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第1章 敵国への旅路
第4話―4
彼と同じ屋敷。
「つまり、貴方の他の恋人や妾の方と一緒に暮らすことになるのですね」
近隣諸国では、愛人を囲う屋敷を持つ者の噂も聞くので、その類なのだろう。
「使用人や警備の騎士はいるが……俺と貴女の二人の新居です」
「え?」
ますます意味が分からない。
「妾のために新居を立てるなんて、イクシオン将軍は変わっていますね」
王弟の扱いなのだし、金銭が有り余っているのだろう。
ふと、彼に視線を向けると、焚火を弄るための木の棒を持ったまま、どんよりとして見えた。
(……どうしたのかしら?)
ちょうどその時、火が爆ぜてシオンの指に当たった。
「熱っ……俺としたことが……」
小さく呻いたイクシオンのそばに近付く。
「将軍、貸してください」
「……何を?」
彼の手を取ると、一言呟く。
ふわりと、小さな光が現れたかと思うと、すぐに弾けた。
「将軍、これで痛くないはずです」
癒しの魔法だ。
喜ばれるかと思ったが、イクシオンの表情は険しくなった。
「この辺りは魔力の源泉は少ない。自分の生命力を使ったな」
彼の眼光の鋭さに、身体がびくりと震える。
「ラフィ、どうして、貴女は昔から無茶ばかりするんだ! 自分を犠牲にするなと、あれほど俺は言い聞かせてきたのに……!」
昔のように叱られてしまって驚いてしまった。
それもそうだが……
(ラフィ)
かつて呼ばれていた愛称で呼ばれたことで、一気に昔に還ったかのような気持ちになる。
……シオン。
自分もかつてのように彼の名を呼ぼうとしたが、くしゅんと、くしゃみが出てしまう。
日中は太陽が近くて熱かったが、夜の山の中は冷えるようだ。
「怒鳴って申し訳ございません。ラフィーネ姫、寒いなら、こちらへどうぞ」
また元の呼び方に戻ってしまう。
手を差し出してくるイクシオンに対して、なんだか素直な気持ちになれない。
「……何をされるか分かりませんので、結構です」
すると、そのままの格好で彼は硬直していた。
心なしか手が震えている気がする。
(シオンが寒いのかしら?)
だが、瞬きをしたら、そんなことはなかった。
そうこうしていると、くしゃみがもう一度出てしまう。
「ああもう、相変わらず強情だな。見てるこっちが寒いので。ほら」
彼の腕に手首を掴まれ、そのまま抱きしめられる。
「ちょっと……」
「姫は愛妾なんだから、たまには俺の言うことを聞いてください」
抵抗しようとしたが、力が強すぎて振りほどけなかった。
「大丈夫、何もしませんから」
「本当にですか?」
「ああ、信頼ないな。俺が悪いんだが……明日も歩かないといけないし、俺も寝不足なので、どうぞお休みください」
二人で同じ外套に包まれて過ごす。
……子どもの頃よりも大きくなったイクシオンの腕の中は暖かくて、なんだか昔に戻ったような気持ちになって……
疲れていた私は、心地よい眠りに誘われたのだった。
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