【R18】敵国将軍の、愛妾になったはずですが!?

おうぎまちこ(あきたこまち)

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第1章 敵国への旅路

第5話―3




 休憩していた場所から出発して、なんとか頂上に辿り着いた。
 南中に差す太陽の明るさがひどく眩しい。
 崖の先端へと脚を運ぶ。
 下は断崖絶壁だ。
 遥か谷底には、鬱蒼とした森がひしめいている。
 危険を冒してでも崖上まで来たのは、森を抜けた荒野よりも、さらに遠くに……

「わあ、綺麗……あれが……」

 ――海。
 遠くに瑠璃のような青い海が観えた。
 初めて見る海の煌めきに心を奪われる。

「そうか、ラフィーネ姫は初めて観るのか」

 イクシオンが隣に来て、そう言ってきた。

「はい、すごく綺麗です!!」

 書物や絵本、絵画で見たことはあったが、本物の海を観たのは初めてだった。
 心躍らせていると、イクシオンがそっと私の白金色の髪を掴んでくる。

「……きゃっ……!」

 ちょうど崖下から風が舞い上がってくる。

「ラフィ―の方が綺麗だ」

 だが風の音で、彼が何を言ったのかは聴こえなかった。

「え? 何ですか?」

「いや、なんでもない。そうだ、これを……」

 そう言うと、彼は懐から淡い赤紫色の花を取り出してきた。

「これは、モスフロックスの花……?」

「ちょうど、その辺りに咲いていたので……姫様、俺の瞳に似た色だって言って、子どもの頃に好きだったなと思い出しまして……」

 モスフロックスの花を受け取ると、そっと彼の大きな手に手を包まれる。
 なんだか鼓動が落ち着かない。

(シオン、覚えていたのね、私がモスフロックスの花を好んでいたことを……)

 もどかしい気持ちが胸を支配する。
 そうして、彼の瞳を覗きながら、珍しく素直な気持ちを伝えてみることにした。

「ありがとうございます。妾である私にこんなに優しいのですから、きっとイクシオン将軍の奥様になられる方は、とても幸せになられるでしょうね」

「ラフィーネ姫」

 ひどく真剣な眼差しで、イクシオンがこちらを見つめてくる。
 心臓が早鐘のように落ち着かなかった。

「俺は将軍だ。昨日も見ただろうが、多くの民が称賛もしてくるが、同時に恨まれてもいる。むしろ憎まれている数の方が多いだろう」

 真面目な話だ。

「そんな俺の妻になれば、妻になった者も、俺に何かあった場合に同じだけの責任を負わされる可能性がある」

 彼の言う通りだ。妻となれば、夫と生死を共にする覚悟が必要だろう。

「だが、いやいや妾にされた立場なら、まだ同情される可能性だってある。そんな俺でも、もし貴女が良いのなら……その……いや、順番がおかしいな。俺は……」

 柔らかな風が、私の白金色の髪と彼の藍色の髪をさやさやと揺らした。
 心臓が落ち着かない。

「俺はラフィーネ姫のことを愛…………」

 その時。

「きゃっ、何っ……!?」

 耳をつんざくような甲高い音が聴こえる。
 同時にバサバサと大きな羽音。
 二人の頭上に影が差したかと思うと、鳥型の魔物の姿があった。
 イクシオンがちっと舌打ちをする。

「俺が! 大事なことを言おうとしている時に、ふざけるなよ!」

 彼が叫ぶと同時に、雷光が爆ぜた。
 魔力の源泉が少ない場所なので初級のものだろう。
 だが、魔物には効果てきめんだったようで、振り落ちた雷に撃たれ、どしゃりと地面に落ちた。
 詠唱なしに魔術を使える人間は、現在では限られた者しかいない。

(相変わらず、剣も魔術も……何をさせても強い)

 だが、感心したのも束の間、イクシオンの声が珍しく上ずった。

「なんだ!? 初級だっただろう? いつもより、火力が……!」

 想定外の何かが起きているようだ。

「何が起きて……!」

 初級魔術を使ったはずなのに、まるで上級のものであるかのように、雷が降り注ぎ続ける。
 そうして、自分たちのいる崖を崩した。

「きゃっ……!」

 足場を失くし、身体が宙に放り出される。

「ラフィ―!」

 崩れた崖から、谷底へと落ちる。
 あまりの恐怖に、私はそこで意識を失ったのだった。


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