ドラゴン&リボルバー

井戸カエル

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 テレビから世紀の大発見だと騒がしいニュースが流れている。
テレビ〔続いては世紀の発見となった2つのニュースです。最初は先日、発見された遺跡について現場から中継です。〕
書類を出してからずいぶんと経つが、未だに名前は呼ばれない。ふと、ズキンと痛みが走り左腕を見る。いや、左腕があったところを見る。何もない。まるで最初からなかったかのように何もない。「幻痛か‥」テレビは相変わらず騒がしい。

テレビ:〔教授、ではこの遺跡はこれまで見られたどの文明や遺跡とも異なるということでしょうか?〕
〔はい、しかも興味深いのは同じような遺跡が地中海とカリブ海にある島で発見されたことです。しかも、まだ詳しい結果は出ていませんがいずれも同じ文明のものである可能性が高いということです。これは人類史の歴史を大きく書き換える可能性があります。〕

 名前が呼ばれて狭い個室に入っていくつかの質問に答えた。目の前にはスーツを着た男女がいて、男のほうはパソコンで記入作業をしている。
女性面接官:「では最後に多大な貢献をされた方に失礼とは思いますが、参加された作戦や開戦前の事項においては守秘義務が生じますので念のためサインをお願いします。」
「今さら、恨み言を言うつもりはないよ。」
話しながらサインをしているとパソコンを操作していた男の目線が腕と包帯を巻いたミイラのような顔に向いている気がした。


 駅の改札前に置いてある大型モニターからは大きな文字で<二つの世紀の発見>とテロップが出ている。モニターには発掘現場の映像から潔癖そうな男が研究室でインタビューを受けるところに変っている。

モニター:〔では、次にノーベル賞が確実ではないかという発見をされた博士にお話を伺います。この発見は簡単に言うと超能力が証明されたということでいいのでしょうか?〕
〔簡単に言えばそうですね。わかりやすく説明すると人間がある特定の粒子を感じたり、人によっては第六感や第三の目と呼ばれる現象を使えるということです。〕
〔すごいですね。ゆくゆくはアニメの魔法のようなことができるようになるんですね。〕
〔そうですね。この粒子の濃度が高ければあるいはと言った感じですが〕

待ち合わせに遅れた友達が悪びれもせずに「ごめんごめん」と謝りながら来た。今日は養護施設で仲のいい友達とその弟と一緒に買い物に来た。電車内で座りながら乗り込んでくる人を見ていると、入り口に寄りかかっている男の人が目に入った。その瞬間、私はその姿を見て固まってしまった。頭を覆い隠すように巻いてある包帯とだらんとした左腕の袖が目に入った。


○車内
友人の弟:「あの人、何で包帯巻いてるのかな?」
友人  :「こらあんまりじろじろ見ないの!」
私   :「たぶん大陸で戦った兵隊の人じゃないかな…」

そう、大陸での戦争が一応の終結を迎えたのはつい最近だ。私には何が原因で戦争になったのかはわからない。ただ、細菌兵器や最後には核兵器まで使われた戦争は多くの犠牲を出して終わった。今もテレビではさっきの速報が終わったあとに戦場の悲惨さを伝えるニュースで溢れている。終結してもなお問題は山積みで、戦災で負傷した人や傷痍軍人の問題はこれから向き合わなければならないことだった。
もし、私が同じような立場で戦場に行っていたなら、顔の傷を気にしたり、理不尽な親や環境を恨まずにいれたのだろうか?そんなことを考えながら、自然と左ほほにある傷を触っていた。電車は地下に入り…そこで私の意識は途切れた。

激しい揺れに轟音と叫び声が聞こえ、包帯を巻いたあの人が私なんかを庇ってくれた。
なぜだろう、あの人はひどく悲しそうな顔をしている。「……私なんかのために…ぁ」

俺は最後の時をおぼろげにしか覚えていない。乗っていた電車が地下に入るときに事故かテロで生き埋めになったこと。何人かの生存者をわずかに見えた入り口に誘導したが、崩落時に女の子を庇おうとして鉄筋か何かが胸に刺さって死んだこと。赤黒くボロ雑巾のような包帯まみれの体を起こしながら、死ぬ間際に女の子へ一言「すまない。」と言おうとしこと。そして、最後に彼女は古傷のあるきれいな顔で、優しく微笑んで何かを俺に言っていた。あの時、彼女は何を伝えようとしたのだろう…

 あの地下で最後を迎えた後に俺には不思議な出来事が起きた。体を何か明るいものが駆け巡り目が覚めた。目に写ったのはきれいなブロンドの髪をした女性が笑顔を向けていた。その隣には黒髪で短髪のがっしりとした体格の男がいた。男は泣いた後ように目を腫らしていたが、うれしそうに笑っていた。今が人生で一番の幸福な時だというように。その姿を見て思わず俺は声を出していた。なんていい日なんだろう。まるで祝福されているかのように本当に幸せだ。

死後に目覚めた後は漫画や小説のようにあの世や神様の前ではなかった。赤ん坊のころはおぼろげにしか覚えていないが、成長するにつれて微睡みから目覚めるように意識がはっきりとしていき、徐々に前世の記憶も蘇った。10歳くらいになると体の違和感はなくなり、完全に前世の記憶を取り戻していた。そして、周囲の環境を見たり話を聞きながらわかったことは、ここは前世の世界とはまったく異なる漫画のような剣と魔法の世界だということだった。また、人間・エルフ・ドワーフといった種族が住み、前世と異なる様々な生物や魔獣がいることを知った。そして、この世界に転生し、「イチカ・バルクート」という名前を貰い十数年が過ぎた。転生した場所は恵まれた家庭と土地で、貧しくはないが裕福でもないごく一般的な生活を送れている。


○ある朝
 ある朝、朝日がまだ昇らず暗いうちにイチカは目覚めた。転生してから何度も同じ夢を見ることがあった。
イチカ:「…う~ん、朝か…」
(また前世のあの瞬間の夢だったな。あの女の子はなんと言おうしたんだろう。しかし、何で最近になって夢にでるのか?不吉の前触れか?)
「何か物語が始まるのでは?……転生してまで中2病とは…起きよ。」
ポリポリと頭をかきながらベットから出た。

イチカはまだ暗いうちに顔を洗い、外で深呼吸をした。そとは木に囲まれ喧騒とは無縁の様子だ。清清しい気分でいると後ろから声を掛けられた。振り向くと金色の髪を後ろに束ねた母親のティアが立っていた。
ティア :「おはようイチカ、早いわね。」
イチカ :「おはよう母さん。目が覚めてね。朝ごはん代わりに作ろうか?」
ティア :「ありがとう。でも今日はリーナが作るって言ってたから、代わりにアーサーを起こしてくれる。」
イチカ :「…わかった。」
ティア :「そんな不安そうな顔をしないで。」

イチカは二階へ行き、自室の隣部屋で寝ているアーサーを起こすため名前を呼ぶ。
イチカ :(やっぱ双子だけあってリーナと寝顔がそっくりだな。アーサーが髪を伸ばしたら、どっちかわからなくなる。…こんなこと言うとリーナに殴られるか。しかし、うらやましいくらいに二人とも金髪で青い目だもんなぁ。)
「アーサー、起きろ!朝だぞ。起きろー」
アーサー:「ん~おはぁよう。」
イチカ :「起きたか。髪ボサボサだから顔洗ってこい。」
アーサー:「わかった…」
イチカはアーサーを起こした後に一階に下りると、どたばたとキッチンが騒がしくなっているのを気にしながらリビングの席に着いた。リビングには浅黒い肌で戦士然とした体格の男が座っていた。男はイチカの父親でありこの家の主のゲイルだった。先に席に着いた父親のゲイルがそわそわとキッチンの方を気にしていた。
イチカ:「親父、おはよう。そんなに気になるなら、見に行ってみたらいいじゃないか?」
ゲイル:「おはよう。朝から娘の反感を買いたくはない。こういう時に気が利く俺に似た優しいイケメンが見てくれたらなぁ」
イチカ:「…生憎イケメンは見当たらない。母さんはどうしたの?」
ゲイル:「母さんはさっきまでキッチンにいたが、今は花壇に水をやっているだろうな。優しいお兄ちゃんていいと思うけどな。」
イチカ:「残念な何かが散乱する場所に送り出すのが父親ですか。」
ゲイル:「これ以上かわいそうな残骸を増やすわけにはいかないだろ。それを止めるのも兄の務めじゃないか?」
イチカ:「いや、それこそ間違いを正すのは父親の」
ゲイル:「いやいや、それは優しい兄の」
イチカ・ゲイル:「……」
アーサー:「二人ともおはよう。」
イチカ・ゲイル「いたぁぁぁ!この惨劇を止める英雄がっ!」
アーサー:「えっ!なになに!?」


○キッチン
「「また一つまた一人と散っていった。この惨劇を止めるべく一人の英雄が現れた。」」
「「英雄が現れた。」」
「「現れたって言ってんだろうがぁぁ!」」
アーサーとイチカはキッチンを覗きながら話をしている。この残念な状況を作り出した本人はいないようだ。
アーサー:「いやいや無理だよ。この惨状を止めるんだったら、本人に伝えた方がはやいよ。」
イチカ:「男には理屈じゃなく、黙って手を貸した方がいい時もあるんだよ。なっアーサー。」
アーサー:「いや。なって言われても、リーナに言おうよ。」
イチカ:「こんな残念な状況でリーナに言えるわけないだろ。双子ならあの残念な野菜?やさいかな?飛び散ってわかんねーけれども。あれを助けてやれよ。」
アーサー:「弟でもここまで残念だと助けようがあっ!」
ガンッとアーサーは後ろにいたリーナに頭を殴られた。リーナは長い髪を後ろに纏めて、エプロンをつけている。
リーナ:「二人して残念だの何だのと、うるさい!」
アーサー:「叩かなくてもいいじゃない。」
リーナ:「それに今回はちゃんと成功してるわよ。ほら、ちょうど二人分あるから。」
リーナはキッチンから緑にも黄色にも見えるものを皿に盛って、自信満々な顔で持ってきた。その瞬間、二人ともすさまじい速さでキッチンと反対に動きだし、アーサーは咄嗟にイチカの腕を掴んだ。
イチカ:「はっ離せアーサー!ここは兄を行かせてくれ!」
アーサー:「いやだぁ!兄さんだけ行くなんてずるい。最初に兄さんがあれを処理してよ。」
イチカ:「無理を言うな。兄はこの先も生きねばならんのだ。」
リーナ:「何が!アレよ!」
アーサー:「うぶっ!」
二人のやり取りを見て怒ったリーナは、皿にあったものを無理やりアーサーの口の中に入れた。
リーナ:「ほら。今回はちゃんと食べられるでしょ!大げさに騒がなくっても、まだあるから。」
イチカ:「アーサー…アァーサァー!! …待て。早まるな。これ以上、罪を重ねてどうするうぶっ!」
その後、二人の男は廊下で発見された。二人ともとても満足そうに悟りを得たような顔をしていたとゲイル氏は語る。


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