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今回のミッション「地球を救うこと」
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暗黒にきらめく星星。今、宇宙を移動する一隻の小型船がいる。
地球連合宇宙軍の偵察船。
宇宙軍所属の二人は、偵察任務を終え地球へと帰還の途中であった。地球までの道のりはあと少し、時間にすれば三ヶ月ほどである。これは、通常運転で走行した場合に船内の人間が感じる時間間隔であり『ワープ航法』を利用すれば六十分は掛からないといったところだろう。
地球に戻れば、軍への報告などでしばらくは忙しい日々を送らなくてはいけないと分かっている二人は、今のうちに一杯楽しんでおこうと軽い酒盛りをしていた。そんな折、船内に大きな警告音が鳴った。
「キュウナンシゴウヲキャッチシマシタ」
機械的な言語のアナウンスが流れ、モニター画面に救難信号を出している物体を映し出した。物体は、人一人を搭載できるサイズのカプセル。『脱出ポッド』であった。
どこかで宇宙航行機が襲われ、そこから逃れてきたのであろうか? しかし、そんな情報は入ってきていない。大きな事件があればすぐに連絡があるはずだ。二人は、不思議に思いながらも脱出ポッドを回収し救援者を招き入れた。
そして二人は驚く、カプセルより出てきたのは美しい女性であった。しかしなんだ、この違和感は……そうか、彼女には表情がない、いや、感じられないのだ。無機質的とでも言うのか、とても冷たい印象を受けた。
「どうしました? 宇宙海賊にでも船を襲われましたか?」
彼女は放心状態である。上半身だけ起こし、動く気配がない。
――どうした? 返答がない、あまりの恐怖に正気を失っているのか?
二人は互いの顔を見合し、困惑を示す。困った二人だが、このままにはしておけないと声を掛けるでだけではなく、接触を試みた。すると、微弱ながら反応があった。
「初めまして。私は、時空間航行アンドロイド『KR30S-2』通称『ドロイドちゃん』です」
以後お見知りおきを。と頭を下げるアンドロイド。
「時空間航行って、君は未来からでも来たというのか?」
ハイ、そうです。
冷たい瞳がまっすぐ二人を見つめる。
未来から来た。これを事実として受け止めることは二人には難しい。なにせ、文明が発達し宇宙が身近なものになった今、ワープ航法で時間の先へ行くことは叶ったが、時間を戻ることはできないからだ。
ある意味、科学技術が発達し過ぎて夢を見なくなったのも原因の一つかもしれない。
「未来から来ただって!? いいね! 面白い話だ」
少し酔いが回り、ちょっとしたことが可笑しく感じてしまう二人は、笑い話と決めつけ話を続ける。
「それで、わざわざ遠くからやって来て何がしたいんだい?」
二人は軽い気持ちだった。ジョークのつもりでした。
「地球を、人類を、滅亡の危機から救いに来ました」
地球を救いに来たヒロインか、と二人はまた笑い出した。
「ところで、現在は何年の何月ですか?」
「西暦二千三百十一年の十月だけど。そういう君は何年から来たんだい?」
三千七百四十五年。耳に届いた言葉を頭の中で反復する。
「三、七、四、五。み、な、し、ご。見なし子!」
一人でやって来たんだ、まさに『見なし子』だな!
アンドロイドは無表情で笑った。いや、そのように感じた。
「みなしご、皆が死んだ後。『皆、死後』とも言えますね」
アンドロイドのくせに冗談を言うのか? 人類が滅亡した未来からやって来たから『皆、死後』か? 悪い冗談だ。折角の楽しいお酒が台無しだ。
残っている液体を一気に飲み干し、飲み終わった缶を廃棄シューターへと放り込む。
「ポイ捨ては、よくありませんよ。宇宙はゴミ箱ではありません」
「なんだい、缶一個くらい。どこかの衛生軌道に乗って、そのうちどこかの惑星の引力に引かれて燃え尽きるだろうさ」
スイッチを押し、缶を漆黒の闇へと放出する。
冷めた気持ちを払拭するように、新しい缶を開けまた飲み始める。
「で、具体的にどうしたら滅亡の危機から人類を救えるんだい?」
……沈黙。
「私が受けた命令は、缶のポイ捨てを防ぐこと。これが地球を、人類を守る手立てであると指示を受けました」
何をいってるんだ? このアンドロイドは……。
「馬鹿馬鹿しい変な嘘つくんじゃないよ、何で缶一個で未来が変わるんだ!」
「アンドロイドは嘘をつけません。プログラム上、会話を成立させるための冗談は言えますが、嘘をつくことは出来ません。例え、それが生死に関わろうとプログラムを遵守します」
二人顔色が変わる。
「どういう意味なんだ、説明しろ!」
『人類史・ヒストリーアウトライン』二千年代を再生します。
そう言うとアンドロイドは語り始めた。
「西暦二千三百十一年。十二月。度重なる異星人の攻撃により人類の大半が死滅、更に攻撃による余波で地球環境の急激な悪化により、人間が住める環境ではなくなりました。残った人類は宇宙へ避難し、宇宙放浪民となりました。」
耳を疑う話だ。景気直しにと開けた缶が、無惨にも床に流れ出している。その事にも気付けないほど衝撃を受けている二人。
「異星人が何故、急に攻撃を仕掛けてきたのか? その後の調査で判明。航行中の異星人の船団に異物が飛来、その異物が船団の船の一つに接触し船が故障、操作不能となった船が船団の他の船を巻き込み大惨事に。異星人はその飛来物が地球人の船より廃棄されたものだと断定。すぐに報復措置をとり、地球へと攻撃を開始。そして、人類は大きな犠牲を払いつつも故郷を捨て宇宙へと避難しました。」
それが、さっき廃棄した空き缶だっていうのか……。
胸が締め付けられる、上手く呼吸ができない。心臓の鼓動がうるさい。
「なら! なんでもっとしっかり止めないんだよ!! 捨ててしまったじゃないか!」
「残念です、ミッション失敗ですね。」
彼女は、あい変わらずの無表情で終わりを告げる。
二人に絶望が色濃く漂う。
「ご安心ください。ミッションは達成されるまで何度でもやり直します。また、時間を戻ればお二人を止めることが出来ます」
ほんの少し希望の光が射したように感じた。が、それが絶対的に良いものだと考えるのは安易過ぎた。
「そろそろ、次が来る頃……。」
扉が開く。このアンドロイドと同じ顔がもうひとつ増える。
「私の辿った時間とは別の道を来た私です。この方式で、無数の私が存在可能なのです。ミッションが成功するまで何度でも」
二番目に現れたアンドロイドからも表情は読み取れない。
「……それ、で?」
「残念です。私の言葉はお二人には届きませんでした。」
「ああ、残念。また失敗です」
最初にやって来たアンドロイドが言う。
表情こそ変わらないものの、二人目のアンドロイドも残念そうに肩を落とす。
また、扉が開く。次のアンドロイドが到着する。そして、また失敗の報告を受ける。
「ああ、残念。また失敗です」
また、次の使者が時間を超えてやってくる。
「ああ、残念。また失敗です」
ああ、残念。また失敗
ああ、また失敗
ああ、また失敗
ああ、また失敗
ああ、また失敗
止めどなくやって来るアンドロイド。
同じ顔がひとつ、またひとつと増えていく。
恐怖で震え上がることしかできない二人。
時空を超えるアンドロイドは、無限とも思える増殖を繰り返した。
――ああ、残念。また失敗です。
地球連合宇宙軍の偵察船。
宇宙軍所属の二人は、偵察任務を終え地球へと帰還の途中であった。地球までの道のりはあと少し、時間にすれば三ヶ月ほどである。これは、通常運転で走行した場合に船内の人間が感じる時間間隔であり『ワープ航法』を利用すれば六十分は掛からないといったところだろう。
地球に戻れば、軍への報告などでしばらくは忙しい日々を送らなくてはいけないと分かっている二人は、今のうちに一杯楽しんでおこうと軽い酒盛りをしていた。そんな折、船内に大きな警告音が鳴った。
「キュウナンシゴウヲキャッチシマシタ」
機械的な言語のアナウンスが流れ、モニター画面に救難信号を出している物体を映し出した。物体は、人一人を搭載できるサイズのカプセル。『脱出ポッド』であった。
どこかで宇宙航行機が襲われ、そこから逃れてきたのであろうか? しかし、そんな情報は入ってきていない。大きな事件があればすぐに連絡があるはずだ。二人は、不思議に思いながらも脱出ポッドを回収し救援者を招き入れた。
そして二人は驚く、カプセルより出てきたのは美しい女性であった。しかしなんだ、この違和感は……そうか、彼女には表情がない、いや、感じられないのだ。無機質的とでも言うのか、とても冷たい印象を受けた。
「どうしました? 宇宙海賊にでも船を襲われましたか?」
彼女は放心状態である。上半身だけ起こし、動く気配がない。
――どうした? 返答がない、あまりの恐怖に正気を失っているのか?
二人は互いの顔を見合し、困惑を示す。困った二人だが、このままにはしておけないと声を掛けるでだけではなく、接触を試みた。すると、微弱ながら反応があった。
「初めまして。私は、時空間航行アンドロイド『KR30S-2』通称『ドロイドちゃん』です」
以後お見知りおきを。と頭を下げるアンドロイド。
「時空間航行って、君は未来からでも来たというのか?」
ハイ、そうです。
冷たい瞳がまっすぐ二人を見つめる。
未来から来た。これを事実として受け止めることは二人には難しい。なにせ、文明が発達し宇宙が身近なものになった今、ワープ航法で時間の先へ行くことは叶ったが、時間を戻ることはできないからだ。
ある意味、科学技術が発達し過ぎて夢を見なくなったのも原因の一つかもしれない。
「未来から来ただって!? いいね! 面白い話だ」
少し酔いが回り、ちょっとしたことが可笑しく感じてしまう二人は、笑い話と決めつけ話を続ける。
「それで、わざわざ遠くからやって来て何がしたいんだい?」
二人は軽い気持ちだった。ジョークのつもりでした。
「地球を、人類を、滅亡の危機から救いに来ました」
地球を救いに来たヒロインか、と二人はまた笑い出した。
「ところで、現在は何年の何月ですか?」
「西暦二千三百十一年の十月だけど。そういう君は何年から来たんだい?」
三千七百四十五年。耳に届いた言葉を頭の中で反復する。
「三、七、四、五。み、な、し、ご。見なし子!」
一人でやって来たんだ、まさに『見なし子』だな!
アンドロイドは無表情で笑った。いや、そのように感じた。
「みなしご、皆が死んだ後。『皆、死後』とも言えますね」
アンドロイドのくせに冗談を言うのか? 人類が滅亡した未来からやって来たから『皆、死後』か? 悪い冗談だ。折角の楽しいお酒が台無しだ。
残っている液体を一気に飲み干し、飲み終わった缶を廃棄シューターへと放り込む。
「ポイ捨ては、よくありませんよ。宇宙はゴミ箱ではありません」
「なんだい、缶一個くらい。どこかの衛生軌道に乗って、そのうちどこかの惑星の引力に引かれて燃え尽きるだろうさ」
スイッチを押し、缶を漆黒の闇へと放出する。
冷めた気持ちを払拭するように、新しい缶を開けまた飲み始める。
「で、具体的にどうしたら滅亡の危機から人類を救えるんだい?」
……沈黙。
「私が受けた命令は、缶のポイ捨てを防ぐこと。これが地球を、人類を守る手立てであると指示を受けました」
何をいってるんだ? このアンドロイドは……。
「馬鹿馬鹿しい変な嘘つくんじゃないよ、何で缶一個で未来が変わるんだ!」
「アンドロイドは嘘をつけません。プログラム上、会話を成立させるための冗談は言えますが、嘘をつくことは出来ません。例え、それが生死に関わろうとプログラムを遵守します」
二人顔色が変わる。
「どういう意味なんだ、説明しろ!」
『人類史・ヒストリーアウトライン』二千年代を再生します。
そう言うとアンドロイドは語り始めた。
「西暦二千三百十一年。十二月。度重なる異星人の攻撃により人類の大半が死滅、更に攻撃による余波で地球環境の急激な悪化により、人間が住める環境ではなくなりました。残った人類は宇宙へ避難し、宇宙放浪民となりました。」
耳を疑う話だ。景気直しにと開けた缶が、無惨にも床に流れ出している。その事にも気付けないほど衝撃を受けている二人。
「異星人が何故、急に攻撃を仕掛けてきたのか? その後の調査で判明。航行中の異星人の船団に異物が飛来、その異物が船団の船の一つに接触し船が故障、操作不能となった船が船団の他の船を巻き込み大惨事に。異星人はその飛来物が地球人の船より廃棄されたものだと断定。すぐに報復措置をとり、地球へと攻撃を開始。そして、人類は大きな犠牲を払いつつも故郷を捨て宇宙へと避難しました。」
それが、さっき廃棄した空き缶だっていうのか……。
胸が締め付けられる、上手く呼吸ができない。心臓の鼓動がうるさい。
「なら! なんでもっとしっかり止めないんだよ!! 捨ててしまったじゃないか!」
「残念です、ミッション失敗ですね。」
彼女は、あい変わらずの無表情で終わりを告げる。
二人に絶望が色濃く漂う。
「ご安心ください。ミッションは達成されるまで何度でもやり直します。また、時間を戻ればお二人を止めることが出来ます」
ほんの少し希望の光が射したように感じた。が、それが絶対的に良いものだと考えるのは安易過ぎた。
「そろそろ、次が来る頃……。」
扉が開く。このアンドロイドと同じ顔がもうひとつ増える。
「私の辿った時間とは別の道を来た私です。この方式で、無数の私が存在可能なのです。ミッションが成功するまで何度でも」
二番目に現れたアンドロイドからも表情は読み取れない。
「……それ、で?」
「残念です。私の言葉はお二人には届きませんでした。」
「ああ、残念。また失敗です」
最初にやって来たアンドロイドが言う。
表情こそ変わらないものの、二人目のアンドロイドも残念そうに肩を落とす。
また、扉が開く。次のアンドロイドが到着する。そして、また失敗の報告を受ける。
「ああ、残念。また失敗です」
また、次の使者が時間を超えてやってくる。
「ああ、残念。また失敗です」
ああ、残念。また失敗
ああ、また失敗
ああ、また失敗
ああ、また失敗
ああ、また失敗
止めどなくやって来るアンドロイド。
同じ顔がひとつ、またひとつと増えていく。
恐怖で震え上がることしかできない二人。
時空を超えるアンドロイドは、無限とも思える増殖を繰り返した。
――ああ、残念。また失敗です。
応援ありがとうございます!
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