【R18】嫌いになりたい、だけなのに

おうぎまちこ(あきたこまち)

文字の大きさ
21 / 35

21

しおりを挟む




 オデッセイは橙色の光を眼裏に感じる。

(あれ……? 昨晩の出来事は夢だったの……?)

 オデッセイが目覚めると、もうすっかり陽は暮れていた。

(夕陽? ……まさかっ……!)

 慌ててガバリと身体を起こした。
 紛れもなく夕暮れだ。
 確か、昨晩、オデッセイはケンダルを部屋に招いたはずで……

「起きたのか? 朝までずっと動きっぱなしだったから、疲れたんだろう……また夜が来るぞ」

 ベッドの上、オデッセイの隣にケンダルが横たわっていた。

「ケンダル……っ……」

 彼の視線を感じて、自身がまだ裸体だったことを思いだした。
 ケンダルもオデッセイも生まれたままの姿だ。
 どうやら、昨晩の出来事は夢ではなかったようだ。

「わ、私は……ケンダル……貴方を……」

「そうそう、部屋に入るなり襲われて、抵抗して、逆惚れ薬を作る流れになって、襲い返したけど、逆惚れ薬を嗅いだお前に、俺が貞操を奪われたわけだ……」

 ケンダルは、私のことを愛しているのだわ……!
 なぜかそんな謎の自信が胸の内から泉のごとく湧いて出てきたのだ。
 自身のやらかしに気づいてしまい、オデッセイの顔から血の気が引いていく。

「俺も一応、この国に忠誠を誓う騎士の端くれだ。王女殿下の純潔を奪った責任は、ちゃんと取るよ。安心しろ」

 ちょうど陽の光でケンダルの表情が視えない。

(私はなんてことをしてしまったの……)

 嫌いになりたい、だけだったのに……
 相手の尊厳を踏みにじって、無理やり自分の言うことを聞かせて……
 オデッセイの唇が戦慄く。

「……私はこんな風に貴方に無理やり言わせたかったわけじゃなくて……」

 彼女の瞳に涙が浮かぶ。

「貴方の自由を奪いたかったわけじゃなくて……」

 ケンダルと楽しそうに話す令嬢たちが羨ましかった。
 だけど、権力に無理やり物を言わせて、彼と婚姻したかったわけではなかのに……
 後悔が胸を塞いでくる。
 苦しくて苦しくて仕方がない。

「私は取り返しのつかないことを……怨霊や肉食魔獣よりも劣る行為で……」

 むしろ、怨霊や肉食魔獣に悪い気さえしてきた。
 こんな何かと比べるようなところがダメなのだ……
 そうして、彼女の瞳に涙が溜まりかけた、その時。

「ああ、ほら、オデッセイ、『逆惚れ薬』の効果が切れたら、すぐ卑屈なお前に戻ったな……」

 ケンダルの指がオデッセイの顎を掴んできて、無理やり顔を上向かされた。
 かと思えば、彼の身体に抱きしめられる。

「ケンダル……?」

「ほら、振り解けるもんなら、振り解いてみろよ……」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...