いた。
「先程、指が付いて驚いていた人は、掛かりやすい人だと思います。しかし、問題があります」
「…問題?」
伊織は眉を顰めた。
「…はい。リラックスした状態でないと催眠術が掛かり難いのです」
田村はそこで言葉を止めた。
「だから、何だ?」
伊織はギロリとした目で田村を見詰めた。
田村は言葉を探している様子だ。しかし、直ぐには見付からなかったようだ。ありのままを話した。
「…先程の様子から見て、あの方は、あなたの前では緊張しているようです」
「俺が居ない方が掛かりやすいのか?」
伊織の顔がより険しくなった。気分を害しているのは間違いないだろう。
「…はい、その方があの方もリラックスできるでしょう」
杉山は不思議そうな顔をして田村を見詰めた。その人差し指同士の先は、本人の意思に反してぴったりとくっついている。
田村は伊織に視線を向け、微笑んだ。
伊織は対象的に冷静な顔をしている。さして驚いていない様子だ。
「催眠術って本当にあるんですね…」
杉山は感慨深そうに頷いた。
「…では一旦、皆様には出ていってもらいましょうか」
田村の言葉を聞き、伊織は杉山達に向かって、手で追い払うような仕草をした。
その不躾な態度には慣れているようだ。杉山達は嫌な顔などせずに、ソファーから立ち上がると、伊織に一礼し、部屋を後にした。
「…今のは催眠術に掛かりやす人を見極める為にやりました」
田村の説明を聞かなくても、伊織はそれを分かっていた。同じような事を書いていた記事が、調べた中にあったのだ。
伊織は黙ったまま田村を見詰めた。
「…催眠術というのは、全ての人に掛けられるものではありません。掛かりやすい人もいますし、全く掛からない人もいます」
「…あぁ、それで?」
伊織は田村に説明の先を促した。先程は説明を拒んだが、今は聞く耳を持っているようだ。それを田村も感じたようだ。
「催眠術とは簡単には言えば、思い込みを利用します」
それも調べた中にあった。伊織は黙って聞いている。
「テレビなんかで催眠術のショーを見た事はありますか?」
「あぁ」
昨夜見たばかりだ。
「あれは予備催眠と呼ばれるものを予め掛けてから行っているのでしょう。予備催眠で催眠術が掛かりやすい状態にしてあるのです」
予備催眠の事も知っていた。伊織の眉間に皺が寄ってきた。それに田村は気付いた。
田村は言おうとした説明を止め、要所だけを話した。
「…催眠術を掛ける者と、掛けられる者との信頼関係がないと、催眠術は掛かりません」
「信頼関係?」
それは知らなかったようだ。昨夜は三十分程しか調べていない。まだまだ知らない事は多いだろう。
「はい…信頼関係がないと掛けられません。催眠術を心の底から信じていない人にも掛ける事ができません」
「…そうか」
伊織の背中がソファーの背もたれから離れた。前のめりな姿勢で聞くのは、興味があるからだと言われている。伊織は興味が増したのだろう。
催眠術を扱う者は、心理学にも長けている。田村も伊織の変化に気付いた。
「先程、指が付いて驚いていた人は、掛かりやすい人だと思います。しかし、問題があります」
「…問題?」
伊織は眉を顰めた。
「…はい。リラックスした状態でないと催眠術が掛かり難いのです」
田村はそこで言葉を止めた。
「だから、何だ?」
伊織はギロリとした目で田村を見詰めた。
田村は言葉を探している様子だ。しかし、直ぐには見付からなかったようだ。ありのままを話した。
「…先程の様子から見て、あの方は、あなたの前では緊張しているようです」
「俺が居ない方が掛かりやすいのか?」
伊織の顔がより険しくなった。気分を害しているのは間違いないだろう。
「…はい、その方があの方もリラックスできるでしょう」
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