最弱だった俺、千年スリープしてたら文明がリセットされてたんだが!?

たまごころ

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第5話 村に現れた古の男

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 その夜――ヴェルナ村は奇妙なざわめきに包まれていた。  
 昼間に森から戻った俺とリーナを見て、村人たちは不安げに集まっていた。  
 それもそのはずだ。俺たちは森の“禁域”に踏み込み、誰も近づかぬ古い洞窟から光を上げて帰ってきたのだ。  

「おいリーナ、あの光は何だ? まさか祠を壊したりしてないだろうな!」  
「ち、違いますよ! アレンさんが……!」  
 リーナが慌てて説明しかけるが、村長らしき白髪の老人が歩み出て手を上げた。  
「落ち着きなさい。話を聞こう。……旅の方、あなたは何者かね?」  

 村長の目は鋭く、ただの老人ではない気配があった。  
 彼の背後では村人たちが警戒の視線を向けている。  
 俺は一歩前に出て、真っ直ぐに目を見返した。  

「俺の名はアレン。王都の学者……の末裔のようなものと思ってください」  
 嘘ではない。魔導院の記録が忘れられた以上、今の世界ではその表現が最も無難だった。  
 だが、村長はすぐには信じない様子だった。  

「学者だと? この辺りで見たことのない服を着ておるし、腰の石は不吉な光を放っていた。まさか神を侮る異端者ではあるまいな」  
「異端者?」  
「忘れたというのか。森の禁域に入った者は、皆、祟りを受けると古くから語られておる。……そなた、死を恐れぬか?」  

「恐れない」  
 即答だった。  
 村人たちが息を呑む。  
 俺は視線を外さず、低く続けた。  
「森の奥に眠っているのは“罪”の記録だ。だが、それを放置すれば、いつかこの世界は再び同じ過ちを繰り返す。俺はそれを止めたいだけだ」  

 そう言うと、村長の表情が一瞬だけ動いた。  
 沈黙のあと、彼は深く息を吐いた。  
「……リーナ。この男を泊めてやりなさい。監視は続けるが、客人として扱え」  
「はいっ!」  
 安堵の笑みを浮かべたリーナの顔に救われる。  
 どうやら、追い出されるのは避けられたようだった。  

*  

 夜更け、リーナの家の灯りが落ちるころ。  
 俺は窓際でひとり、古い羊皮紙を広げていた。  
 昼間、洞窟で見つけた記録の断片だ。魔導院の符号がかすかに残っており、表面の魔法式が薄く反応する。  
 解析を進めると、微弱な映像が再生された。  

【時環炉 研究進捗報告 第七期】  
【内部暴走により、王都中枢に試験的エネルギー漏出】  
【制御不能、封印手順を発動――】  

 そこで途切れる。  
 俺は肩を落とした。  
 同時に思考の隅で、あの日の記憶が蘇る。  
 追放され、塔で一人眠りについた夜。  
 もし俺が王都に残っていたら……この暴走を止めることができただろうか。  

 自責の念が胸を締めつける。  
 だが、うつむいたその時――窓の外で何かの気配を感じた。  
 風ではない。  
 人の、いや、もっと獣のような静かな動き。  

「……誰だ?」  

 外に出ると、月明かりの下、黒ずんだ影が動いた。  
 背を丸めた人影。だが、その腕と脚は異様に伸び、目だけが赤く光っている。  
 人間ではない。  
 まるで魔力に侵食された廃人――魔導実験事故で見た“魔障者”のようだった。  

「そんなものが、この時代にも……?」  

 影が俺を認識すると同時に、喉の奥から低い唸り声を上げ、飛びかかってくる。  
 速い。村の警備程度では到底対応できない早さだ。  
 反射的に詠唱を口にする。  

「エア・シールド」  

 瞬間、空気の壁が展開し、突進を受け止める。  
 だが、魔素が薄いこの世界では完全な防御は無理だった。  
 衝撃で距離を取りながら、次の術を発動する。  

「バインド・ライト」  

 一筋の光が地面に走り、敵の足元を縛る。  
 拘束に成功したものの、相手の体が黒い霧に包まれ、数秒後には影のように溶けて消えた。  

「自己消滅――いや、魔素崩壊? こんな現象、昔でも見たことがない」  

 戦闘音に驚いた村人たちが次々に集まってくる。  
「な、何があったんですか!?」と駆け寄るリーナに、俺は静かに首を振った。  
「問題ない。ただの“迷える魂”だ」  
 虚勢を張りながらも心の中では焦りが募る。  
 今の世界に魔法が存在しないなら、あの異形は何を源にして動いたのか?  

 村長が息を切らして現れた。  
「なんの騒ぎだ、アレン殿!」  
「森から何かが来た。もう一度、封じの祠を調べさせてくれ」  
「……ふむ。明朝、わしも同行しよう」  

 そう言って村長は去っていった。  
 その背中には、ただの老人とは思えぬ気配が漂っていた。

*  

 翌朝、夜露が草を濡らす。  
 森へ向かう途中で、リーナが不安げに問う。  
「昨日の“それ”、魔物なんですか?」  
「おそらく違う。――かつて王都の人間が、魔力を暴走させたものの成れの果てだ」  
 リーナが息を呑む。  
「ひ、人間が魔物に……そんな……」  
 俺は頷く。  
「千年前の災厄の一端だ。あの時代の残滓は、まだこの地に染みついている」  

 やがて村外れの石碑に辿り着く。  
 村長が杖を突きながら言った。  
「これが我らが言う“森の神”の碑じゃ。その下に洞窟がある」  

 石碑に刻まれた文様を解析すると、魔導封印の構成と一致していた。  
 だが一部には、近年誰かが削ったような跡もある。  
「封印が一度解かれている……。昨日の異形は、これが原因だ」  

 リーナと村長が表情を曇らせる。  
 俺は小さく息を吐き、指を鳴らした。  

「インサイト・コート」  

 視界が青く染まり、魔素の流れが見える。  
 地中に赤黒い靄が渦巻き、その中心に淡い結晶体が埋まっていた。  
 触れた瞬間、頭に直接、声が響いた。  

――アレン・フォルティス。  

 誰も呼んでいないのに、確かに俺の名を呼ぶ声がした。  
 周囲の音が消える。  
 次いで聞こえたのは、微かな囁き。  

――世界ハ、まだ終ワッテイナイ。  

 幻聴のような声が消えると同時に、光が弾けた。  
 俺はとっさにリーナを庇い、数歩後退する。  
「くっ……!」  
 煙が晴れた先で、空に一枚の光の文が浮かび上がっていた。  
 それは、魔導院の古い印章――“王の証文”。  

 村長が驚きに目を見開く。  
「そ、それは……建国王アラステアが遺した聖印では……!」  
 俺はその光をじっと見つめた。  
 額の奥で、かつて眠っていた魔導刻印が微かに反応する。  

「やはり、この地は王国の中心に近かったのか」  

 小さく呟いた俺の言葉に、風が吸い込まれるように静まる。  
 リーナが怯えた声で尋ねた。  
「これから、どうするんですか……?」  

「決まっている。――この封印の正体を突き止める。そして、“理”を取り戻す」  

 最弱の魔術師として追放されたはずの俺が、千年後の世界で再び理に挑もうとしていた。  
 その瞬間、天空を裂くように遠雷が響いた。  
 まるで新しい時代の始まりを告げるかのように。
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