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第4章 レードヴァルドの過去
第14話 レードヴァルドの過去(前編)➁
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「イリス殿!」
背後から声が聴こえてきたため、イリスは丘の下へと視線を向けた。
爽やかな風が吹く中、現れたのはレードヴァルドだった。
流麗な黒髪がサラサラと揺れ、紫水晶の瞳が太陽の光で美しく煌めいた。騎士団の白いマントが風ではためく。
彼の姿を見た途端、イリスの心がトクンと鳴った。彼女はぎゅっと胸の前で両手を合わせると、彼に向かって素朴な疑問を口にした。
「レードヴァルド様、午前中の執務はもう終わったのですか?」
レードヴァルドは確か、自国の王への報告書が途中のままだと訴えており、朝から客室に籠もって、ペンを走らせていたはずだった。
けれども、その仕事はもう終わったのだろう。
「ああ、そうだ。それで、ちょうど貴殿を探していたら、これを見つけてね」
「これとはいったい?」
レードヴァルドが制服の懐へと手を突っ込んだと思いきや、中からさっと何かを取り出してきた。
「女性ならこういうものが好きかと思って」
「え?」
イリスはレードヴァルドが差し出してきたものへと視線を移す。
「これは……!」
彼女は感嘆の声を上げた。
レードヴァルドが目元を和らげる。
「イリス殿の名と同じ花だと思ってね」
彼の武骨な手の中には、愛らしい菖蒲の花が一輪あった。
「綺麗」
イリスはちらりとレードヴァルドの様子を伺った。
「こんな奇跡にこの花が咲くなんて珍しい。そう言われれば、こちらは、いったいどうしたのですか?」
「ちょうど領内の小川の傍に咲いていたんだ。花を見たら、たまたま貴殿の顔が浮かんでね」
レードヴァルドがはにかみならが、そっと花を差し出してくる。
イリスは彼から差しだされた花を丁重に受け取った。
愛らしくも立派な青い花びらは見るだけで心が安らぐようだ。香しい花の香りを嗅ぐと胸の中まで充たされていくようで、悩みもどこかに吹き飛んでいきそうだ。
「レードヴァルド様、ありがとうございます」
イリスはまるで満開の花のような笑顔を浮かべた。
「どういたしまして」
穏やかに微笑むレードヴァルドの姿を見ているとポカポカと心の中が暖かくなっていく。
けれども、そこでハッとなった。
(レードヴァルド様はもしかして……)
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彼の姿を見た途端、イリスの心がトクンと鳴った。彼女はぎゅっと胸の前で両手を合わせると、彼に向かって素朴な疑問を口にした。
「レードヴァルド様、午前中の執務はもう終わったのですか?」
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けれども、その仕事はもう終わったのだろう。
「ああ、そうだ。それで、ちょうど貴殿を探していたら、これを見つけてね」
「これとはいったい?」
レードヴァルドが制服の懐へと手を突っ込んだと思いきや、中からさっと何かを取り出してきた。
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「え?」
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「これは……!」
彼女は感嘆の声を上げた。
レードヴァルドが目元を和らげる。
「イリス殿の名と同じ花だと思ってね」
彼の武骨な手の中には、愛らしい菖蒲の花が一輪あった。
「綺麗」
イリスはちらりとレードヴァルドの様子を伺った。
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「ちょうど領内の小川の傍に咲いていたんだ。花を見たら、たまたま貴殿の顔が浮かんでね」
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イリスは彼から差しだされた花を丁重に受け取った。
愛らしくも立派な青い花びらは見るだけで心が安らぐようだ。香しい花の香りを嗅ぐと胸の中まで充たされていくようで、悩みもどこかに吹き飛んでいきそうだ。
「レードヴァルド様、ありがとうございます」
イリスはまるで満開の花のような笑顔を浮かべた。
「どういたしまして」
穏やかに微笑むレードヴァルドの姿を見ているとポカポカと心の中が暖かくなっていく。
けれども、そこでハッとなった。
(レードヴァルド様はもしかして……)
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