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第1章 敵国への旅路
第5話―3
休憩していた場所から出発して、なんとか頂上に辿り着いた。
南中に差す太陽の明るさがひどく眩しい。
崖の先端へと脚を運ぶ。
下は断崖絶壁だ。
遥か谷底には、鬱蒼とした森がひしめいている。
危険を冒してでも崖上まで来たのは、森を抜けた荒野よりも、さらに遠くに……
「わあ、綺麗……あれが……」
――海。
遠くに瑠璃のような青い海が観えた。
初めて見る海の煌めきに心を奪われる。
「そうか、ラフィーネ姫は初めて観るのか」
イクシオンが隣に来て、そう言ってきた。
「はい、すごく綺麗です!!」
書物や絵本、絵画で見たことはあったが、本物の海を観たのは初めてだった。
心躍らせていると、イクシオンがそっと私の白金色の髪を掴んでくる。
「……きゃっ……!」
ちょうど崖下から風が舞い上がってくる。
「ラフィ―の方が綺麗だ」
だが風の音で、彼が何を言ったのかは聴こえなかった。
「え? 何ですか?」
「いや、なんでもない。そうだ、これを……」
そう言うと、彼は懐から淡い赤紫色の花を取り出してきた。
「これは、モスフロックスの花……?」
「ちょうど、その辺りに咲いていたので……姫様、俺の瞳に似た色だって言って、子どもの頃に好きだったなと思い出しまして……」
モスフロックスの花を受け取ると、そっと彼の大きな手に手を包まれる。
なんだか鼓動が落ち着かない。
(シオン、覚えていたのね、私がモスフロックスの花を好んでいたことを……)
もどかしい気持ちが胸を支配する。
そうして、彼の瞳を覗きながら、珍しく素直な気持ちを伝えてみることにした。
「ありがとうございます。妾である私にこんなに優しいのですから、きっとイクシオン将軍の奥様になられる方は、とても幸せになられるでしょうね」
「ラフィーネ姫」
ひどく真剣な眼差しで、イクシオンがこちらを見つめてくる。
心臓が早鐘のように落ち着かなかった。
「俺は将軍だ。昨日も見ただろうが、多くの民が称賛もしてくるが、同時に恨まれてもいる。むしろ憎まれている数の方が多いだろう」
真面目な話だ。
「そんな俺の妻になれば、妻になった者も、俺に何かあった場合に同じだけの責任を負わされる可能性がある」
彼の言う通りだ。妻となれば、夫と生死を共にする覚悟が必要だろう。
「だが、いやいや妾にされた立場なら、まだ同情される可能性だってある。そんな俺でも、もし貴女が良いのなら……その……いや、順番がおかしいな。俺は……」
柔らかな風が、私の白金色の髪と彼の藍色の髪をさやさやと揺らした。
心臓が落ち着かない。
「俺はラフィーネ姫のことを愛…………」
その時。
「きゃっ、何っ……!?」
耳をつんざくような甲高い音が聴こえる。
同時にバサバサと大きな羽音。
二人の頭上に影が差したかと思うと、鳥型の魔物の姿があった。
イクシオンがちっと舌打ちをする。
「俺が! 大事なことを言おうとしている時に、ふざけるなよ!」
彼が叫ぶと同時に、雷光が爆ぜた。
魔力の源泉が少ない場所なので初級のものだろう。
だが、魔物には効果てきめんだったようで、振り落ちた雷に撃たれ、どしゃりと地面に落ちた。
詠唱なしに魔術を使える人間は、現在では限られた者しかいない。
(相変わらず、剣も魔術も……何をさせても強い)
だが、感心したのも束の間、イクシオンの声が珍しく上ずった。
「なんだ!? 初級だっただろう? いつもより、火力が……!」
想定外の何かが起きているようだ。
「何が起きて……!」
初級魔術を使ったはずなのに、まるで上級のものであるかのように、雷が降り注ぎ続ける。
そうして、自分たちのいる崖を崩した。
「きゃっ……!」
足場を失くし、身体が宙に放り出される。
「ラフィ―!」
崩れた崖から、谷底へと落ちる。
あまりの恐怖に、私はそこで意識を失ったのだった。
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