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1日目 親友が「女の子になった」と言いだしました
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「友志~、おれ、女になっちゃったみたい・・・。」
それは突然のことだった。
いつもと変わらない学校、いつもと変わらない教室、いつもと変わらない親友の姿
「え、は、なに冗談?」
最初、俺は完全に何かの冗談なのだろうと思っていた。
だって・・・・。
(女になったって・・・・・・。お前、なんにも変化ないじゃん・・・。)
瞳に映る、親友は何一つ昨日までと変化がなかったのだから、こう思ってもおおよそ仕方がないだろう。
俺の親友、碧は男という割には可愛い顔つきの男の娘という類のもので、男性としての成長が遅かったのか、低身長で声も男にしては高く、正直、昨日までのこいつでも女の子の服を着ていたとしたら、誰しもが女の子なのだと勘違いしてしまうんじゃないか・・・。
そんな親友だったからこそ、今日のこれも何かの冗談なのだろうと思った。
しかし・・・・・・。
「は???冗談なわけないんだが!!!おれ、本当に女の子になったんだが!!!」
そう言って怒り出す碧・・・。
どうやら今日はこういう設定?で一日を送りたいのかもしれない。
(まあ、そういう気分の時もあるのかもしれないな・・・。うん、そうなんだな・・・。)
「あ、そうなのか・・・。へ~、お前が女にね~」
「な、なんだよ・・・。その全く信じていないみたいな反応は!?」
「いやぁ、信じてるよ・・・。うん、信じてる信じてる・・・。お前は女になった。そうなんだろ??」
「むぅ~」
頬を膨らませて不機嫌なことを現す碧はどこからどう見ても可愛らしい”女の子”
ただ、それはほぼほぼいつものことなので、今日も可愛いなくらいの感情しか、そんな表情を見ても沸いてはこない。
女顔で、かつ、身体つきも女っぽいことの一種の弊害なのかもしれないな・・・。
「それで・・・・・・・。俺はどうしたらいいんだ?お前が女の子になった(という設定)ってなら、俺もなんかしたほうがいいのか・・・?」
おれは、いつも通りのこの他愛のない遊びに乗ってやることにした。
碧は時折、こうやって何かのキャラや性格を演じるというまあ、俗にいう設定をよくする奴だから・・・。
「ん~、まだ本当に信じてくれてる気はしないけど・・・・・。まあ、お前がそう言うんだったら・・・・。う~ん・・・・・。なにしてもらおうかなぁ・・・・・。」
珍しく悩んでるようなそぶりを見せる碧に少しだけ、違和感を覚える俺・・・。
(いつもだったら、こういう返しが来た時のためにポンポンと設定を出してくるものなんだが・・・・・。それほどにこの自分が”女の子になった”という設定は即興っていうことなんだろうか・・・。)
「あ、じゃあ、とりあえず、頭撫でて///」
「は?」
耳を疑った。
首を傾げ、悩んでいるような、そんな素振りを見せていた碧が絞り出すように要求してきたのが、そんな”頭を撫でる”なんていう、なんでもない、ありふれた行為だったのだから・・・。
「そ、そんなことでいいのか??
「うん、いいの、早く撫でて///あ、できるだけ優しくね///」
なんでこいつはこんなにも顔を真っ赤にさせてそんななんでもないことをお願いしてくるんだろうか・・・。
まあ、可愛いからいいんだが・・・。
「んっ///あ///」
そして、頭を碧が言ったように優しく撫でてやる俺・・・。
なんか、いつにも増して髪の毛がサラサラな気がしなくもないが、きっと気のせいだろう。
いつも手入れをしているこいつに「今日はいつも以上にサラサラしてるな」なんて言うのもなんだか無粋な気もしたから・・・。
ただまあ・・・・・・・・・・・。
「あ、あのさ・・・。碧、そんな変な声を出さないでくれ・・・。」
多分、碧の頭を撫でるなんて言うことはこいつと出会い、これまで過ごす中で幾度となくあったことだろう、それなのに、碧ときたらまるではじめての気持ちを味わっているかのように気持ちよさそうに、あられもない声を上げては少なからずこちらをイケない気分にさせてくる。
「ふわ///ご、ごめん///つ、つい、つい・・・。その//////」
ほんとになんなんだろうか、この可愛い生命体は・・・。
謝りながらも、顔を赤らめてくる碧はいつも以上に可愛く、それでいて、女の子のようで・・・。
だけど、こいつはれっきとした男・・・。
もしも、こいつが女で、それも俺の彼女だったとしたら、何の迷いもなくこの腕の中に閉じ込めたことだろう。だが、男のこいつにそんなことをいきなりするのはさすがに野暮が過ぎる。
いくら”女の子”設定があったとしてもだ・・・。
追加要求をされない限りは、この境界線だけは超えちゃいけない、そんな気がした。
(まあ、おれの理性がそんなことしたら持たなくなるしな・・・・・・。)
「ん~♪」
めちゃくちゃ上機嫌なのがはっきりわかってしまうほどに嬉しそうな碧・・・。
男同士で、それなのに、こんな他愛もない事だけで喜んでいるのはどうなんだろうか、そんな思いはあったが、まあ、碧がそれでいいのならいいのかもしれない。
ただ、今のこの状況・・・。
碧のことをひたすらに撫でる俺・・・。
そして、そんな俺の行動に対して、時折あられもない声を混ぜつつ反応する碧・・・。
こんなの、傍から見れば、完全にいちゃついているようにしか見えなくもないのだが、そこのところは大丈夫なんだろうか・・・。
それだけが気が掛かりというか心配で・・・。
チラッ、チラッ
一応、周囲の状況を探るためあたりを見回していく俺・・・。
ギロッ
にやにや
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)
どうやら、俺の不安は的中していたようだ。
辺りを見回していくとどう考えても、敵意、いや殺意むき出しでこちらを見てくる男子やその逆にニヤニヤと見ている女子の姿などが目に入り、なんとも言えない気持ちになってしまう・・・。
(いや、俺はただこいつの設定に乗っかかっているだけなんだが!!!)
正直、俺があっち側の立場だったとしたら、同じことを思ってしまうのかもしれない。
見るからに可愛らしい女子の頭を無造作に撫で続けている男なんて、それこそ、モテない男子達にとっては敵以外の何物でもない・・・。
だけど、碧は男なのだ・・・。
男の頭を無造作に男が撫でることなんて・・・・・・・。まあ、普通はあり得ないことだけど、そんな殺意や敵意を向けられるゆえんはないというもの・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「あ・・・・・・・・。」
ただ、だからといって、このまま、碧の頭を撫で続けることができるほどに心が強いわけでもなく、なんとなく漂う居たたまれなさに屈してしまい、頭の上から手を放す俺・・・。
「む~」
どうやら碧はまだ撫でられたりないようだ。
唇を尖らし、頬を膨らませ、軽くこちらをジト目で見てくる碧はどこからどう見ても、女の子だった・・・。
そして、確認のために周りを再度見回してみると、明らかに男子達のさっきまでの漲るような殺意の波動はなくなり、その代わりに、女子達の「え、もうしないの・・・?」と言わんばかりの表情があり・・・・・・・・・・・。
(俺はどうすればよかったんだ・・・・・・・。)
そんなことを思ってしまうのだった。
キーンコーンカーンコーン
そして、時間はあっという間に過ぎ・・・・・・・・・・・。
今、ようやく本日最後の授業の終わりを告げるチャイムの音が教室内に鳴り響く。
まあ、あの碧の「女の子になっちゃった」発言の後、色々あったことはあった。
元から小動物のように可愛い女の子みたいな見た目であったこともあり、体育の時間になると、女子達に女子側へ連れて行かれそうになって、それをいつもは拒否っていた碧が今日に限っては大人しく、着いていっていたり、家庭科の授業では女子に囲まれながらエプロンを作ってもいたし・・・。
いつもは嫌がっているはずの女の子扱いをすんなり受け入れているようで、なんだかなと首を傾げてしまうほどだった。
そして、今・・・・・・・・。
「友志~帰ろ~」
いつも通り、一緒に帰ろうといわんばかりの顔で近寄ってくる碧の姿があった。
「ちょっと待て、まだ担任の話が終わってないだろ?まだだ、待て、ステイ」
「む~」
思わず、ペットにそうするかのような諫め方をしてしまう俺にまたもや頬を膨らませて、不満なことを訴えてくる碧・・・。
(ほんと、可愛いよな・・・。こいつ・・・。いつにも増して男に見えねぇ・・・。)
ほんと、どういう訳なのかわからないが、今日の碧は女の子扱いを受け入れているせいもあるからなのか、それとも別の理由でもあるのだろうか、いつにも増して可愛いし、女の子にしか見えなかった。
俺がこいつの性別を知っていても、こう思うのだから、よっぽどのことだ。
それにしても・・・。
『なんで、有志の奴ばっかり・・・。』『ずるい・・・・・・。』『俺も碧ちゃんともっと交流しておけば・・・・。』
ペットのような扱いをした直後からクラスメイトの男共の視線やそれに付随した妬みや嫉みといった感情を込めたような言葉の数々が痛い・・・。
今までもこういうことはあったが、今日はこれまたいつにも増して酷い・・・。
(というか、今、しれっと、碧のこと碧”ちゃん”って言ってるやつもいたよな・・・。)
「はぁ・・・・・・・・・。」
思わず、深いため息が出ていた。
というか、碧の急な”女体化発言”から何度目のため息なのだろうか、そう思ってしまうほどに今日という日はよくため息をついたものだ。
そして・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「♪」
終礼の時間もつつがなく終わり、待ち侘びた時間が訪れたとばかりにニコニコしながら、こちらの帰り支度を机の前で待っている碧・・・。
(なにがそんなにもこいつを嬉しくさせているんだ・・・・・?やけに女の子っぽく可愛いし・・・。)
わけがわからない。
朝の”女体化(の設定)宣言以降、なにか特別なことがあったとかでもないのに、この幸福感漂わせているこの感じはなぜなのだろうか・・・・。
頭の中では疑問符がひしめき合っては、おれを混乱へ陥らせていく。
「碧ちゃん、バイバイ」
「うん、バイバ~イ」
鞄に物を入れながら、聞こえてくるのは、他のクラスメイトの挨拶の声。
いつもの碧であれば、こんな時「”ちゃん”付けすんなよなぁ、おれ、一応男だぞ~」くらい言うというのに、今日に限っては完全にそれすらも受け入れているようで・・・。
いや、それどころか、クラスメイトに対して可愛らしく手を振っているその姿はモテる女の子然としていて、こんなことをされて惚れないわけがないんじゃないだろうかと思ってしまう・・・。
(だけど、こいつは男なんだよな・・・・・。こんなにもかわい子ぶってるけど、きっちり付いてんだよなぁ・・・・・・。)
碧はれっきとした男なのだ。
俺と同じものが股間に付いている、れっきとした正真正銘の男・・・。
昨日まで男子トイレで一緒にした時にそれは何度も確認しているから間違っているわけがない。
というか、ここまできっちりと、碧は男なのだと考えないと間違いが簡単に起きそうで怖かった。
「ねね、有志~どっか寄って帰る~??」
鞄に物を詰め込み、帰り支度が終わった瞬間、そんなことを上目遣いで問いかけてくる碧。
(か、可愛いな!!!ってダメだ!!俺!!!しっかりしろ
碧の突然の精神攻撃に思わず、「可愛い」と本音を漏らしてしまいそうになる俺・・・。
流石に上目遣いは反則だと思う。
少し、ぐらッとしたじゃないか・・・。
「ああ。そうだな・・・・・・・。どこか行きたいとこでもあるのか?」
俺はなんとか平静を装って、碧の提案に乗ってやることにした。
本音を言えば、今すぐにでも家に帰って、この煩悩を振り払うべく、顔を冷水で洗い流したいところだがせっかくの碧の誘いを無碍にできるほどに、俺は冷たくはない。
というか・・・・・・・。
(なんか話したいことでもあるのかもしれないしな・・・・・。)
いきなり、女の子になった宣言をしてきたことといい、その後のクラスメートからの女子扱いを甘んじて受け入れていることもそうで、今日の碧はおかしい。
だからこそ、なにか悩みでもあるのなら、聞いてやろう、そう思った。
親友だし・・・・・・・。
しかし・・・。
「ルンルル~ン♪」
そのつもりで、碧の提案に乗った俺だったのだが。
碧は怖いくらいに上機嫌だった。
鼻歌を歌いながら、俺の腕を恋人かといいたくなるくらいに絡みついてきているその姿からは一ミリの悩みは感じられない。
どちらかといえば、恋人と一緒にいられて幸せ気分な彼女のよう・・・・・・・。
(え、こいつなんなん!?)
思わず、そんなことを思ってしまうほどに、碧の行動の真意がわからない。
ちんぷんかんぷんだ。
ただ、当の本人の碧はそんな俺の困惑なんていうのは気にも留めていないのだろう。
廊下を歩き、靴箱で靴を取り出し、ぶらぶらと歩いているこの最中もずっとニコニコしたり、頬を赤く染めたりを繰り返している。
(可愛いけど、可愛いけど!!!なんか企んでるのか、こいつ!?)
ほんとうに今日の碧はいつにも増して可愛い女の子だった。
なんで、俺のような冴えない男子にこんな可愛い女の子が隣にいるのか傍から見れば不思議に思うに違いない。
というか・・・・・・・。
グサリ グサリ
教室で頭を撫でていた時同様に、他クラスや他学年の野郎どもの怨嗟の篭った視線が突き刺さってきて、なんとも居たたまれない。
まあ、仕方がない事とはいえ、居心地は悪い。
「はぁ・・・・・・・・・・・・。」
「友志~どしたの??」
どうにもこうにも碧にこの視線というか、この俺が今まさにひしひしと感じている嫌な感じというのは、感じ取ることはできないのかもしれない。
碧のそんな何気のない問いかけに対して、お前のせいだぞ。と小言を少し入ってやりたい気分だったが、なんだか、それはまるで”碧が女の子として注目されていることを認めてしまうようで・・・・・・・。
「あぁ、なんでもない・・・・・・・・・。少し疲れただけだ」
そう、返答するのが精いっぱいだった。
「有志、有志!!!ねぇ・・・・・・・・・・。ねぇってば・・・・・。」
「ああ、悪い悪い・・・・・・・・。どうした?」
それにしても・・・・・・・・・・・。本当に碧はどうしてしまったんだろうか・・・。
俺が上の空なことがよほど気に入らないのか、話をこまめに振ってきてはこうやって、おれのことを揺さぶってくるのだ・・・。
本音を言えば、物凄く愛らしい・・・・・・・・・・。
ただ、ここまで、碧が女っぽい行動をしてくると、困惑が勝ってしまうというもの・・・。
そもそも、いつものこいつはどちらかと言えば、他の男子に比べて幼く可愛らしい自分の容姿に対して劣等感を抱き、女の子扱いなんて以ての外忌避していたというのに・・・・・・。
(なんだ、この変わりようは・・・・・・・。)
そう思ってしまうのは、長年、”親友”をやっている以上、当然であり、仕方がなかった。
ただ・・・・・・・・・・。
「友志、あそこのパフェ美味しそう・・・・・・・。寄ってかない?」
「そ、そうだな・・・・・・・・・・・・・。」
そんな思惑を俺が抱えていることなんて知る由もないのだろう。
碧はまたしても、可愛い笑顔をこちらに向けてくる。・・・・・・・
(はぁ、ほんとどうしちまったんだよ・・・・・・・・・。)
「うん、すごく美味しいね♪」
カフェに入り、碧は言っていた通りのパフェを注文し、俺はどうにも甘いものを食べる気にはなれずにコーヒーだけを注文し、席に座っているわけなのだが・・・・・・・。
「ぁぁ、クリームすっごく甘い・・・・・・。美味しい・・・・・。」
そう言いながら、美味しそうにパフェを食べている碧・・・。
普通に可愛い・・・・・・・。
というか、今日という日は本当に碧に可愛いという感情しか沸いていないようにすら思ってしまう・・・・・。
コーヒーを啜りながら、眼前に映るのは可愛い女の子というこの光景・・・。
役得でしかないとは思う。
絶対、傍から見れば男女のカップルがカフェで食事をしている光景にしか見えないように思う。
「あ、有志も食べたい??あ~ん」
そして、まさにこれとかも完全にカップルのそれだろう。
男同士であ~んなんて俺は見たことがない・・・・・・・・。
「はぁ・・・・・・・・・・・。」
「もう、有志!!今日ため息ばっかりじゃん、俺と一緒にいて楽しくないの!?!?」
どうやら、この何度目かわからないため息がついに碧の琴線に触れてしまったのだろう。
ややヒステリックに怒り出す碧に、困惑してしまう。
その口ぶりはまるで女みたいで・・・・・・。
「わ、悪かったって・・・。楽しいから・・・・・・・・。」
思わずそんな風に謝ってしまう俺・・・。
一切合切、ほんとうに俺の親友はどうしたんだろうか・・・・・。
こんな些細なことで怒りだすような奴じゃないはずなのに・・・・・・・。
「ゼ、全然楽しそうじゃないじゃん!!!今日何回俺の前でため息ついたかわかってる!?その度に、俺、すごく嫌な気分になるんだよ・・・・・。ウッウッ
ガチギレだった。
どうやら、俺のため息はしっかりとその都度、碧の耳にも届いていたらしい。
めちゃくちゃ悲しそうに責め立ててきたかと思えば、感極まったのか泣き出した碧にもうどうしたらいいのかわからない。
あれほど、さっきまで満開の笑顔でパフェを頬張っていたというのに、今じゃあ、そんな面影はなく、顔をぐしゃぐしゃにして泣いている・・・・・・。
「わ。悪かった・・・。ほ、ほんとにごめん!!!」
こんなにも感情をむき出しにして泣いている親友を見るのは初めてで、そんな顔を見るたび、泣き声を聞くたびに俺の中に着実に罪悪感が詰まれていく・・・。
さらに・・・・・・。
「うわ、あそこの席の女の子泣き出しちゃったよ・・・。彼氏君、なに言ったんだよ・・・。」
「可哀想・・・・・・・・・・・・。」
周囲から見れば、彼女を泣かせた彼氏という最悪な構図に見えているのだろう。
聞き耳を立てると、周囲の席から、おれを責めているような言葉の数々が聞こえてきては、グサリグサリと俺の心を突きさしていく。
「ご、ごめんって・・・・・・・。まさかそんな風に思わせていたなんて気付けなかったんだ・・・・・・。ほんとに悪かった・・・・・・。だから、泣き止んでくれ・・・・・。」
そして、そんな雰囲気のせいに影響されてなのだろう。
俺の、親友を宥めるそんな台詞も、自然と彼氏が彼女を宥めているように見えてくるというもの・・・・・・・・・。
なんで・・・・・・・・・・。こんなことに・・・・・・。
そうとしか、今は思えない。
「もう、ほんとに・・・・・・・。」
「わ、悪かったって・・・・。」
あの後、周囲の俺めがけて突き刺さってくる視線や責めるような言葉の数々がやむことはなく、会計を済まそうと思えば、女性店員に睨みつけられるという悲惨な目に遭ったものの、なんとかようやく落ち着きを取り戻したのか、今はこうやって小言を漏らすだけに留めてくれている碧・・・・・・・・。
ほんと、とんだ勘違いだった・・・・・・・・・・。
「やれやれだ・・・・・・・・・・。」
「ん、なんか言った!?」
「なんにも言ってません・・・・・・・・。」
ほんと、今日の碧はどうしたんだというんだ・・・・・・・。
今みたいな些細な言葉にさえ、敏感に反応して声を荒げてくる親友に少なからず、恐怖を抱いてしまう俺・・・・・・・・。
(考え方も女の子になったんだろうか・・・・・・・。)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
沈黙が痛い・・・・・・・。
なにを言ったらキレるのかわからない状況も相まって探り合っているときのように言葉が出てこない・・・。
そして、それは、碧も同じように思っているのかもしれない。
駅に続く道を一歩、また一歩と歩みを進めるものの、碧からも何も言葉がないのだから・・・。
こんなことは大喧嘩をした時くらいのもの・・・。
「あ・・・・・・・・・・。」
そうして、二人して無言のまま、歩みを進めていっていたからなのだろう。
駅の明かりが見えた瞬間、二人揃って見計らったような声を上げた。
そして・・・・・・・・。
「じゃあね・・・・・・。」
「おう・・・・・・・・・・。」
この二人の間に流れる微妙な空気の中で、まだ一緒にいようとは思わなかったのだろう。
碧はなにか、なにかを言いたげにはしていたが、足早に駅の方へ向かいながら、手を振ってくる。
俺は今日の碧についていったい何がしたかったのか、その真意はなんだったのかわからないものの、そのまま、手を振り返した。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ふぅ~ほんと、今日の碧はなんだったんだろうか・・・・・・・・。どう考えてもおかしかったなぁ・・・・・・・・・・。女の子になったって言ったり・・・・・・・・。女の子扱いを受け入れていたり・・・・・・・・・・。どうしたんだろうな・・・・・・・・・。」
お風呂の湯船につかりながら考えるのは、碧のことだった。
どうしてあんな風になってしまったのかわからない。悩みがあるのなら打ち明けてほしかったのだが、それもしてくれなかったことに少なからず感じてしまうものがあった。
ただまあ・・・・・・・・・。
「明日も学校はあるし、まあ、話したいことがあるなら話てくるだろ」
いくら考えたからって、今ここで碧の真意が知ることができない以上、これ以上考え続けるというのも時間の無駄というものだろう・・・。
おれは、そう結論付けると、お風呂から上がった
ただ、碧から感じた違和感は俺の頭の中でその後もぐるぐると渦巻いていた。
それは突然のことだった。
いつもと変わらない学校、いつもと変わらない教室、いつもと変わらない親友の姿
「え、は、なに冗談?」
最初、俺は完全に何かの冗談なのだろうと思っていた。
だって・・・・。
(女になったって・・・・・・。お前、なんにも変化ないじゃん・・・。)
瞳に映る、親友は何一つ昨日までと変化がなかったのだから、こう思ってもおおよそ仕方がないだろう。
俺の親友、碧は男という割には可愛い顔つきの男の娘という類のもので、男性としての成長が遅かったのか、低身長で声も男にしては高く、正直、昨日までのこいつでも女の子の服を着ていたとしたら、誰しもが女の子なのだと勘違いしてしまうんじゃないか・・・。
そんな親友だったからこそ、今日のこれも何かの冗談なのだろうと思った。
しかし・・・・・・。
「は???冗談なわけないんだが!!!おれ、本当に女の子になったんだが!!!」
そう言って怒り出す碧・・・。
どうやら今日はこういう設定?で一日を送りたいのかもしれない。
(まあ、そういう気分の時もあるのかもしれないな・・・。うん、そうなんだな・・・。)
「あ、そうなのか・・・。へ~、お前が女にね~」
「な、なんだよ・・・。その全く信じていないみたいな反応は!?」
「いやぁ、信じてるよ・・・。うん、信じてる信じてる・・・。お前は女になった。そうなんだろ??」
「むぅ~」
頬を膨らませて不機嫌なことを現す碧はどこからどう見ても可愛らしい”女の子”
ただ、それはほぼほぼいつものことなので、今日も可愛いなくらいの感情しか、そんな表情を見ても沸いてはこない。
女顔で、かつ、身体つきも女っぽいことの一種の弊害なのかもしれないな・・・。
「それで・・・・・・・。俺はどうしたらいいんだ?お前が女の子になった(という設定)ってなら、俺もなんかしたほうがいいのか・・・?」
おれは、いつも通りのこの他愛のない遊びに乗ってやることにした。
碧は時折、こうやって何かのキャラや性格を演じるというまあ、俗にいう設定をよくする奴だから・・・。
「ん~、まだ本当に信じてくれてる気はしないけど・・・・・。まあ、お前がそう言うんだったら・・・・。う~ん・・・・・。なにしてもらおうかなぁ・・・・・。」
珍しく悩んでるようなそぶりを見せる碧に少しだけ、違和感を覚える俺・・・。
(いつもだったら、こういう返しが来た時のためにポンポンと設定を出してくるものなんだが・・・・・。それほどにこの自分が”女の子になった”という設定は即興っていうことなんだろうか・・・。)
「あ、じゃあ、とりあえず、頭撫でて///」
「は?」
耳を疑った。
首を傾げ、悩んでいるような、そんな素振りを見せていた碧が絞り出すように要求してきたのが、そんな”頭を撫でる”なんていう、なんでもない、ありふれた行為だったのだから・・・。
「そ、そんなことでいいのか??
「うん、いいの、早く撫でて///あ、できるだけ優しくね///」
なんでこいつはこんなにも顔を真っ赤にさせてそんななんでもないことをお願いしてくるんだろうか・・・。
まあ、可愛いからいいんだが・・・。
「んっ///あ///」
そして、頭を碧が言ったように優しく撫でてやる俺・・・。
なんか、いつにも増して髪の毛がサラサラな気がしなくもないが、きっと気のせいだろう。
いつも手入れをしているこいつに「今日はいつも以上にサラサラしてるな」なんて言うのもなんだか無粋な気もしたから・・・。
ただまあ・・・・・・・・・・・。
「あ、あのさ・・・。碧、そんな変な声を出さないでくれ・・・。」
多分、碧の頭を撫でるなんて言うことはこいつと出会い、これまで過ごす中で幾度となくあったことだろう、それなのに、碧ときたらまるではじめての気持ちを味わっているかのように気持ちよさそうに、あられもない声を上げては少なからずこちらをイケない気分にさせてくる。
「ふわ///ご、ごめん///つ、つい、つい・・・。その//////」
ほんとになんなんだろうか、この可愛い生命体は・・・。
謝りながらも、顔を赤らめてくる碧はいつも以上に可愛く、それでいて、女の子のようで・・・。
だけど、こいつはれっきとした男・・・。
もしも、こいつが女で、それも俺の彼女だったとしたら、何の迷いもなくこの腕の中に閉じ込めたことだろう。だが、男のこいつにそんなことをいきなりするのはさすがに野暮が過ぎる。
いくら”女の子”設定があったとしてもだ・・・。
追加要求をされない限りは、この境界線だけは超えちゃいけない、そんな気がした。
(まあ、おれの理性がそんなことしたら持たなくなるしな・・・・・・。)
「ん~♪」
めちゃくちゃ上機嫌なのがはっきりわかってしまうほどに嬉しそうな碧・・・。
男同士で、それなのに、こんな他愛もない事だけで喜んでいるのはどうなんだろうか、そんな思いはあったが、まあ、碧がそれでいいのならいいのかもしれない。
ただ、今のこの状況・・・。
碧のことをひたすらに撫でる俺・・・。
そして、そんな俺の行動に対して、時折あられもない声を混ぜつつ反応する碧・・・。
こんなの、傍から見れば、完全にいちゃついているようにしか見えなくもないのだが、そこのところは大丈夫なんだろうか・・・。
それだけが気が掛かりというか心配で・・・。
チラッ、チラッ
一応、周囲の状況を探るためあたりを見回していく俺・・・。
ギロッ
にやにや
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)
どうやら、俺の不安は的中していたようだ。
辺りを見回していくとどう考えても、敵意、いや殺意むき出しでこちらを見てくる男子やその逆にニヤニヤと見ている女子の姿などが目に入り、なんとも言えない気持ちになってしまう・・・。
(いや、俺はただこいつの設定に乗っかかっているだけなんだが!!!)
正直、俺があっち側の立場だったとしたら、同じことを思ってしまうのかもしれない。
見るからに可愛らしい女子の頭を無造作に撫で続けている男なんて、それこそ、モテない男子達にとっては敵以外の何物でもない・・・。
だけど、碧は男なのだ・・・。
男の頭を無造作に男が撫でることなんて・・・・・・・。まあ、普通はあり得ないことだけど、そんな殺意や敵意を向けられるゆえんはないというもの・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「あ・・・・・・・・。」
ただ、だからといって、このまま、碧の頭を撫で続けることができるほどに心が強いわけでもなく、なんとなく漂う居たたまれなさに屈してしまい、頭の上から手を放す俺・・・。
「む~」
どうやら碧はまだ撫でられたりないようだ。
唇を尖らし、頬を膨らませ、軽くこちらをジト目で見てくる碧はどこからどう見ても、女の子だった・・・。
そして、確認のために周りを再度見回してみると、明らかに男子達のさっきまでの漲るような殺意の波動はなくなり、その代わりに、女子達の「え、もうしないの・・・?」と言わんばかりの表情があり・・・・・・・・・・・。
(俺はどうすればよかったんだ・・・・・・・。)
そんなことを思ってしまうのだった。
キーンコーンカーンコーン
そして、時間はあっという間に過ぎ・・・・・・・・・・・。
今、ようやく本日最後の授業の終わりを告げるチャイムの音が教室内に鳴り響く。
まあ、あの碧の「女の子になっちゃった」発言の後、色々あったことはあった。
元から小動物のように可愛い女の子みたいな見た目であったこともあり、体育の時間になると、女子達に女子側へ連れて行かれそうになって、それをいつもは拒否っていた碧が今日に限っては大人しく、着いていっていたり、家庭科の授業では女子に囲まれながらエプロンを作ってもいたし・・・。
いつもは嫌がっているはずの女の子扱いをすんなり受け入れているようで、なんだかなと首を傾げてしまうほどだった。
そして、今・・・・・・・・。
「友志~帰ろ~」
いつも通り、一緒に帰ろうといわんばかりの顔で近寄ってくる碧の姿があった。
「ちょっと待て、まだ担任の話が終わってないだろ?まだだ、待て、ステイ」
「む~」
思わず、ペットにそうするかのような諫め方をしてしまう俺にまたもや頬を膨らませて、不満なことを訴えてくる碧・・・。
(ほんと、可愛いよな・・・。こいつ・・・。いつにも増して男に見えねぇ・・・。)
ほんと、どういう訳なのかわからないが、今日の碧は女の子扱いを受け入れているせいもあるからなのか、それとも別の理由でもあるのだろうか、いつにも増して可愛いし、女の子にしか見えなかった。
俺がこいつの性別を知っていても、こう思うのだから、よっぽどのことだ。
それにしても・・・。
『なんで、有志の奴ばっかり・・・。』『ずるい・・・・・・。』『俺も碧ちゃんともっと交流しておけば・・・・。』
ペットのような扱いをした直後からクラスメイトの男共の視線やそれに付随した妬みや嫉みといった感情を込めたような言葉の数々が痛い・・・。
今までもこういうことはあったが、今日はこれまたいつにも増して酷い・・・。
(というか、今、しれっと、碧のこと碧”ちゃん”って言ってるやつもいたよな・・・。)
「はぁ・・・・・・・・・。」
思わず、深いため息が出ていた。
というか、碧の急な”女体化発言”から何度目のため息なのだろうか、そう思ってしまうほどに今日という日はよくため息をついたものだ。
そして・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「♪」
終礼の時間もつつがなく終わり、待ち侘びた時間が訪れたとばかりにニコニコしながら、こちらの帰り支度を机の前で待っている碧・・・。
(なにがそんなにもこいつを嬉しくさせているんだ・・・・・?やけに女の子っぽく可愛いし・・・。)
わけがわからない。
朝の”女体化(の設定)宣言以降、なにか特別なことがあったとかでもないのに、この幸福感漂わせているこの感じはなぜなのだろうか・・・・。
頭の中では疑問符がひしめき合っては、おれを混乱へ陥らせていく。
「碧ちゃん、バイバイ」
「うん、バイバ~イ」
鞄に物を入れながら、聞こえてくるのは、他のクラスメイトの挨拶の声。
いつもの碧であれば、こんな時「”ちゃん”付けすんなよなぁ、おれ、一応男だぞ~」くらい言うというのに、今日に限っては完全にそれすらも受け入れているようで・・・。
いや、それどころか、クラスメイトに対して可愛らしく手を振っているその姿はモテる女の子然としていて、こんなことをされて惚れないわけがないんじゃないだろうかと思ってしまう・・・。
(だけど、こいつは男なんだよな・・・・・。こんなにもかわい子ぶってるけど、きっちり付いてんだよなぁ・・・・・・。)
碧はれっきとした男なのだ。
俺と同じものが股間に付いている、れっきとした正真正銘の男・・・。
昨日まで男子トイレで一緒にした時にそれは何度も確認しているから間違っているわけがない。
というか、ここまできっちりと、碧は男なのだと考えないと間違いが簡単に起きそうで怖かった。
「ねね、有志~どっか寄って帰る~??」
鞄に物を詰め込み、帰り支度が終わった瞬間、そんなことを上目遣いで問いかけてくる碧。
(か、可愛いな!!!ってダメだ!!俺!!!しっかりしろ
碧の突然の精神攻撃に思わず、「可愛い」と本音を漏らしてしまいそうになる俺・・・。
流石に上目遣いは反則だと思う。
少し、ぐらッとしたじゃないか・・・。
「ああ。そうだな・・・・・・・。どこか行きたいとこでもあるのか?」
俺はなんとか平静を装って、碧の提案に乗ってやることにした。
本音を言えば、今すぐにでも家に帰って、この煩悩を振り払うべく、顔を冷水で洗い流したいところだがせっかくの碧の誘いを無碍にできるほどに、俺は冷たくはない。
というか・・・・・・・。
(なんか話したいことでもあるのかもしれないしな・・・・・。)
いきなり、女の子になった宣言をしてきたことといい、その後のクラスメートからの女子扱いを甘んじて受け入れていることもそうで、今日の碧はおかしい。
だからこそ、なにか悩みでもあるのなら、聞いてやろう、そう思った。
親友だし・・・・・・・。
しかし・・・。
「ルンルル~ン♪」
そのつもりで、碧の提案に乗った俺だったのだが。
碧は怖いくらいに上機嫌だった。
鼻歌を歌いながら、俺の腕を恋人かといいたくなるくらいに絡みついてきているその姿からは一ミリの悩みは感じられない。
どちらかといえば、恋人と一緒にいられて幸せ気分な彼女のよう・・・・・・・。
(え、こいつなんなん!?)
思わず、そんなことを思ってしまうほどに、碧の行動の真意がわからない。
ちんぷんかんぷんだ。
ただ、当の本人の碧はそんな俺の困惑なんていうのは気にも留めていないのだろう。
廊下を歩き、靴箱で靴を取り出し、ぶらぶらと歩いているこの最中もずっとニコニコしたり、頬を赤く染めたりを繰り返している。
(可愛いけど、可愛いけど!!!なんか企んでるのか、こいつ!?)
ほんとうに今日の碧はいつにも増して可愛い女の子だった。
なんで、俺のような冴えない男子にこんな可愛い女の子が隣にいるのか傍から見れば不思議に思うに違いない。
というか・・・・・・・。
グサリ グサリ
教室で頭を撫でていた時同様に、他クラスや他学年の野郎どもの怨嗟の篭った視線が突き刺さってきて、なんとも居たたまれない。
まあ、仕方がない事とはいえ、居心地は悪い。
「はぁ・・・・・・・・・・・・。」
「友志~どしたの??」
どうにもこうにも碧にこの視線というか、この俺が今まさにひしひしと感じている嫌な感じというのは、感じ取ることはできないのかもしれない。
碧のそんな何気のない問いかけに対して、お前のせいだぞ。と小言を少し入ってやりたい気分だったが、なんだか、それはまるで”碧が女の子として注目されていることを認めてしまうようで・・・・・・・。
「あぁ、なんでもない・・・・・・・・・。少し疲れただけだ」
そう、返答するのが精いっぱいだった。
「有志、有志!!!ねぇ・・・・・・・・・・。ねぇってば・・・・・。」
「ああ、悪い悪い・・・・・・・・。どうした?」
それにしても・・・・・・・・・・・。本当に碧はどうしてしまったんだろうか・・・。
俺が上の空なことがよほど気に入らないのか、話をこまめに振ってきてはこうやって、おれのことを揺さぶってくるのだ・・・。
本音を言えば、物凄く愛らしい・・・・・・・・・・。
ただ、ここまで、碧が女っぽい行動をしてくると、困惑が勝ってしまうというもの・・・。
そもそも、いつものこいつはどちらかと言えば、他の男子に比べて幼く可愛らしい自分の容姿に対して劣等感を抱き、女の子扱いなんて以ての外忌避していたというのに・・・・・・。
(なんだ、この変わりようは・・・・・・・。)
そう思ってしまうのは、長年、”親友”をやっている以上、当然であり、仕方がなかった。
ただ・・・・・・・・・・。
「友志、あそこのパフェ美味しそう・・・・・・・。寄ってかない?」
「そ、そうだな・・・・・・・・・・・・・。」
そんな思惑を俺が抱えていることなんて知る由もないのだろう。
碧はまたしても、可愛い笑顔をこちらに向けてくる。・・・・・・・
(はぁ、ほんとどうしちまったんだよ・・・・・・・・・。)
「うん、すごく美味しいね♪」
カフェに入り、碧は言っていた通りのパフェを注文し、俺はどうにも甘いものを食べる気にはなれずにコーヒーだけを注文し、席に座っているわけなのだが・・・・・・・。
「ぁぁ、クリームすっごく甘い・・・・・・。美味しい・・・・・。」
そう言いながら、美味しそうにパフェを食べている碧・・・。
普通に可愛い・・・・・・・。
というか、今日という日は本当に碧に可愛いという感情しか沸いていないようにすら思ってしまう・・・・・。
コーヒーを啜りながら、眼前に映るのは可愛い女の子というこの光景・・・。
役得でしかないとは思う。
絶対、傍から見れば男女のカップルがカフェで食事をしている光景にしか見えないように思う。
「あ、有志も食べたい??あ~ん」
そして、まさにこれとかも完全にカップルのそれだろう。
男同士であ~んなんて俺は見たことがない・・・・・・・・。
「はぁ・・・・・・・・・・・。」
「もう、有志!!今日ため息ばっかりじゃん、俺と一緒にいて楽しくないの!?!?」
どうやら、この何度目かわからないため息がついに碧の琴線に触れてしまったのだろう。
ややヒステリックに怒り出す碧に、困惑してしまう。
その口ぶりはまるで女みたいで・・・・・・。
「わ、悪かったって・・・。楽しいから・・・・・・・・。」
思わずそんな風に謝ってしまう俺・・・。
一切合切、ほんとうに俺の親友はどうしたんだろうか・・・・・。
こんな些細なことで怒りだすような奴じゃないはずなのに・・・・・・・。
「ゼ、全然楽しそうじゃないじゃん!!!今日何回俺の前でため息ついたかわかってる!?その度に、俺、すごく嫌な気分になるんだよ・・・・・。ウッウッ
ガチギレだった。
どうやら、俺のため息はしっかりとその都度、碧の耳にも届いていたらしい。
めちゃくちゃ悲しそうに責め立ててきたかと思えば、感極まったのか泣き出した碧にもうどうしたらいいのかわからない。
あれほど、さっきまで満開の笑顔でパフェを頬張っていたというのに、今じゃあ、そんな面影はなく、顔をぐしゃぐしゃにして泣いている・・・・・・。
「わ。悪かった・・・。ほ、ほんとにごめん!!!」
こんなにも感情をむき出しにして泣いている親友を見るのは初めてで、そんな顔を見るたび、泣き声を聞くたびに俺の中に着実に罪悪感が詰まれていく・・・。
さらに・・・・・・。
「うわ、あそこの席の女の子泣き出しちゃったよ・・・。彼氏君、なに言ったんだよ・・・。」
「可哀想・・・・・・・・・・・・。」
周囲から見れば、彼女を泣かせた彼氏という最悪な構図に見えているのだろう。
聞き耳を立てると、周囲の席から、おれを責めているような言葉の数々が聞こえてきては、グサリグサリと俺の心を突きさしていく。
「ご、ごめんって・・・・・・・。まさかそんな風に思わせていたなんて気付けなかったんだ・・・・・・。ほんとに悪かった・・・・・・。だから、泣き止んでくれ・・・・・。」
そして、そんな雰囲気のせいに影響されてなのだろう。
俺の、親友を宥めるそんな台詞も、自然と彼氏が彼女を宥めているように見えてくるというもの・・・・・・・・・。
なんで・・・・・・・・・・。こんなことに・・・・・・。
そうとしか、今は思えない。
「もう、ほんとに・・・・・・・。」
「わ、悪かったって・・・・。」
あの後、周囲の俺めがけて突き刺さってくる視線や責めるような言葉の数々がやむことはなく、会計を済まそうと思えば、女性店員に睨みつけられるという悲惨な目に遭ったものの、なんとかようやく落ち着きを取り戻したのか、今はこうやって小言を漏らすだけに留めてくれている碧・・・・・・・・。
ほんと、とんだ勘違いだった・・・・・・・・・・。
「やれやれだ・・・・・・・・・・。」
「ん、なんか言った!?」
「なんにも言ってません・・・・・・・・。」
ほんと、今日の碧はどうしたんだというんだ・・・・・・・。
今みたいな些細な言葉にさえ、敏感に反応して声を荒げてくる親友に少なからず、恐怖を抱いてしまう俺・・・・・・・・。
(考え方も女の子になったんだろうか・・・・・・・。)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
沈黙が痛い・・・・・・・。
なにを言ったらキレるのかわからない状況も相まって探り合っているときのように言葉が出てこない・・・。
そして、それは、碧も同じように思っているのかもしれない。
駅に続く道を一歩、また一歩と歩みを進めるものの、碧からも何も言葉がないのだから・・・。
こんなことは大喧嘩をした時くらいのもの・・・。
「あ・・・・・・・・・・。」
そうして、二人して無言のまま、歩みを進めていっていたからなのだろう。
駅の明かりが見えた瞬間、二人揃って見計らったような声を上げた。
そして・・・・・・・・。
「じゃあね・・・・・・。」
「おう・・・・・・・・・・。」
この二人の間に流れる微妙な空気の中で、まだ一緒にいようとは思わなかったのだろう。
碧はなにか、なにかを言いたげにはしていたが、足早に駅の方へ向かいながら、手を振ってくる。
俺は今日の碧についていったい何がしたかったのか、その真意はなんだったのかわからないものの、そのまま、手を振り返した。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ふぅ~ほんと、今日の碧はなんだったんだろうか・・・・・・・・。どう考えてもおかしかったなぁ・・・・・・・・・・。女の子になったって言ったり・・・・・・・・。女の子扱いを受け入れていたり・・・・・・・・・・。どうしたんだろうな・・・・・・・・・。」
お風呂の湯船につかりながら考えるのは、碧のことだった。
どうしてあんな風になってしまったのかわからない。悩みがあるのなら打ち明けてほしかったのだが、それもしてくれなかったことに少なからず感じてしまうものがあった。
ただまあ・・・・・・・・・。
「明日も学校はあるし、まあ、話したいことがあるなら話てくるだろ」
いくら考えたからって、今ここで碧の真意が知ることができない以上、これ以上考え続けるというのも時間の無駄というものだろう・・・。
おれは、そう結論付けると、お風呂から上がった
ただ、碧から感じた違和感は俺の頭の中でその後もぐるぐると渦巻いていた。
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