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修学旅行の途中で下りた駅に自分のバイクがあった。

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 その電車は今ではもう走っていないであろう、茶色く古い客車だった。
『銀河鉄道999』に出てくるような四人がけの客車の座席に、制服を着た学生が多数座って騒いでいる。
 自分もその学生の一人だった。聞こえてくる話に耳を傾けていると、どうも彼らも自分も修学旅行の最中だった。
 ところが。
 烈車が止まり、駅員によるその駅名が放送されると、それを聞いた自分は、
「降りなきゃ」
 ととっさに思い、急いで列車を降りてホームに立った。
 すると、列車の扉が締まり、ホームに一人自分を残して、列車は行ってしまった。
 それでも自分はなぜか、その駅に降りて急いで行かないといけない場所があることが分かっていた。
 その駅はホームが四つほどある大きな駅なのに、改札口は自動改札口ではなかった。昔ながらの人が入って切符を確認する作りなのたが、いないといけない駅員が改札に立っていなかった。
 しかし、自分は修学旅行の途中の学生なのだから、切符はない。
 そして改札口のすぐ前に、廃車にしてしまったお気に入りだった青いスクーターがあった。間違いなく自分のスクーターなのだ。
 躊躇なく改札を出て、そのスクーターに近づいた。キーホルダーから鍵を取り出し、頑丈なタイヤロックを外して、スクーターにキーを差し込むと、エンジンがかかった。
 確かに自分が昔、乗っていたスクーターだったが、何だか見た目がおかしい。
 よくよく見てみると、フロントつまり前輪のブレーキがごっそりと外されていた。
 元は油圧でのフロントブレーキのはずだが、そこには外された跡が残っている。
 エンジンはかかる。走ることはできる。
 でも後輪しかブレーキはない。
 自分は仕方なくそのスクーターを押して歩くことにした。
 時代錯誤だが、スマートフォンは持っていて、このすぐ近くに知り合いの会社があるので、取り敢えずそこにバイクを置かせてもらい、修理を呼ぼうと考えていたのだが、電話をかけた相手の受付の女性に拒否されたのである。
「あの。僕、東岡ですけど?」
 と言うと、
「東岡さんでも、うちの会社にバイクを置くことはできません。それよりも東岡さん」
「はい」
「あなた、修学旅行はどうしたのですか?」
 と言われ、
「自分のバイクのブレーキが壊されて、盗まれているんですよ。そんなの、修学旅行どころじゃないでしょう」
 と言って、電話を切った。
 そう、修学旅行よりもバイクの修理の方が優先だ。修学旅行と言っても、どうせ二三日しか日程はない。後で担任の女の先生には、
「修学旅行は抜けます」
 と後で伝えることにした。
 バイクを優先的に修理して乗れるようにしないと。
 と強く決心しながら、長い直進する舗装されていない土道を、延々と歩いて行くと、大きな川にさしかかったところで、目が覚めました。

終わり。

令和5年4月17日。

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