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それは、ゆらゆらと
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近所の廃屋で肝試しをしていた高校生たちが翌日、突然倒れて病院送りになったという話を聞いた。
原因不明の熱病にうなされているそうだ。
正直、俺は「またか」という気分だった。どうしてあんな場所に行きたがるのか理解できない。
幽霊を信じているわけじゃないが、あんな気持ちの悪い場所に魅力なんかない。信じていないというのは、俺は幽霊をみたことも、奇妙な体験をしたこともないからだ。よって、俺には霊感はない。
近所の廃屋は肝試しによく使われている。いつ頃から廃屋なのかは覚えていないが子どもの頃には、すでに誰も住んでいなかったと思う。
こういう、本当にやばそうな場所にはテレビなんかこないものだ。
俺にはなんの関係も無いと、まさに対岸の火事のごとくそれらの話を聞き流していた。──はずだった。
「え? おまえあそこ入ったの?」
近くに住んでるダチの言葉に、俺は缶コーヒーから口を離した。
「好きで入ったんじゃねえよ。甥を連れ戻してくれって頼まれて仕方なくさ」
親戚の甥が肝試しに入ったらしく、渋々連れ戻しに行ったらしい。噂になっていた連中の一人がこいつの甥だったとは驚きだ。
「大丈夫だったのか」
いくら信じていないとはいえ、あれだけ噂になっていれば気にならないわけはない。
「おれはなんともない」
「何も見なかったのか?」
そう尋ねると、ダチは引きつった顔をした。
「おい?」
「いや、実はな──」
甥を見つけて連れ戻そうと手を引き玄関にむかったとき、変な声が聞こえた。
「それに思わず振り返ったんだ」
そしたら──
「そしたら?」
「暗闇に、真っ黒い目があったんだ」
真っ暗闇のなかに、どうしてだか黒い目がぽっかり浮かんでた。
「変だろ? 何にも見えない闇の中に黒い目だなんて」
見えないはずの場所に目だけが見えたんだ。
「さすがに怖くなって、慌てて甥の手を引っ張って帰ったよ」
そう言ったダチの顔が俺は忘れられなかった。
蒼白で、なのに目だけがぎらついていて、恐怖だけでなく、他のなにかを得たような、そんな顔つきをしていた。
それからほどなくして──
「え? あいつ、いなくなったの?」
別のダチから、廃屋でのことを話していたダチが行方不明だと聞かされた。嘘だろう? なんであいつがいなくなるんだ。
まさか、幽霊の仕業なのか?
いや、行方不明なのだからあの話とは関係ない。そのはずだ。だって、廃屋に入った奴らはみんな倒れている。
しかし、どうしてだか俺はあの廃屋のせいなんだと脳裏でぼんやりとだが確実に解っていた。
あのとき、話を聞いた去り際にあいつは、
「なあ、あそこには絶対に近づくなよ。青い炎が迎えにきちまう」
ダチの目がそのとき一瞬、真っ黒になった気がした。
なんの感情も読み取れず、魚や烏賊の目のようで、人形とも違う恐怖があった。そいつが話した暗闇の黒い目は、こんな感じなのかもしれないと思った。
──帰り道、俺はふと廃屋に目をやった。そこには、いくつもの青い光がぽつりぽつりと浮いていた。家の中にじゃない、外にだ。
建物を取り囲むように青白い光がおぼろげに、遊んでいるみたいにふらふらと浮かんでいた。
俺は思わず引き気味に小さく叫びはあげたけれど、不思議と怖くは無かった。
いや違う。怖いという感情を押しつぶされているような、麻痺させられているような。水中にいるみたいにふわふわとしている。
あの青い光はなんなんだ。あの廃屋に何がある?
ふと、俺は気がついた。あいつは青い光とは言わず、青い炎と言ったことに──それに気付いたときには、俺はすでに廃屋の扉を開いていた。
暗闇のなか、青白い影が俺を手招きする。その後ろには、あいつがいた。
「なあ。なんでお前は選ばれたの?」
[さあ……。ただ、青い炎が選んだからだと言われたよ]
「そうか」
おまえも選ばれたんだよ。
そんな声が聞こえて、俺は深淵に墜ちた。
──今日も、誰かがあの家に足を踏み入れる。
誰が弾かれて、誰が選ばれるのか。それは誰にも解らない。
きっと、ゆらゆらと揺れるあの青い炎だけが知っている。
終
原因不明の熱病にうなされているそうだ。
正直、俺は「またか」という気分だった。どうしてあんな場所に行きたがるのか理解できない。
幽霊を信じているわけじゃないが、あんな気持ちの悪い場所に魅力なんかない。信じていないというのは、俺は幽霊をみたことも、奇妙な体験をしたこともないからだ。よって、俺には霊感はない。
近所の廃屋は肝試しによく使われている。いつ頃から廃屋なのかは覚えていないが子どもの頃には、すでに誰も住んでいなかったと思う。
こういう、本当にやばそうな場所にはテレビなんかこないものだ。
俺にはなんの関係も無いと、まさに対岸の火事のごとくそれらの話を聞き流していた。──はずだった。
「え? おまえあそこ入ったの?」
近くに住んでるダチの言葉に、俺は缶コーヒーから口を離した。
「好きで入ったんじゃねえよ。甥を連れ戻してくれって頼まれて仕方なくさ」
親戚の甥が肝試しに入ったらしく、渋々連れ戻しに行ったらしい。噂になっていた連中の一人がこいつの甥だったとは驚きだ。
「大丈夫だったのか」
いくら信じていないとはいえ、あれだけ噂になっていれば気にならないわけはない。
「おれはなんともない」
「何も見なかったのか?」
そう尋ねると、ダチは引きつった顔をした。
「おい?」
「いや、実はな──」
甥を見つけて連れ戻そうと手を引き玄関にむかったとき、変な声が聞こえた。
「それに思わず振り返ったんだ」
そしたら──
「そしたら?」
「暗闇に、真っ黒い目があったんだ」
真っ暗闇のなかに、どうしてだか黒い目がぽっかり浮かんでた。
「変だろ? 何にも見えない闇の中に黒い目だなんて」
見えないはずの場所に目だけが見えたんだ。
「さすがに怖くなって、慌てて甥の手を引っ張って帰ったよ」
そう言ったダチの顔が俺は忘れられなかった。
蒼白で、なのに目だけがぎらついていて、恐怖だけでなく、他のなにかを得たような、そんな顔つきをしていた。
それからほどなくして──
「え? あいつ、いなくなったの?」
別のダチから、廃屋でのことを話していたダチが行方不明だと聞かされた。嘘だろう? なんであいつがいなくなるんだ。
まさか、幽霊の仕業なのか?
いや、行方不明なのだからあの話とは関係ない。そのはずだ。だって、廃屋に入った奴らはみんな倒れている。
しかし、どうしてだか俺はあの廃屋のせいなんだと脳裏でぼんやりとだが確実に解っていた。
あのとき、話を聞いた去り際にあいつは、
「なあ、あそこには絶対に近づくなよ。青い炎が迎えにきちまう」
ダチの目がそのとき一瞬、真っ黒になった気がした。
なんの感情も読み取れず、魚や烏賊の目のようで、人形とも違う恐怖があった。そいつが話した暗闇の黒い目は、こんな感じなのかもしれないと思った。
──帰り道、俺はふと廃屋に目をやった。そこには、いくつもの青い光がぽつりぽつりと浮いていた。家の中にじゃない、外にだ。
建物を取り囲むように青白い光がおぼろげに、遊んでいるみたいにふらふらと浮かんでいた。
俺は思わず引き気味に小さく叫びはあげたけれど、不思議と怖くは無かった。
いや違う。怖いという感情を押しつぶされているような、麻痺させられているような。水中にいるみたいにふわふわとしている。
あの青い光はなんなんだ。あの廃屋に何がある?
ふと、俺は気がついた。あいつは青い光とは言わず、青い炎と言ったことに──それに気付いたときには、俺はすでに廃屋の扉を開いていた。
暗闇のなか、青白い影が俺を手招きする。その後ろには、あいつがいた。
「なあ。なんでお前は選ばれたの?」
[さあ……。ただ、青い炎が選んだからだと言われたよ]
「そうか」
おまえも選ばれたんだよ。
そんな声が聞こえて、俺は深淵に墜ちた。
──今日も、誰かがあの家に足を踏み入れる。
誰が弾かれて、誰が選ばれるのか。それは誰にも解らない。
きっと、ゆらゆらと揺れるあの青い炎だけが知っている。
終
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