竜族の女騎士は自身の発情期に翻弄される

紗綺

文字の大きさ
10 / 29

抑えられない衝動 ★

しおりを挟む
 

真っ暗な室内、窓から入るかすかな月明かりがお互いの輪郭を浮かび上がらせる。
絡む視線は睨み合うかのように強く、常の甘さはない。
首筋を舌でなぞり気まぐれに吸い付く。
そのたびにぴくりと反応し息を乱す様がおもしろくて口元を吊り上げる。
エイルが笑っているのに気が付いたアルヴィスが悔しげに顔を歪めた。

「あぁっ」

笑われた意趣返しなのか、アルヴィスの長い指がエイルの弱い場所を執拗に突く。

「んっ、アルヴィスっ」

膝立ちで愛撫を受け入れながらアルヴィスの急所に手を伸ばす。
そういえば自分からここに触れるのは初めてだったと思いながら先っぽを撫でると息を詰めて身体を震わせた。

硬い……。
指を絡めてするりと動かせば更に硬度を増していく箇所に改めて思う。
自分の中で感じたことがあるのに、不思議な感じだった。
くちゅくちゅと立つ水音と荒い息づかいだけが狭い部屋に響く。
時折伝わるびくりと身体を震わす振動に、体の奥から興奮が湧いてきて。
真っ赤に染まった顔は暗闇の中だからこそ表情を取り繕うこともせずに歪ませている。
眉間に寄った皺がどうしてこうなっているのかという困惑と、何故感情的に身体を交わしているのかという苛立ち、常とは違い自発的に愛撫をするエイルから与えられる快感を表していた。
短く吐く息の合間からこらえきれない快感の声が漏れる。
薄く開いた唇が酷く扇情的で、思わず自分の唇を舐めた。

――触りたい。指を唇に差し込んで熱い舌に触れたい。
自分の手を見下ろして心の中で舌打ちする。
アルヴィスから溢れたものでべたつく手では触れられない。
口惜しさに指で挟んでいたアルヴィス自身に少し力を込める。

「うっ! く……っ」

突然の刺激に体を震わせて声を上げるアルヴィスがエイルを睨む。
達してしまいそうなのを堪えているのか小刻みに震えるアルヴィスの姿にエイルも限界が来た。
腰を上げてアルヴィスの体を跨ぐ。
膝で腹を踏まないように気を付けながらアルヴィスを見下ろす。
エイルが何をしようとしているのか理解したようで、期待にか興奮か呼吸を震わせる。
ふ、と息を吐き、ゆっくりと腰を下ろしていく。
手で触っていたからかやけにアルヴィスの形をはっきりと意識する。
酷く淫らなことをしている気分だ。
実際とんでもなく淫靡な行為をしている。
信じられないと驚きと快感に歪んだアルヴィスの顔がそれを教える。
ぞくぞくと走る震えは興奮か、快楽か。
自ら生み出す熱がどちらに属するものなのか測りかねた。
深いところまで受け入れると満たされたような気持ちとこのままめちゃくちゃにしてしまいたい凶暴な気持ちが同時に湧いてきて。
もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。
片手を腰の横に置いて身体を動かす。
軽いとは言えない体重をかけないよう気を付けながら快楽を追いかける。

「はっ、ぁ……」

気持ちいい、のに、良くない……。
繋がった部分は快感に震え、高みに昇ろうとするのに、冷えた心が昇り詰めようとする身体を冷ます。

アルヴィスの顔も快感に歪んでいるのが泣きそうに苦しい。

「……っ、アルヴィスっ」

吐き出す息の合間から零れた声は我ながら情けない音をしていた。
目が熱い。自分から仕掛けたことなのに苦しくて苦しくて仕方ない。

「エイ、ル」

エイルの名を呼ぶアルヴィスの声に呆然とした響きが混じる。
出会ってから数年、こんな情けない顔を見せたことはない。
自己嫌悪で死にそうだ。

「……っ!」

俯きそうになっているとベッドに手を付いたアルヴィスが身を起こした。
いきなりの動きにアルヴィスを受け入れている部分が卑猥な音を立てる。

「んぅっ!」

アルヴィスの顔が近づいてきたと思ったら唇が塞がれた。
熱い舌がゆっくりとエイルの口内に入ってくる。主導権を奪い合うようなさっきのくちづけとは違い窺うようなキス。
突然のキスに驚いたエイルも舌を伸ばして応える。
絡め合うキスの合間に繋がったままの下半身もゆるゆると動かされる。
先までの激しさはなくても官能を高める動きにエイルの腰も動いてしまう。
奥を突くのではなく壁を押し広げるように擦られてぶるりと体が震える。
上も下も深く繋がり絡み合った動きに、エイルは深く、高く昇り詰めた。

「~~~!! っ! ああっ!」

深く達してようやく口が離された。快楽の残滓に思わず声が漏れてしまう。
アルヴィスに跨った格好のまま力を抜く。
自分の中で果てたアルヴィス自身が引き抜かれた。
鍛えていても普段使わない筋肉が痛んでいる気がする。

「エイル」

アルヴィスの静かな声にエイルは反射的に怒られる、と思って身を竦ませた。

「……?」

叱責が来るかと思ったエイルが目を開けるとアルヴィスは思いのほか静かな表情でエイルを見ていた。

「アルヴィス?」

怒られるとばかり思っていたエイルは戸惑いがちにアルヴィスの名前を呼ぶ。
アルヴィスが嫌がる外でのくちづけに始まって、弱いところを執拗に狙って途中で止められなくした上で強引に行為に及んだ自覚がある。
いくら恋人同士でもダメだろう。最低だ。
顔には出さずに落ち込んでいると軽いキスを落とされた。

「悪かった」

「え……?」

ばつが悪そうにアルヴィスが謝罪の言葉を口に乗せた。
寧ろ悪かったのはエイルだろう。どうやって謝ろうか考えていた矢先に相手の方から謝られて慌てる。

「なんでっ、悪いのは私の方――」

「いや、発端は俺がお前を避けていたからだろう」

話をするどころか顔を見ないように避けていた自分が悪いと頭を下げる。

「お前のやったことは、まあ、やり方はどうかと思うし、自分の身体も傷つけるダメな方法だけど。
そんな強引な手段を取りたくなるほど俺の態度が悪かった」

手法を咎めながらエイルの身体を心配してくれる。優しいのか厳しいのか。

「どうして避けてたのか聞いてもいいかな」

本当に突然避けられ始めてエイルには理由が全くわからない。
討伐後に会ったときはいつもと変わらなかったのにどうしてなのか。
答えを探ろうと顔を見つめる。
エイルが表情を観察していることに気づいていないのか、アルヴィスが唇を噛む。

「それは……」

答えを迷う様子に目をすがめてはっと止める。
いけない、いけない。不穏な空気が出そうになってしまった。

「言えないなら構わないよ。
ただ、私と居るのが嫌になったとか……、別れたくなったとかではないね?」

「まさか! そんなことなど考えたこともない!!」

思いもしないことを言われたと慌てるアルヴィスにほっと息を吐く。
なんだ、よかった。
安堵に力を抜いたエイルの身体をアルヴィスが抱き締める。

「すまない。 そんなことを考えていると思わなかった。
酷い恋人だな、俺は」

「本当にね。 いきなり無視は酷いよ。
顔見かけても避けるしさ」

エイルに気が付いたのに慌てて避けられたのは、とてもショックで……、そう、傷ついた。
当たり前のことに今気づいた。
エイルは傷ついていた。最愛の恋人に避けられたことに。
こんなにアルヴィスを好きになっていることに初めて気が付いた。

「すまない……」

うなだれるアルヴィスに首を振る。

「もういいよ。
でも、もう無視したり避けたりしないでほしい」

「ああ、もうしない」

うん、と答えてアルヴィスの背に手を回す。
顔を上げると優しいキスが落とされる。
安心したからか、体から力が抜けてくる。
体重を預けると熱を持った腕が肩を包むのを感じて目を閉じる。
そのまま、すぅっとエイルは眠りに落ちていった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

龍の腕に咲く華

沙夜
恋愛
どうして私ばかり、いつも変な人に絡まれるんだろう。 そんな毎日から抜け出したくて貼った、たった一枚のタトゥーシール。それが、本物の獣を呼び寄せてしまった。 彼の名前は、檜山湊。極道の若頭。 恐怖から始まったのは、200万円の借金のカタとして課せられた「添い寝」という奇妙な契約。 支配的なのに、時折見せる不器用な優しさ。恐怖と安らぎの間で揺れ動く心。これはただの気まぐれか、それとも――。 一度は逃げ出したはずの豪華な鳥籠へ、なぜ私は再び戻ろうとするのか。 偽りの強さを捨てた少女が、自らの意志で愛に生きる覚悟を決めるまでの、危険で甘いラブストーリー。

処理中です...