追放された錬金術師、森の奥で作った薬が最強すぎて貴族令嬢たちが跪いた件

たまごころ

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第6話 貴族令嬢の訪問と、とまどいの接客

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小屋の前に立つと、少女は息を整えながら頭を下げた。  
その仕草は上品で、王都の貴族の血筋を感じさせた。  
レオンは思わず眉をひそめた。森の奥にあるこの辺境に、貴族の令嬢が自ら足を運ぶなどありえない。  

「どうしてあなたがここに? 王都から来たのは分かりますが、こんな森の中まで……」

「レオン様にお願いがあって参りました」  
少女――セリアと名乗ったその令嬢は、真剣な眼差しで言葉を続けた。  
「以前、妹をお救いくださったことは、一生忘れません。しかし今度は、私の国そのものが危機に瀕しています」

「国の危機?」  
レオンは眉を上げた。「ずいぶん大きな話を突然持ち出しますね。俺はただの“追放された錬金術師”ですよ」

「それでも……! 貴方の力が必要なのです」  
彼女の声には焦りと、それ以上に真実味のこもった熱があった。  
レオンは軽くため息をつき、ポコ太と視線を交わした。  

(マスター、いいひとそうだけど、なんかたいへんそう)  
「そうだな。話くらいは聞こうか」

セリアは深く頷いた。  
「王都周辺で急激な魔素の嵐が発生しました。そこに棲む魔獣たちが狂暴化し、街道を封鎖しています。  
錬金師ギルドでは原因不明だと言っていますが、私は見覚えがあるのです。あの時、レオン様が治療に使った転華薬の反応……それと同じ光を見ました」

「……つまり俺の薬と同系統の現象が王都に?」

「ええ。そして……その現象の中心に、ギルドの上層部が関与していると噂されています」

レオンは静かに目を細めた。やはり来たか、と心の中で呟く。  
転華薬の理式は古代魔導書から一部導いた再構築式。  
現代の技法では説明できない力を秘めているが、それを知らぬ誰かが真似た場合――暴走しか起こらない。

「その暴走が、王都を覆ってるという訳か」

「はい。せめて原因を調べたいのです。けれど王の命令もあって、外の者は誰も近づけません。……だからこそ、貴方にお願いに来ました」

彼女の声は震えていた。恐怖ではなく、焦燥の震え。  
レオンは黙って視線を落とし、机の上に置いた薬瓶を見つめた。  
ガラスの中で薬液が淡く光る。これまで静かな暮らしを望んできた。だが――

(マスター、どうするの? いくの?)

「……行くさ。放っておけない。なにより、俺の“失敗作”が元で何かが起きてるなら、ケリをつけなければならない」

ポコ太が嬉しそうに跳ねる。「やったー!」

セリアの顔にも安堵が浮かんだ。  
「ありがとうございます、レオン様……! 本当に……!」

「ただし条件がある。道中で無茶をしないこと。守れないなら足手まといになる」

「ええ、約束します」

その瞬間、彼女の表情がぱっと明るくなった。  
だがその笑みはどこか、王都の空気を思い出させるものだった。  
彼女は間違いなく、上流の生まれだ。慣れてはいけないと分かっていても、あの姿勢にはぎこちない完璧さがあった。

「……その前に、腹が減りましたね。森の空気だけでは生きていけない」

「え?」

「せっかくだから料理でも。旅の支度はそれからです」



昼下がり、小屋の前の火炉には湯気が立ち上っていた。  
レオンが森で拾った野草と卵状の魔獣の実を煮込み、即席の鍋スープを作っていた。  
香ばしい匂いが漂い、セリアは思わず息をのむ。

「これ……とてもいい香りです。まるで宮廷の料理人のよう」

「錬金術で食を扱うやつは多いんですよ。分量を間違えると吹き飛ぶけど」

「吹き飛ぶ?」

「いや、冗談」

(マスター、ぜったいちょっとはほんと)

「黙ってろ、ポコ太」

思わず笑い合う。森を包む空気が少し柔らかくなった。  
スープを一口飲んだセリアが、驚いたように目を丸くした。  
「……口の中で魔力の流れが整いました。体の内側に温かい力が通っていく……これ、ただの料理じゃありませんね?」  

「栄養補給用に少し構成式を混ぜただけです。おいしいなら何より」

「おいしいです。……でも、こんなに穏やかな時間が来るなんて、思ってもいませんでした」  
火の光に照らされるセリアの横顔は、どこか影を帯びて見えた。  
王都の情勢、その責任、そして彼女自身が抱える苦悩。口には出さないが、背負っている重さが伝わる。

「王都では、あなたの立場も危ういのでは?」

「ええ。王家直属の錬金師団が動いています。彼らは“賢者ノ書”の力を独占しようとして……。でも貴方なら、あの暴走を止められるはず」

「信頼が重いな」  
レオンは苦笑した。自分が“失敗作”と呼ばれ、追放された頃には想像もできなかった立場だ。  
人に頼られること、その重さが懐かしいようで、少し怖くもある。

ポコ太が鍋の縁に乗りながら言った。  
(マスター、なんかやさしい顔してる)  

「そうか? 気のせいだろう」

その時、小屋の外で馬のいななきと蹄の音がした。  
レオンとセリアは同時に顔を上げる。  
扉の外には、銀の鎧をまとった男たちが数騎、馬上から覗き込んでいた。  
旗には王都の紋章。見間違えるはずがない。

「……まさか、もう?」

男の一人が声を張り上げた。「辺境の錬金術師、レオン・グレイス殿! 王都錬金師ギルドの命により、あなたの同行を求める!」

セリアが立ち上がり、震えるように言う。「はやすぎる……どうして居場所が分かったの?」

レオンは淡々と答えた。「単純な話です。あなたがここに来るのを、誰かが見ていたんでしょう」

「そ、そんな……」

「落ち着いて。――ポコ太、出番だ」

(おっけー!)

スライムの身体が膨らみ、透明な膜を展開する。  
レオンは軽く杖を振り、魔導書の文様を呼び起こした。  
小屋の裏へと抜ける道が光を帯びる。

「彼らは最初から捕縛が目的じゃない。“実力確認”だろう。このまま戦う気じゃないが、危険は避ける」

セリアがうなずく。「逃げ道は……?」

「森の東。魔素が濃い区域だ。普通の人間じゃ入れないが、俺とポコ太なら問題ない」

外で鎧の音が鳴り、兵が動く。  
レオンは一瞬だけセリアの手を取った。柔らかいが、冷えきっていた。  
「信じます。あなたと一緒に行けば、きっと……」

「後悔しないでくださいよ。これからが本番です」

ポコ太が光を放つ。防御結界が瞬時に発動し、三人の姿を森の深奥へと飲み込んだ。  
その直後、小屋の扉が破られ、騎士たちが雪崩込むが、そこにはすでに誰の姿もなかった。  

風に揺れる鍋の残り香が、温かく漂っていた。  

(第6話 終)
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