1 / 58
第1話 夢は偶像
しおりを挟むこの眩い人と同じステージに上がれるなら、俺は彼の光に焼かれて死んでもいい。
まだ、当時十五歳だった俺は、この運命の出会いの日を一生忘れないだろう。
眩い彼は、まだ練習生になったばかりの十三歳。声変わりもしておらず、自分の腰よりも少し大きいくらいの身長も可愛らしい。顔もまだまだ幼く、ふくふくとしたほっぺの触り心地は良さそうだった。
練習中だった俺は、他のメンバーと共に練習室に入ってきた子を見つつ、その時練習していた曲のパフォーマンスを続けていた。そして、その曲が終わると、彼と一緒に入ってきた事務所の社長に声を掛けられ、彼の周りに集合した。
集まってきた練習生の圧に、少しだけたじろいだ彼だったが、その様子もまるで小動物のよう。それは自分だけではなく、周りの練習生も同じように思ったのだろう、ほわっと周りの空気が暖かくなったように感じた。
そんな初日のかわいい彼は、その日からこの事務所では欠かせない人となった。
「曲を自作してきました。聞いてください」
自己紹介宜しく彼が用意してきた曲。ピアノの音色、歌声、ラップ、どれも荒削りだからこそどれをとっても才能に満ち溢れているのがわかる。他にも曲を自作できる人はいたが、その人たちが皆一応に化け物を見るかのような顔をしていたのは思い出す。
けど、俺には眩しい眩しい光に見えた。
見慣れた練習室が、どこかのライブステージのようで、その真ん中に一人彼がピアノを弾き語る。真っ直ぐにピアノを睨む眼光も、横からでもわかる黄金比率から生まれた様なスタイルの良さも。
初日にして、彼は魅せつけてきたのだ。
今まで高評価されてきた練習生たちが、顔を強張らせる。今までぎりぎりの評価をされて生き残ってきた練習生たちが、絶望の眼差しで彼を見る。そして、そのたくさんの練習生の中に年々埋もれて霞んでいく俺との、格差をこれでもかと見せつけられた。
俺はただ、彼を羨望の眼差しで見つめる。その瞳を彼から逸らすことはできない。興奮のせいか血は沸騰し、心臓の高鳴りはまるで自分の身体から飛び出すのではと、思ってしまうくらいに強く強く跳ね続ける。
ああ、もし、許されるならば、俺は彼の最初で、そして、一番のファンだと名乗りたいくらいだ。
その時に、俺は純粋なアイドルとして活躍する夢が大きく塗り替わってしまった。
彼が、彼の凄さを、世の中の人に知ってもらいたい。
そのために、俺ができることは全てしたい。
そのためなら、なんだってできる。
アイドルになるために、隣の国に渡り、俺は初めて自分の理想のアイドルを見つけたのだ。
ファンというのは、こうしてアイドルに恋をするのか。ああ、ああ、なんて俺は幸せなのか。強い光を浴びた俺は、あの時が一番幸せだったと言える。
そんな俺たちの運命の出会いから二年半が経った。今は深夜になりそうな夜の九時。子供は寝る時間に、俺は事務所が用意してくれた黒塗りのバンの中にいた。
【今日、俺一人でホットケーキ作った、みんな食べてくれ】
【焦げてんじゃん】
【ホットケーキは弱火で焼かないと駄目だよ】
そして、グループチャットに投稿されるメッセージを見ながら、ぽちぽちと返信している。殆どが、このようなメンバーからのくだらないメッセージがほとんどではあるが。
メンバーたちとは、同じマンションの一室に住んでいる。宿舎と呼ばれるそれは、韓国でアイドルを目指している子達や実際のアイドルグループの子たちにとって、避けられないものだ。一緒に寝食をともにして、朝から晩まで練習漬けの日々だ。
その中で、俺のこの外出は普通のアイドルからしたら、イレギュラーなことなのだ。
【いつ帰ってくるの? また、泊まり?】
グループのリーダーから聞かれて、【うん】とだけ返しておく。俺だけ、事務所公認で外にでることが多いのは、表向き勉強のためとなっている。
児童養護施設で育った俺は、十三歳の頃に日本でスカウトされ、そのまま韓国に単身で来た。その後、辛うじてスクーリングで中学校を卒業したけれど、高校に通う他のメンバーより学力が足りない。
韓国語だけは生きるために学んだが、それ以外のことは色々足りないということを、俺を含むみんながよく知っていた。
俺が作ったご飯を食べたのか、大好きな彼から【夜食ありがとう】と返信が来る。彼が好きなツナマヨネーズおにぎりを作ってから出てきたのだが、無事に食べてくれたのだろう。
ガチャッ、ガァァ。
バンの扉が開く。
「おまたせ、シグレ。今日もえっちな格好だね、同伴楽しみにしてたの?」
「はい、ジノ兄さんと過ごす時間は本当に楽しみにしてます」
バンの扉から入ってきた男の抱擁を受け止めた。それは確実に現役アイドルがしてはいけないことであろう。
受け止めたしっかりとしたら身体からは、何度も書いだ男臭い香水とタバコの匂いがする。
とあるお店の地下に停めたこのバンに乗り込んできたこの人は、このテレビ局のチーフプロデューサーを務めるキムジノプロデューサー。45歳で今の地位まで上り詰め、このテレビ局で仕事するためには一番懇意になるべき人と言われている人だ。
10
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる