最弱だった俺、千年スリープしてたら文明がリセットされてたんだが!?

たまごころ

文字の大きさ
11 / 28

第11話 未来の王都へ

しおりを挟む
 天の書庫で得た情報は、俺たちの旅の行方を決定づけるものだった。  
 王国の滅亡は、時環炉の暴走だけが原因ではない。  
 炉を通して“異なる理”を侵入させた存在――神を名乗る高次存在が、世界の基盤そのものを書き換えた。  
 そして、それを監視・制御する「代理者(アポストル)」が、各地の魔導施設に散らばって眠っているという。  

 つまり、俺たちが封じた魔導炉の奥では、まだ“代理者”が完全に消滅していなかった。  
 放置することはできない。  
 そして、その代理者の中枢を管理しているのが、幻の都市――“未来の王都アストレイア”。  

「これから、そこを目指すのね。」  
 リーゼの言葉に、俺は静かに頷いた。  
「そうだ。あの天の書庫から落ちてきた経路情報を解析した結果、王都はこの大陸の北方――大峡谷を越えた地下層に存在する。」  
「地下に王都……空を飛ぶ書庫と対をなす構造なのね。」  
「おそらく。上に知識、下に理。……王国は世界全体を“ひとつの生命”として造っていたのかもしれない。」  

 リーナが地図を覗き込みながら不安そうに眉を寄せる。  
「でも、そんな遠くまで行くの? ここから北は、誰も住んでない荒地って聞いたよ。」  
「確かに道は険しい。」  
 リーゼが短く答える。  
「しかし、放置すればまた封印が破られる。私は評議会に報告した上で少人数調査を進言するつもりだ。」  
「……ということは、行く気、なんだな。」  
「当然だ。あなたが行くなら、私も同行する。あの炉で見た“光の影”を見過ごせない。」  

 リーナが深く息を吐いた。  
「結局、私も行くことになるんですよね?」  
「危険だ。村に残ってもいい。」  
「嫌です。だって、今さら普通の畑仕事に戻れる気がしません。」  
 リーナの笑顔に、俺とリーゼは思わず顔を見合わせ、苦笑した。  
「君には勝てそうにないな。」  

*  

 三日後、俺たちは村を発った。  
 馬車などないため、徒歩と転移装置を繋ぎながら地道に進む。  
 道中、荒廃した都市の跡をいくつも見た。  
 縦に裂けた塔、崩れた橋、そして地面に半ば埋もれた巨大な魔導炉の残骸。  
 どれも千年前の遺物。  
 「世界の理」が崩れた後の無残な傷跡がそこかしこに残っていた。  

「まるで、時間が止まったままの墓場ね。」  
 リーゼの言葉に、俺は頷く。  
「理が消えた世界の姿だ。魔導エネルギーを失い、文明が停止した。……人々は、それでも地上に戻り、生き直した。」  
「千年、か。長いようで短い。」  
「人の記憶は儚い。だが、理は形を変えて回帰する。——君の祈りも、まさにそれだ。」  

 数日をかけて北の大峡谷へ到達した。  
 目の前に広がるのは、天まで裂けるような巨大な溝。  
 底は霧で覆われ、深ささえ見通せない。  
 リーナが身を乗り出して覗き込み、青ざめた顔で言った。  
「ここを……降りるの?」  
「正確には、“下に転送する”だ。」  
 俺は掌の魔導石を起動した。  
 光の輪が足元に展開され、風が渦を巻く。  

「この装置はアストレイア遺跡の進入用ゲートだ。千年前の理論を組み直して復元した。理論上は安全だ。」  
「理論上?」リーゼが眉をひそめる。  
「……ほぼ安全だ。」  
「その“ほぼ”が一番信用できないのよね。」  

 短いやり取りの後、俺たちは同時に転送陣に足を踏み入れた。  
 光が弾け、そして落ちる。  
 ——落ちる、というより、重力の感覚が反転し、全身が裏返るような奇妙な感覚に囚われた。  
 視界に幾千もの光の階層が流れ、文字列のような紋章が通り過ぎていく。  
 そのすべてが俺たちを“未来の王都”へ導いているのだと理解した。  

*  

 着地の衝撃はなかった。  
 代わりに、重い冷気が肌を刺す。  
 視界を上げると、そこには、崩壊したはずの王都が姿を変えて息づいていた。  
 空ではなく、地の底に浮かぶ光の都市。  
 無数の結晶塔が逆さに伸び、天井には巨大な魔導炉の心臓が青く瞬いている。  

「……これが“アストレイア”か。」  
 俺は息を呑んだ。  
 千年前、地上で見た王都よりも広大で、そして不気味に静かだった。  
 床に刻まれた古代魔法陣はまだ機能しており、建造物は光の霧に包まれている。  

 リーナが小さく震えながら言う。  
「人が……いない……?」  
「いや、違う。」  
 リーゼが剣に手をやり、周囲を警戒した。  
「何かが、動いている。」  

 その声を合図に、足元の床がうごめき、無数の影が立ち上がった。  
 灰色の人影。顔も表情もなく、まるで記録映像が具現化したような存在。  
 人ではない。情報の残滓が、形だけを保って動いているのだ。  

「記録生命体(メモリー・レイス)か。」  
「記録……?」  
「この街そのものが“記録装置”の構造なんだ。今見えているのは、住民の記憶だ。」  
 リーナの目が虚ろな光を追う。  
 彼女のすぐそばを、古代の商人らしき幻影が笑いながら通り過ぎた。  
 声もなく、ただ再生を繰り返して消える。  

「こんなに綺麗なのに……悲しいですね。」  
「ああ。時間が止まった彼らは、永遠にこの風景を歩き続ける。」  

 しかし、安息は長く続かなかった。  
 耳の奥に低い音が響く。地響き……いや、心臓の鼓動のような共鳴。  
 空を見上げると、青白い霧が一箇所に集まり始めていた。  
 そこから降り立ったのは、人型の光の影。  

 その姿は明らかに人間のものだったが、輪郭が定まらず、仮面のような顔をしている。  
 胸部には、天の書庫で見た紋章と同じ“環の印”。  

「……アポストルだ。」俺は息を詰めた。  
「代理者……神の使徒。」  
 リーゼが剣を構える。  
「まだ目覚めていないはずじゃ?」  
「俺たちがここに来たことで、認識されたんだ。侵入者として!」  

 光の影がゆるやかに手を広げる。  
 声ではない音が、頭の中に直接響いた。  

――理ノ背離者、アレン・フォルティス。再接続ヲ要求ス。  

 再接続。それは、時環計画当時、俺が拒んだ“認識統合”の言葉。  
 あの時、神々はすべての意識を一元化しようとした。  
 世界を救うためと称して、個を消し去る暴力だ。  

「お断りだ。俺は再び同じ過ちを踏まない!」  
 詠唱が自然と口をついた。  
「アース・ランス!」  
 地面が裂け、光の槍が一直線に走る。  
 だがアポストルは手を上げるだけでそれを無効化した。  
 衝撃波が逆流し、俺の体が吹き飛びそうになる。  

「アレン!」  
 リーゼが駆け寄り、剣を抜いた。彼女の印章が光り、空間が震える。  
 アポストルの動きが一瞬止まった。  
 その隙を突いて、俺は立ち上がる。  
「リーゼ、祈りの式を! 今しかない!」  
「了解!」  

 二人の詠唱が重なる。  
 俺の理術と、彼女の祈りが融合し、青と金の魔法陣が重なり合った。  
「時の理よ、聖の理よ、過去と未来を交差せし刹那――封じよ!」  

 閃光が爆ぜ、空間が白く塗りつぶされた。  
 光が収まった時、アポストルの姿は消え、周囲の幻影も全て止まっていた。  

 静寂。  
 長い沈黙を破ってリーゼが言った。  
「……勝ったの?」  
「いや、眠っただけだ。奴はこの都そのものの記憶だ。完全に消せはしない。」  

 それでも、彼女の剣は震えていた。  
 リーナが駆け寄ってくる。  
「大丈夫……? 二人とも……!」  
「なんとか、な。」  
 俺は空を見上げる。青く輝く都市の天井――まるで夜空そのものが地の底に移されたかのようだった。  

「ここが、未来の王都。すべての始まりであり、終わりの場所。」  
 リーゼが静かに呟いた。  

 遠くで小さな鐘のような音がした。  
 それは、この都市がまだ生きている証だった。  
 俺たちはその光の中に立ち、再び歩き出す。  

 次に待つのは、王国の亡霊か――それとも神々の記録か。  
 いずれにせよ、この旅はもう後戻りできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

​『追放された底辺付与術師、実は【全自動化】のチートスキル持ちでした〜ブラックギルドを追い出されたので、辺境で商会を立ち上げたら勝手に世界規

NagiKurou
ファンタジー
​「お前のような、一日中デスクに座って何もしない無能はクビだ!」 国内最大のギルド『栄光の剣』で、底辺の付与術師として働いていたアルスは、ある日突然、強欲なギルドマスターから追放を言い渡される。 しかし、彼らは知らなかった。ギルドの武器の自動修復、物流の最適化、資金管理に至るまで、すべてアルスの固有スキル【全自動化(ワークフロー構築)】によって完璧にシステム化され、回っていたことを。 「俺がいなくなったら、あの自動化システム、全部止まるけど……まあいいか」 管理権限を解除し、辺境へと旅立ったアルス。彼は自身のスキルを使って、圧倒的な耐久力を誇る銀色の四輪型重装ゴーレムを作り出し、気ままな行商を始める。 一度構築すれば無限に富を生み出す「全自動」のチートスキルで、アルスの商会は瞬く間に世界規模へとスケールしていく! 一方、すべてを失ったギルドは、生産ラインが崩壊し、絶望のどん底へと突き落とされていくのだった……。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

処理中です...