【R18】あなたには帰る場所がある。だから、愛しているとは言えない。

おうぎまちこ(あきたこまち)

文字の大きさ
60 / 70
6 求めた光の先へ

60 ミリー



 僻地から王都に召還され、おおよそ一年の時が経ち、再び夏を迎えた。

 この一年を振り返るに、新たな場所で土地や人に慣れるのに一生懸命になっていたら、いつの間にか時間が過ぎ去ってしまっていたというところだった。

 騎士は主に仕え、領民を守る職業だ。

 人々を助ける仕事と言えば聞こえが良いし、時として過剰に持ち上げられて取り上げられることもある。けれども、実態としては――警備や取り締まり、魔物狩りに人探し――と、地味な業務がほとんどだ。

 それに、どれだけ努力して貢献しても感謝されることすらない日々が続く時さえある。

 貴族達の思惑が絡んで振り回されたり、どれだけ民たちに尽くしたとしても罵倒されることも多く、そんな時は気が滅入って仕方がなくなる。

 それでも、多少の衝突などもあるものの新たな同志たちと意気投合していくこともあり、やりがいや充足感を覚えながら、王都での任務に従事する毎日を送っていた。


 そうして、現在――。


 私はと言えば、馬車が停留している大門の下へと向かっていた。
 真上にある太陽がじりじりと私の肌を焦がしてくる。
 途中、木々の緑の合間を縫って歩く。
 夏も深まってきており、所々差し込む陽が眩しくて仕方がなかった。

(アイザックとは、マリーンさんとの一件以来会っていない……)

 全てが解決しそうだったというのに去り行く私のことを――第三者が見れば、愚かだと思ったかもしれない。
 あのままならば、愛するアイザックとそれなりに祝福されて幸せになれたかもしれない。

 だけれども――自分自身に恥じない人生こそを私は選んでしまった。

 これから先、どういう人生を歩むのかは分からないが、自分自身を信じて生きていくためにも――。

(それに――あの時立ち去って良かったと思っている)

 この一年間、僻地で任務を続けているだろう、アイザックとは一度も手紙などのやり取りもしていない。

(アイザック、元気にしているかしらね……)

 夏のじりじりと迫る日差しが、アイザックへの恋情を思い起こさせてくる。
 兄としか認識していなかったバッシュ以外とは、ほとんど異性と接したことはなかった。
 仕事を覚えたてだったこともあり、優しく接してくれた彼に惹かれたのだろうか――?
 
 初めての恋だったからこそ――自分自身の信念を見失いそうになるほどに、彼に体を委ねてしまったのだろうか――?

(いいえ、それだけじゃない……)

 何か辛いことがあった時、彼がくれた優しさが騎士として働く自分にとっては支えになっている。

 一度だけでも、不義や罪を犯したら、それだけで永遠に責め苦を受け続けないといけないのだろうか――?

 どうしようもなく誰かを愛した自分のことを否定したまま生き続けることで、どんどん心が蝕まれていくような――。

 そんな感情に悩まされる時もあった。

 だけれど――確かにあの頃抱いた感情は――彼を愛しいと思う心は、私の胸の中にある真実だったのだ。

 もし、彼の妻が死んでいたのならば、後味が悪い結果になっていただろう。
 だけれど、彼女を救えたことで――それが罪滅ぼしになるのかは分からないが、おかしなわだかまり自体は胸に残すことはなかった。
 ただ、ちょっとした胸のしこりは残ったままだけれども――。

 きっと――様々な立ち位置で、置かれた状況で――誰かをどうしようもなく愛してしまったことは罪ではない。

 最初に共に戦ってくれた彼との友情を育んだ上で――優しい彼を愛せたからこそ、今、こうやって騎士を続けられている。

 ――誰かに命が燃え尽きそうなほどに深い愛を向けることができたからこそ――。

 
 ――だからこそ、どんなことがあっても、自分自身を見失わず、芯の通った信念と矜持を胸に――騎士として戦い続けることができるのだから。



 そんなことを歩きながら歩いていると、前方から親子の姿が見えた。
 母親と父親と最近歩き始めたぐらいの子どもの三人連れだ。

「ミリー! ミリーじゃないか!」

感想 10

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた

来栖 蘭
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。 高校生くらいから何十回も告白した。 全て「好きなの」 「ごめん、断る」 その繰り返しだった。 だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。 紛らわしいと思う。 彼に好きな人がいるわけではない。 まだそれなら諦めがつく。 彼はカイル=クレシア23歳 イケメンでモテる。 私はアリア=ナターシャ20歳 普通で人には可愛い方だと言われた。 そんなある日 私が20歳になった時だった。 両親が見合い話を持ってきた。 最後の告白をしようと思った。 ダメなら見合いをすると言った。 その見合い相手に溺愛される。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。