悪の献身 〜アイドルを夢見る少年は、優しい大人に囲まれて今日も頑張ります〜

木曜日午前

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第1話 夢は偶像

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 この眩い人と同じステージに上がれるなら、俺は彼の光に焼かれて死んでもいい。
 
 まだ、当時十五歳だった俺は、この運命の出会いの日を一生忘れないだろう。

 眩い彼は、まだ練習生になったばかりの十三歳。声変わりもしておらず、自分の腰よりも少し大きいくらいの身長も可愛らしい。顔もまだまだ幼く、ふくふくとしたほっぺの触り心地は良さそうだった。

 練習中だった俺は、他のメンバーと共に練習室に入ってきた子を見つつ、その時練習していた曲のパフォーマンスを続けていた。そして、その曲が終わると、彼と一緒に入ってきた事務所の社長に声を掛けられ、彼の周りに集合した。
 
 集まってきた練習生の圧に、少しだけたじろいだ彼だったが、その様子もまるで小動物のよう。それは自分だけではなく、周りの練習生も同じように思ったのだろう、ほわっと周りの空気が暖かくなったように感じた。
 そんな初日のかわいい彼は、その日からこの事務所では欠かせない人となった。
 
「曲を自作してきました。聞いてください」
 
 自己紹介宜しく彼が用意してきた曲。ピアノの音色、歌声、ラップ、どれも荒削りだからこそどれをとっても才能に満ち溢れているのがわかる。他にも曲を自作できる人はいたが、その人たちが皆一応に化け物を見るかのような顔をしていたのは思い出す。
 けど、俺には眩しい眩しい光に見えた。
 
 見慣れた練習室が、どこかのライブステージのようで、その真ん中に一人彼がピアノを弾き語る。真っ直ぐにピアノを睨む眼光も、横からでもわかる黄金比率から生まれた様なスタイルの良さも。
 
 初日にして、彼は魅せつけてきたのだ。
 
 今まで高評価されてきた練習生たちが、顔を強張らせる。今までぎりぎりの評価をされて生き残ってきた練習生たちが、絶望の眼差しで彼を見る。そして、そのたくさんの練習生の中に年々埋もれて霞んでいく俺との、格差をこれでもかと見せつけられた。
 俺はただ、彼を羨望の眼差しで見つめる。その瞳を彼から逸らすことはできない。興奮のせいか血は沸騰し、心臓の高鳴りはまるで自分の身体から飛び出すのではと、思ってしまうくらいに強く強く跳ね続ける。
 
 ああ、もし、許されるならば、俺は彼の最初で、そして、一番のファンだと名乗りたいくらいだ。
 
 その時に、俺は純粋なアイドルとして活躍する夢が大きく塗り替わってしまった。
 彼が、彼の凄さを、世の中の人に知ってもらいたい。
 そのために、俺ができることは全てしたい。
 そのためなら、なんだってできる。
 
 アイドルになるために、隣の国に渡り、俺は初めて自分の理想のアイドルを見つけたのだ。
 
 ファンというのは、こうしてアイドルに恋をするのか。ああ、ああ、なんて俺は幸せなのか。強い光を浴びた俺は、あの時が一番幸せだったと言える。
 
 
 そんな俺たちの運命の出会いから二年半が経った。今は深夜になりそうな夜の九時。子供は寝る時間に、俺は事務所が用意してくれた黒塗りのバンの中にいた。

【今日、俺一人でホットケーキ作った、みんな食べてくれ】
【焦げてんじゃん】
【ホットケーキは弱火で焼かないと駄目だよ】

 そして、グループチャットに投稿されるメッセージを見ながら、ぽちぽちと返信している。殆どが、このようなメンバーからのくだらないメッセージがほとんどではあるが。

 メンバーたちとは、同じマンションの一室に住んでいる。宿舎と呼ばれるそれは、韓国でアイドルを目指している子達や実際のアイドルグループの子たちにとって、避けられないものだ。一緒に寝食をともにして、朝から晩まで練習漬けの日々だ。
 その中で、俺のこの外出は普通のアイドルからしたら、イレギュラーなことなのだ。
 
 【いつ帰ってくるの? また、泊まり?】
 
 グループのリーダーから聞かれて、【うん】とだけ返しておく。俺だけ、事務所公認で外にでることが多いのは、表向き勉強のためとなっている。

 児童養護施設で育った俺は、十三歳の頃に日本でスカウトされ、そのまま韓国に単身で来た。その後、辛うじてスクーリングで中学校を卒業したけれど、高校に通う他のメンバーより学力が足りない。
韓国語だけは生きるために学んだが、それ以外のことは色々足りないということを、俺を含むみんながよく知っていた。
 
 俺が作ったご飯を食べたのか、大好きな彼から【夜食ありがとう】と返信が来る。彼が好きなツナマヨネーズおにぎりを作ってから出てきたのだが、無事に食べてくれたのだろう。
 
 ガチャッ、ガァァ。
 バンの扉が開く。
 
「おまたせ、シグレ。今日もえっちな格好だね、同伴楽しみにしてたの?」
「はい、ジノ兄さんと過ごす時間は本当に楽しみにしてます」

 バンの扉から入ってきた男の抱擁を受け止めた。それは確実に現役アイドルがしてはいけないことであろう。
 受け止めたしっかりとしたら身体からは、何度も書いだ男臭い香水とタバコの匂いがする。
 
 とあるお店の地下に停めたこのバンに乗り込んできたこの人は、このテレビ局のチーフプロデューサーを務めるキムジノプロデューサー。45歳で今の地位まで上り詰め、このテレビ局で仕事するためには一番懇意になるべき人と言われている人だ。
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