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獣族の令嬢は弱点を隠す
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ぴこぴこ耳を動かして声を聞き取る。
学園でも聞いたことのある声、王子の側近の一人で一番王子と一緒にいた人だ。
近づいてくる気配は王子とその人だけ。
声をかけるタイミングを計り柱に隠れて様子を窺う。
「てっきり朝から来ると思っていたんですが、来ませんでしたね」
「あいつの話はするな!」
ダンッと壁を叩く音がした。
手、痛いんじゃないかな。
「大丈夫ですか?」
「うるさいっ!」
心配されて怒る。恥ずかしいからって理不尽な。
今現れたら顔を見た瞬間に怒鳴られそうな予感がする。
「警戒してたが無駄だったな。
考えてみたら、父上に謹慎を言い渡されたのを知っているんだから来るわけがない」
「いや、確実に居所がわかるんだから来ると思いますよ。
謹慎といっても部屋に閉じ込もっていろと言われたわけじゃないんですし」
王宮の中の居住区の一部に居ればいいわけで執務もしていると聞いた。
執務の邪魔をしてはいけないので終わるのを待っていたのだ。
「今日はあちらも忙しかったのかもしれませんね。
なにせ予定が大幅に狂ったわけですから」
ちくりと嫌味を言われて不機嫌そうな顔をする。
「執務室にあいつが来ても絶対に通すなよ」
「執務室に来てくだされば、お断りする理由になりますけど、学園であなたを囲んでいたご令嬢たちのように偶然を装って来られたら難しいですよ。
その時はご自分で頑張ってください」
意外とドライな返答。
さっきの嫌味といい率直な意見ができる関係らしい。
「あ、噂をすればですね」
見つかったので柱の陰から出て挨拶をする。
「こんばんは」
「げっ!」
「王子、その挨拶はいかがなものかと思いますよ」
側近の注意に嫌そうに顔を歪める王子。
怒鳴られなかっただけ良しとする。
「執務が終わるの待ってました。
夕食をご一緒しましょう」
「なんでお前と一緒に取らないといけないんだ、嫌に決まっている」
「ちゃんと会食の申し込みをいただいたので準備しておりますよ」
王子の言葉を側近さんが否定する。
ちゃあんと昨日のうちに申し込んでいた。
正式なルートでの申し込みなので拒否できなかった、が正しいかもしれない。
「はあ?! 今日の会食は他国の要人だと言っていただろう!」
「王子、お忘れのようですが彼女も他国の要人です」
そう、第一王子の婚約者に選ばれるくらいの存在です、実は。
国を代表して留学に来ていました。
「避けられないようにちゃんと予定に入れてもらいました」
先手を取ったぞと子供っぽく自慢してみる。
胸を張ると耳を引っ張られた。
「……っ!」
いきなりのことで身構える間もなく、叫びそうになる。
振り払って両手で耳を覆って隠す。
勝手に潤む瞳で恨めし気に睨むと楽しそうに口の端を上げた。酷い。
「いい弱点を見つけたな」
「酷いです! 耳は繊細なんですよ!」
仕返しができたと満足そうな王子に何か言いたそうにしている側近さん。
こそっと唇に指を立てて口止めする。
危ない危ない。
弱点は隠さないと。
少し触れられただけで理性が飛びそうになるくらい敏感な場所だなんて。
主導権を握るのに不利になるもの。
迷っていた側近さんだけど、公言するようなことじゃないので何も言わずにいてくれた。
恥じらう顔で謝意を表すと頷いてくれる。
よし、これで秘密にしてくれるでしょう。
耳としっぽは獣族の性感帯だってことは。
意地の悪い笑みを浮かべた王子は少し機嫌を直したようで食事の間へ先立って歩いて行く。
やり返したい気持ちと目的の間で揺れる気持ちは、即座に後者に軍配が上がった。
学園でも聞いたことのある声、王子の側近の一人で一番王子と一緒にいた人だ。
近づいてくる気配は王子とその人だけ。
声をかけるタイミングを計り柱に隠れて様子を窺う。
「てっきり朝から来ると思っていたんですが、来ませんでしたね」
「あいつの話はするな!」
ダンッと壁を叩く音がした。
手、痛いんじゃないかな。
「大丈夫ですか?」
「うるさいっ!」
心配されて怒る。恥ずかしいからって理不尽な。
今現れたら顔を見た瞬間に怒鳴られそうな予感がする。
「警戒してたが無駄だったな。
考えてみたら、父上に謹慎を言い渡されたのを知っているんだから来るわけがない」
「いや、確実に居所がわかるんだから来ると思いますよ。
謹慎といっても部屋に閉じ込もっていろと言われたわけじゃないんですし」
王宮の中の居住区の一部に居ればいいわけで執務もしていると聞いた。
執務の邪魔をしてはいけないので終わるのを待っていたのだ。
「今日はあちらも忙しかったのかもしれませんね。
なにせ予定が大幅に狂ったわけですから」
ちくりと嫌味を言われて不機嫌そうな顔をする。
「執務室にあいつが来ても絶対に通すなよ」
「執務室に来てくだされば、お断りする理由になりますけど、学園であなたを囲んでいたご令嬢たちのように偶然を装って来られたら難しいですよ。
その時はご自分で頑張ってください」
意外とドライな返答。
さっきの嫌味といい率直な意見ができる関係らしい。
「あ、噂をすればですね」
見つかったので柱の陰から出て挨拶をする。
「こんばんは」
「げっ!」
「王子、その挨拶はいかがなものかと思いますよ」
側近の注意に嫌そうに顔を歪める王子。
怒鳴られなかっただけ良しとする。
「執務が終わるの待ってました。
夕食をご一緒しましょう」
「なんでお前と一緒に取らないといけないんだ、嫌に決まっている」
「ちゃんと会食の申し込みをいただいたので準備しておりますよ」
王子の言葉を側近さんが否定する。
ちゃあんと昨日のうちに申し込んでいた。
正式なルートでの申し込みなので拒否できなかった、が正しいかもしれない。
「はあ?! 今日の会食は他国の要人だと言っていただろう!」
「王子、お忘れのようですが彼女も他国の要人です」
そう、第一王子の婚約者に選ばれるくらいの存在です、実は。
国を代表して留学に来ていました。
「避けられないようにちゃんと予定に入れてもらいました」
先手を取ったぞと子供っぽく自慢してみる。
胸を張ると耳を引っ張られた。
「……っ!」
いきなりのことで身構える間もなく、叫びそうになる。
振り払って両手で耳を覆って隠す。
勝手に潤む瞳で恨めし気に睨むと楽しそうに口の端を上げた。酷い。
「いい弱点を見つけたな」
「酷いです! 耳は繊細なんですよ!」
仕返しができたと満足そうな王子に何か言いたそうにしている側近さん。
こそっと唇に指を立てて口止めする。
危ない危ない。
弱点は隠さないと。
少し触れられただけで理性が飛びそうになるくらい敏感な場所だなんて。
主導権を握るのに不利になるもの。
迷っていた側近さんだけど、公言するようなことじゃないので何も言わずにいてくれた。
恥じらう顔で謝意を表すと頷いてくれる。
よし、これで秘密にしてくれるでしょう。
耳としっぽは獣族の性感帯だってことは。
意地の悪い笑みを浮かべた王子は少し機嫌を直したようで食事の間へ先立って歩いて行く。
やり返したい気持ちと目的の間で揺れる気持ちは、即座に後者に軍配が上がった。
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