転生勇者なのに最弱職?──気づいたら神々すら平伏す世界最強でした

たまごころ

文字の大きさ
12 / 12

第12話 裏切り者勇者との再会

しおりを挟む
 薄闇の中で目を覚ますと、焚き火の橙の光が揺れていた。  
 焦げた木の匂いと湿った夜気が肺に染みる。ゆっくりと体を起こすと、ソフィアが眠ったまま祈りの珠を握りしめていた。  
 俺はしばらくその隣で炎を見つめていた。胸の奥がまだ熱い。神級スキル“業火浄滅”を発動した代償で、魂の一部が焦げ付いたような感覚が残っていた。  

 レーヴァの声が頭の奥に響く。  
『命は維持されている。しかし長くその力を使えば、お前自身が神の座へ引きずり込まれる。人の形を失うぞ』  
「……それでも、止められなかった」  
『分かっている。だがもう覚悟を決めておけ。お前の祈りを狙う者たちは、今や人間の中にもいるのだ』  

 その言葉の“人間”という響きに、心がざらりと波立った。  
 まるで何かを示唆するように、風の向こうから松明の明かりが揺らぎながら近づいてくる。  
 リンが斥候に出るより早く、声が響いた。  

「ようやく見つけたぞ、葵!」  

 その声を聞いた瞬間、胸の奥の古傷が疼いた。  
 あの言葉を、どれだけ夢の中で聞きたくなかったか。  
「……リオネル」  

 焚き火が照らしたのは、かつての勇者パーティのリーダー。  
 輝く銀鎧は砂と血に汚れている。背には王家の紋章を刻んだ剣が光り、傲慢と自信をそのまま形にしたようだった。  
 しかしその目には、かつての仲間を見つけた安堵も躊躇もなかった。ただ冷たい敵意だけが宿っていた。  

「久しぶりだな。貴様がまだ生きているとは思わなかった。いや、“しぶとい”の方が正しいか」  
「……お前が最後に俺を見たときの言葉、覚えてるか? 『役立たずの祈祷士はいらない』って」  
「覚えてるさ。その判断は間違ってなかった」  

 リオネルが歩み寄る。  
 その背後には数名の兵がいる。王国直属の聖騎士――つまり、国が俺に警戒を向け始めているということだ。  

「お前を追って王命が下った。『神の名を騙る偽祈祷士を拘束せよ』とな」  
 ソフィアが目を覚まし、震える声で抗議する。  
「間違ってます! 葵様は神々の試練を受け入れ、幾度も人々を救いました!」  
「黙れ。王家の示した勅命は絶対だ。神に仕える者として、抗うことは許されない」  

 リオネルの眼差しには、昔の仲間を見つめる情はもう欠片もなかった。  
 それでも俺は、拳を下ろしたままでいた。  
「戦うために来たのか?」  
「違う。神の座を僭称するお前に“裁き”を与えるためだ」  

 リオネルが剣を引き抜いた瞬間、風が吹いた。  
 剣先から黄金の光が爆ぜ、周囲の岩を焼き砕く。  
 その力に、リンが小さく舌を打つ。  
「おいおい、あいつ……“聖焔剣”を使えるのかよ。国家級スキルじゃねぇか」  

「王に賜った新たな力だ」  
 リオネルが剣を地に向け、宣告のように言い放つ。  
「神の名を借りた祈祷士葵よ、ここで終われ。」  

 動いた瞬間、世界が閃いた。  
 炎の軌跡が目の前を走り、俺の頬をかすめる。  
 身体が勝手に祈りを放つ。  
「祈祷・護輪!」  

 光の輪が展開され、聖焔剣の斬撃を受け止める。  
 火と光が衝突し、爆音が荒野を覆い尽くした。  

「葵!」リンが背後から叫ぶ。「どうするの!?」  
「やるしかない。でも、本気は出すな!」  
「本気出されたら死ぬわ!」  

 皮肉のようなやり取りのすぐ隣で、ソフィアが両手を合わせ祈りを始めた。  
 白い光が辺りに満ち、俺の祈りの陣と融合していく。  
 ――祈祷重奏。  

 レーヴァの声が響く。  
『覚悟はあるか、葵。友を敵とする祈りの重さを背負う覚悟が』  
「あるさ」  

 背中に温度が宿る。  
 かつて追放された痛みが、今や力になる。  

「祈祷重奏・断光連環!」  

 幾重にも重なる光の輪が形成され、リオネルの剣を包み込む。  
 聖焔剣がぎりぎりと音を立て、リオネルが踏み込む。  
「貴様、なぜ立つ! 人の身で神に――!」  
「人だから祈るんだ!」  

 激突。光と炎が一瞬で混じり、見上げる空まで裂けた。  
 周囲の兵が吹き飛び、砂塵の中で二つの影が衝突する。  

 次の瞬間、火柱が収まり、静寂が戻る。  
 地面に膝をついていたのは――リオネルだった。  
 剣は根元から折れ、右腕が震えている。  

「……これが、祈祷士の力ってわけか。あのとき、俺が見下した力か」  
「俺は強くなった。でも、それ以上に変わった。あのときの俺と今の俺は違う」  
「ふん……随分立派になったじゃねぇか。だが――」  

 リオネルが血を吐き、笑った。  
「王国はすでに“祈祷士”を危険視している。神々の名を借りて新しい秩序を作ろうとしてるお前を、放っておくと思うか?」  
「……まさか、王が堕神に?」  
「さぁな。ただ一つ言えるのは、もう誰もお前を“勇者”とは呼ばねぇってことだ」  

 リオネルはそう言うと、満足げに目を閉じた。  
 光の残滓が彼を包み、聖堂から支給された守護の魔法が発動する。  
 彼の身体はゆっくりと消え、王都へ転送されていった。  

 残された空気には、燃え尽きた祈りの匂いが漂っていた。  
 ソフィアが胸元で手を組み、低く祈る。  
「葵様……もう彼とは、敵同士になってしまったのですね」  
「あいつは本当は、悪いやつじゃない。信じる場所を間違えただけだ」  

 夜の風が吹き、焚き火が消える。  
 リンがぽつりと言った。  
「結局あんた、どこまで人を救うつもりなんだよ。敵だらけになっちまうぞ」  
「俺だってわからない。けど祈るしかないんだ。神だろうと人だろうと、迷ってる奴を放っとけない」  

 空を見上げると、星が静かに瞬いている。  
 その光の中に、まだ地の神グラナの温もりが微かに残っている気がした。  
 祈りは、きっと届く。たとえ誰かの敵になっても。  

(第12話 終)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

異世界では地味な俺が、なぜか神々に最愛されて無双してる件

fuwamofu
ファンタジー
平凡な高校生・桐生ユウは、女神の手違いで異世界に転生した。 チートもスキルも貰えず、冒険者登録すらままならない落ちこぼれ……のはずだった。 しかし周囲の異常な好感度、意味不明な強運、そして隠された神格スキルによって、ユウは「無自覚に全能」な存在へと覚醒していく。 気づけば女神も姫騎士も魔王娘も彼に夢中。誤解と崇拝が加速する中、ユウの“地味な日常”は世界を揺るがす伝説になっていく。 笑いあり、胸キュンあり、ざまぁありの最強(なのに本人だけ気づいてない)異世界ファンタジー開幕!

神に無能と捨てられた俺、異世界で無自覚チート無双~気づけば勇者も聖女も俺の下僕になってた件~

えりぽん
ファンタジー
神に「才能なし」と見捨てられた少年カイ。転生先の異世界でも雑に扱われ、最底辺からの生活を余儀なくされる。しかし、彼の「無能」は実は世界の理すら書き換える唯一の能力だった。知らぬ間に魔王を倒し、勇者を救い、聖女に崇拝される──無自覚にして最強、天然チートの異世界伝説が今、始まる。 裏切った者にはざまぁを。救われた者は恋をする。 無自覚系最強主人公・カイの異世界大逆転録。

追放された地味村人、実は神々が恐れる最強存在だった件 〜本人はただの村起こし中〜

えりぽん
ファンタジー
辺境の村で“平凡な村人”として暮らしていた青年リアムは、村を豊かにするための独自魔術を開発していた。だが、目立たぬ努力は「禁忌の力」と誤解され、彼は追放される。落ち込む間もなく、流れ着いた地で助けた少女たちは、次々と国や神族の重要人物だと判明し──。本人はただの村再建を目指しているだけなのに、世界は彼を伝説の救世主だと崇めはじめる。 無自覚最強が巻き起こす異世界大逆転ストーリー。 ざまぁとハーレムと勘違い救国譚、ここに開幕!

『農業スキルはいらない』と追放されたが、魔境の開拓ライフが勝手に世界配信されていた件。聖女や竜が集まり、元仲間は完全に詰みました

たまごころ
ファンタジー
「悪いがクビだ。魔王討伐に『農業』スキルなんて役に立たないからな」 幼馴染の勇者からそう告げられ、俺、アレンはパーティを追放された。 あてがわれたのは、人が住めないと言われるS級危険地帯『死の荒野』。 しかし、彼らは知らなかった。俺の農業スキルが、レベルアップによって神の領域(ギフト)に達していたことを。 俺が耕せば荒野は豊潤な大地に変わり、植えた野菜はステータスを爆上げする神話級の食材になり、手にしたクワは聖剣すら凌駕する最強武器になる! 「ここなら誰にも邪魔されず、最高の野菜が作れそうだ」 俺は荒野で拾ったフェンリル(美少女化)や、野菜の匂いにつられた聖女様、逃げてきたエルフの姫君たちと、にぎやかで楽しいスローライフを送ることにした。 その一方で、俺の生活が、荒野に落ちていた古代のアーティファクトによって、勝手に世界中に『生配信』されていることには全く気づいていなかった。 「え、この野菜食べただけで瀕死の重傷が治った!?」 「主様、強すぎます! ドラゴンを大根で叩き落とすなんて!」 『コメント:なんだこの配信……神か?』 『コメント:勇者パーティが苦戦してるダンジョン、この人の家の庭じゃね?』 これは、無自覚に最強の農園を作り上げた男が、世界中から崇拝され、一方で彼を追放した勇者パーティが没落していく様子を、リスナーと共にほのぼのと見守る物語。

追放された万年雑用、最強神具を拾って無自覚無双~元勇者パーティーを見返したら、なぜか女神たちまで跪いてきた件~

fuwamofu
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係・リオは、役立たずの烙印を押されて追放された。 だがその直後、拾った“壊れた神具”が、なぜか彼にしか扱えない最強の神器だった!? 世界樹に選ばれ、女神たちに認められ、龍王に気に入られ――気づけば敵なし。 無自覚に世界最強となった少年は、かつて彼を見下した者たちへ静かな復讐を果たす。 これは「もう遅い」と泣く者たちを置き去りにする、無自覚最強ファンタジー。

追放された鍛冶師、異世界で最強の神器を作ってしまう ~国を捨てたら聖女と龍姫と精霊王に囲まれた件~

えりぽん
ファンタジー
王国唯一の鍛冶師である青年カイルは、嫉妬深い貴族により「無能」と断じられ、王都を追放される。しかし、辺境で出会った美しい聖女と契約したことで、彼の鍛冶の才が神話級であることが判明!作る武器すべてが神器となり、魔物どころか国すら震える存在に。本人はただ「役立つものを作りたい」だけなのに――いつの間にか聖女、龍姫、精霊王に慕われる無自覚最強伝説が始まる。ざまぁとスカッと展開、上昇ハーレムファンタジー!

RPGのストーリー開始前に殺されるモブに転生した俺、死亡フラグを回避してラスボス助けたら女主人公が現れてなぜか修羅場になった。

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
――死亡フラグのあるモブに転生した。なぜか男主人公の姿で。 王国に孤児院の子供達を殺された少女ミュライトがラスボスのRPG『プリテスタファンタジー』。 物語後半でミュライトと主人公は互いに孤児院出身であることが分かり、彼女を倒した主人公がその死を悲しむ絶望的なエンディングからいわゆる「鬱ゲー」と呼ばれているゲームでもある。 そして、そんなゲームの物語開始前にミュライトと同じ孤児院に住んでいた子供に転生したが…その見た目はなぜか男主人公シュウだった。 原作との違いに疑問を抱くものの、このままストーリー通りに進めば、ミュライトと主人公が戦って悲惨なエンディングを迎えてしまう。 彼女が闇落ちしてラスボスになるのを防ぐため、彼女が姉のように慕っていたエリシルの命を救ったり、王国の陰謀から孤児達を守ろうと鍛えていると、やがて男主人公を選んだ場合は登場しないはずの女主人公マフィが現れる。 マフィとミュライトが仲良くなれば戦わずに済む、そう考えて二人と交流していくが― 「―あれ? 君たち、なんか原作と違くない?」 なぜか鉢合わせた二人は彼を取り合って修羅場に。 こうして、モブキャラであるはずのシュウは主人公やラスボス達、果ては原作死亡キャラも助けながらまだ見ぬハッピーエンドを目指していく。 ※他小説投稿サイトにも投稿中

異世界では役立たずと言われたが、気づけば神々に寵愛された件〜追放された俺は無自覚のまま英雄になっていた〜

えりぽん
ファンタジー
パーティーを追放された青年レオン。 「お前のスキルは無意味だ」と笑われ、全てを失った彼は、ひとり辺境へと放り出された。 しかし、彼のスキル【因果交錯】は、世界の理そのものを操る神級の能力だった。 知らぬ間に神々の寵愛を受け、魔王を圧倒し、気づけば周囲には女神と美少女たちが……!? ざまぁ、ハーレム、最強すべてを詰め込んだ無自覚成り上がりファンタジー開幕!

処理中です...