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しおりを挟むオデッセイは橙色の光を眼裏に感じる。
(あれ……? 昨晩の出来事は夢だったの……?)
オデッセイが目覚めると、もうすっかり陽は暮れていた。
(夕陽? ……まさかっ……!)
慌ててガバリと身体を起こした。
紛れもなく夕暮れだ。
確か、昨晩、オデッセイはケンダルを部屋に招いたはずで……
「起きたのか? 朝までずっと動きっぱなしだったから、疲れたんだろう……また夜が来るぞ」
ベッドの上、オデッセイの隣にケンダルが横たわっていた。
「ケンダル……っ……」
彼の視線を感じて、自身がまだ裸体だったことを思いだした。
ケンダルもオデッセイも生まれたままの姿だ。
どうやら、昨晩の出来事は夢ではなかったようだ。
「わ、私は……ケンダル……貴方を……」
「そうそう、部屋に入るなり襲われて、抵抗して、逆惚れ薬を作る流れになって、襲い返したけど、逆惚れ薬を嗅いだお前に、俺が貞操を奪われたわけだ……」
ケンダルは、私のことを愛しているのだわ……!
なぜかそんな謎の自信が胸の内から泉のごとく湧いて出てきたのだ。
自身のやらかしに気づいてしまい、オデッセイの顔から血の気が引いていく。
「俺も一応、この国に忠誠を誓う騎士の端くれだ。王女殿下の純潔を奪った責任は、ちゃんと取るよ。安心しろ」
ちょうど陽の光でケンダルの表情が視えない。
(私はなんてことをしてしまったの……)
嫌いになりたい、だけだったのに……
相手の尊厳を踏みにじって、無理やり自分の言うことを聞かせて……
オデッセイの唇が戦慄く。
「……私はこんな風に貴方に無理やり言わせたかったわけじゃなくて……」
彼女の瞳に涙が浮かぶ。
「貴方の自由を奪いたかったわけじゃなくて……」
ケンダルと楽しそうに話す令嬢たちが羨ましかった。
だけど、権力に無理やり物を言わせて、彼と婚姻したかったわけではなかのに……
後悔が胸を塞いでくる。
苦しくて苦しくて仕方がない。
「私は取り返しのつかないことを……怨霊や肉食魔獣よりも劣る行為で……」
むしろ、怨霊や肉食魔獣に悪い気さえしてきた。
こんな何かと比べるようなところがダメなのだ……
そうして、彼女の瞳に涙が溜まりかけた、その時。
「ああ、ほら、オデッセイ、『逆惚れ薬』の効果が切れたら、すぐ卑屈なお前に戻ったな……」
ケンダルの指がオデッセイの顎を掴んできて、無理やり顔を上向かされた。
かと思えば、彼の身体に抱きしめられる。
「ケンダル……?」
「ほら、振り解けるもんなら、振り解いてみろよ……」
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