殺しの美学

村上未来

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学び

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「神経言語プログラミング?それは人間の認識を変えるプログラムだな?」

 伊織は催眠術とは関係ない記事で読んだ記憶があった。

「そうです。博士が開発したものではないんですけどね」

 花蓮は伊織が知っていた事が嬉しかったようだ。笑顔で頷いた。

「…人間は物事を五感と言語、非言語で記憶している」

 伊織は記憶している神経言語プログラミングに関する記事の一文を口にした。

「その通りです。例えばレモンを見ると、食べた事のある人は、唾液が分泌されます」

 花蓮も知っていたようだ。

「レモンが酸っぱい物だと記憶しているからな。そういった記憶を科学的に塗り替えられるのが神経言語プログラミング…催眠術と通じているものがあるな」

 伊織は静かに頷いた。

「伊織様は催眠術を掛けたいのですか?それなら、神経言語プログラミングをきちんと学んだ方がよろしいですよ」

 ハンドルを握る伊織の横顔を見詰め、花蓮はとびきりの笑顔を作った。

「あぁ、そうだな」

 伊織は珍しく他人からの助言を受け入れた。
 自分に対し、緊張する事もなく、常に柔らかに話す花蓮という人間を無意識の内に受け入れたのかもしれない。他の者とは違うと感じたのだろう。

「…後催眠術とはどういうものなんだ?」

「あっ、説明の途中でしたね。後催眠術っていうのは、何かの拍子に掛けていた催眠術が発動する事です」

 花蓮は目を輝かせた。説明できる事が嬉しいようだ。

「何かの拍子に?」

「はい。例えば、立ち上がると足が動かなくなるって催眠術を掛けます。その時に、この催眠術が掛けられている事を忘れる催眠術を掛けるんです」

「催眠術を複数掛けるって事だな?」

「そうです!さっきは催眠術が解けるのが長い人でも一日って言いましたけど、これには理由があるんです。大抵の人は自発的に睡眠を取ると、催眠術の効果が消えるんです。そして自発的ではなく、意図的に寝らせて、神経言語プログラミングを使い、その浅い眠りの中で後催眠術を掛けるんです!」

 花蓮は少し興奮しているようだ。説明できる事がそれだけ嬉しいのだろう。
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