【R18】あなたには帰る場所がある。だから、愛しているとは言えない。

おうぎまちこ(あきたこまち)

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5 4人の邂逅

58 ミリー




 明るい日差しが眼裏を刺激してくる。
 ゆっくりと瞼を持ち上げると、ぼんやりとした視界が明瞭になっていく。そんな中、誰かの視線を感じた。
 そばにいる誰かの髪が赤いことがはっきりと分かる。

(……アイザック……?)

「目を覚ましたのか?」

 だが――聞こえてきたのは目当ての人物に比べて、調子が軽い声調だった。

「……バッシュ……か」

 紅くて短い髪をした幼馴染の青年の姿がくっきりと像を成す。

「アイザックじゃねえからって、そんなに機嫌を悪くするなよ……ミリー」

「……別にそんなんじゃないけれど……」

 どうやら救護所の中の個室のようだ。
 簡易的な椅子の上に座ったバッシュが、こちらを見ながらつぶやいた。

「ミリー、お前の男の好みがアイザックなのは意外だったな……」

「え?」

「まあ、お前が接してきた男も俺ぐらいなもんだったしな……悪い男に騙されるから俺に似た髪の色の男には気をつけろって、兄ちゃんは言って聞かせてたはずだが……特に都会から来たやつとか……」

「バッシュ兄さんが言っても仕方ないわよ……」

「お前が気を失ってる間に色々大変だったんだぜ……」

「そうだ、アイザックとマリーンさんは? それに今日はもう平日?」

 ふと――異動の話が出ていることを思いだした。
 ちょうどその頃、近くで赤ん坊の泣き声が聞こえ始める。
 ふと、バッシュの近くを見ると揺りかごがおいてあることに気づいた。

「うおっ、泣き出したな、ほらほら、泣き止め」

 バッシュが赤ん坊を抱きあげ、泣き止ませようと必死だ。
 しばらくすると声は小さくなっていき、きゃっきゃっと笑いはじめた。

「見れば見るほど、その赤ん坊、バッシュ兄さんにそっくりね」

「ミリーもそう思うか?」

 そうして彼は嬉しそうにほほ笑んだ。

「神様ってのは俺に対してとことん意地悪だって思っていたが――たまに粋な計らいをしてくれるな……」

 マリーンさんにアイザックとは体の関係がなかったのだとしたら――暴漢に襲われただとか、他の異性と不純異性交遊に及んだとかでなければ――子種がないと言われていたバッシュの子どもになるのだろう。

「まあ、誰の子であろうと……マリーンの子は俺の子だ……」

 ふと聞いて良いのかわからなかったが、聞いてみることにした。

「バッシュはマリーンさんのことが好きなの?」

「え? ああ」

「どうして?」

 ぶしつけな質問だっただろうか――。

 だが、バッシュはぽつぽつと話し始めた。

「ミリー、お前は妹枠だから、話が変わるが……俺がかかわってきた女達ってのは、皆自分のことしか考えてないようなやつばっかりだった。それこそ、田舎都会関係なく――だが、マリーンは頭は弱いが、言い方を変えれば純真な女だった」

 バッシュは続ける。

「俺と同じように、自分には価値がないと思い込んでいたあいつが、俺と話したりすると嬉しそうに笑ってくれるんだ……傷のなめあいだったかもしれないが――俺の心はひどく満たされたよ」

 バッシュがマリーンさんの話をするとき、ひどく愛おしそうな表情を浮かべていた。
 この幼馴染がこんな顔をするのかと、別の人物のように感じるほどに――。

「違法薬物使用なんかの問題もあるし、まだ情緒も不安定だから。今は警吏のところにいて、戸籍上は夫のアイザックが対応してくれてる」

「そうなのね……」

 マリーンさんの様子を見れば、おそらくはアイザックと離縁して、バッシュと今後はともに生きていくのだろう。

 そうなれば、私は――。

 
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