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6 求めた光の先へ
60 ミリー
僻地から王都に召還され、おおよそ一年の時が経ち、再び夏を迎えた。
この一年を振り返るに、新たな場所で土地や人に慣れるのに一生懸命になっていたら、いつの間にか時間が過ぎ去ってしまっていたというところだった。
騎士は主に仕え、領民を守る職業だ。
人々を助ける仕事と言えば聞こえが良いし、時として過剰に持ち上げられて取り上げられることもある。けれども、実態としては――警備や取り締まり、魔物狩りに人探し――と、地味な業務がほとんどだ。
それに、どれだけ努力して貢献しても感謝されることすらない日々が続く時さえある。
貴族達の思惑が絡んで振り回されたり、どれだけ民たちに尽くしたとしても罵倒されることも多く、そんな時は気が滅入って仕方がなくなる。
それでも、多少の衝突などもあるものの新たな同志たちと意気投合していくこともあり、やりがいや充足感を覚えながら、王都での任務に従事する毎日を送っていた。
そうして、現在――。
私はと言えば、馬車が停留している大門の下へと向かっていた。
真上にある太陽がじりじりと私の肌を焦がしてくる。
途中、木々の緑の合間を縫って歩く。
夏も深まってきており、所々差し込む陽が眩しくて仕方がなかった。
(アイザックとは、マリーンさんとの一件以来会っていない……)
全てが解決しそうだったというのに去り行く私のことを――第三者が見れば、愚かだと思ったかもしれない。
あのままならば、愛するアイザックとそれなりに祝福されて幸せになれたかもしれない。
だけれども――自分自身に恥じない人生こそを私は選んでしまった。
これから先、どういう人生を歩むのかは分からないが、自分自身を信じて生きていくためにも――。
(それに――あの時立ち去って良かったと思っている)
この一年間、僻地で任務を続けているだろう、アイザックとは一度も手紙などのやり取りもしていない。
(アイザック、元気にしているかしらね……)
夏のじりじりと迫る日差しが、アイザックへの恋情を思い起こさせてくる。
兄としか認識していなかったバッシュ以外とは、ほとんど異性と接したことはなかった。
仕事を覚えたてだったこともあり、優しく接してくれた彼に惹かれたのだろうか――?
初めての恋だったからこそ――自分自身の信念を見失いそうになるほどに、彼に体を委ねてしまったのだろうか――?
(いいえ、それだけじゃない……)
何か辛いことがあった時、彼がくれた優しさが騎士として働く自分にとっては支えになっている。
一度だけでも、不義や罪を犯したら、それだけで永遠に責め苦を受け続けないといけないのだろうか――?
どうしようもなく誰かを愛した自分のことを否定したまま生き続けることで、どんどん心が蝕まれていくような――。
そんな感情に悩まされる時もあった。
だけれど――確かにあの頃抱いた感情は――彼を愛しいと思う心は、私の胸の中にある真実だったのだ。
もし、彼の妻が死んでいたのならば、後味が悪い結果になっていただろう。
だけれど、彼女を救えたことで――それが罪滅ぼしになるのかは分からないが、おかしなわだかまり自体は胸に残すことはなかった。
ただ、ちょっとした胸のしこりは残ったままだけれども――。
きっと――様々な立ち位置で、置かれた状況で――誰かをどうしようもなく愛してしまったことは罪ではない。
最初に共に戦ってくれた彼との友情を育んだ上で――優しい彼を愛せたからこそ、今、こうやって騎士を続けられている。
――誰かに命が燃え尽きそうなほどに深い愛を向けることができたからこそ――。
――だからこそ、どんなことがあっても、自分自身を見失わず、芯の通った信念と矜持を胸に――騎士として戦い続けることができるのだから。
そんなことを歩きながら歩いていると、前方から親子の姿が見えた。
母親と父親と最近歩き始めたぐらいの子どもの三人連れだ。
「ミリー! ミリーじゃないか!」
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