悪の献身 〜アイドルを夢見る少年は、優しい大人に囲まれて今日も頑張ります〜

木曜日午前

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第47話 夢が裂けた

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「いっ、ぃイっ! うぅッぐう! ンンッ! ぎもッ、ちぃい!」
「時雨ちゃんは、エッチ、だね、男の子なのにねッ!」
 
 今夜の相手は日本で、音楽芸能マネジメントをしている会社の取締役の一人だそうだ。少しばかりハゲ散らかした頭で中年として年相応の人に、犬のように四つん這いにされ、後ろから突かれ続けている。
 低層マンション二、三日は、ほぼ丸一日犯される続ける日も多い。なによりも、今までは殆ど一人に対してだったのが、日にち単位、短くて時間単位で変わるため、正直誰が誰なのか俺の頭では追いついていない。
 
「セファンから、聞いてて、ほんと、楽しみにしていたんだッ! 本当にどこもかしこも、エッチすぎる……なんて、悪い子だ!!」
 
 パンパンッと、肉のぶつかる音が部屋に響く中、俺はもう狂いそうだった。来る客来る客があの緑色の玉を使うせいで、お腹の中が常に痒くて熱い。だから、中を掻いてくれるモノをこれほど欲したことない。
 
「ゃぁあっ!!」
 
 何度目かわからない絶頂の中、遂には吐き出すものもなくなり、深い深い快楽と絶望へと突き落とされていく。
 そんな俺に、俺の体を蹂躙する人達は、その鋭い言葉でも蹂躙してくる。
 
「アイドルなのに、おちんぽ咥えて、良いのかなこんなことして……」
「ファンが、見たらどう思うかな、こんな悪い事して」
「メンバーも幻滅するだろうなあ」
「お金欲しいんだろ、もっと頑張れよ」
「男でもやるんだな、枕営業って」
 
 今までとは違い、心に傷つくことばかり言われる。ジノ兄さんや、ノウルさん、マシューさんとは大違いで、中には札束で頬を殴られもした。
 
 そんな辛い日々の中、気づいたら四日経っていた。
 
 喉も痛く、身体の至るところが腫れているのもわかる。まだお腹の中もじくじくと熱が、他の熱を求めている気がするが随分落ち着いてはいる。
 
 久々にスマートフォンを覗いた。
 そして、メンバーたちとのグループチャットを開く。
 どうやら、今メンバーたちは、急遽二週間のお休みを与えられており、皆一度家に帰っているようだ。
 
 ルイズーは火鍋を食べており、ヒュイルは人気のカフェに行ってきたよう。
 ユンソルは可愛い甥っ子と遊んでいる。
 また、ダウンは新しい曲作りをしているようで、リフの部分を送ってくれた。
 
 そしてわ、ジウは、いつの間にか出来ていたアイドルの友人たちと旅行しているのか、飛行機からの景色を動画にくれた。
 
 そんな幸せの姿を見て、何故か今は何も返信が出来ない。
 今までは我武者羅にがんばれた。皆の幸せを喜べた。
 
 俺はまるで発作のようにスマートフォンを投げて、適当にガウンを着ると、ずっと滞在していたホテルの部屋から飛び出した。
 
 そして、低層マンションの廊下に出て、ハッと我に返る。
 俺の居場所なんて、生まれた時からどこにもないのに。
 
 足元から体の力が抜けて、ズルズルと廊下に座り込む。気づけば、ぼおっと遠くを見ていると、そこに誰かが駆け寄ってきた。
 
 それは、イファンさんだった。少し軽装で、いつもとは違う雰囲気だ。
 
「あれ、シグレちゃん、どうしたの?」
「イファンさん……」
「あらら、ちょっとお兄さんと話そうか」
 
 俺の様子に気づいたのか、イファンさんは俺を立ち上がらせると、別の部屋へと連れて行ってくれた。
 
 その部屋はベッドもなく、ただお茶をするための部屋のようで、ソファと机。そして、いくつかの飲み物とお菓子だけが用意されている。
 イファンさんは俺をソファに座るよう促すと、片隅にあるウォーターサーバからお湯を出して紙コップに注ぐ。
 
「柚子茶すきだよね?」
「はい、好きです」
 
 イファンさんは色々ある中から柚子茶の元が入っている瓶を取り出し、お湯の中に入れて混ぜてくれる。
 
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
 
 差し出された紙コップを受け取る。湯気に乗ってふんわりと広がる柚子蜜の香りが荒れた心を少しだけ落ち着けてくれた。
 お湯も熱湯ではなく水で調整してくれたのか、飲みやすい暖かさで、焦っていた心が落ち着いていく。
 
「何があったの?」
「実は……仕事・・、続けるべきなのか、悩んでしまって……」
「仕事って、ここ・・の?」
「……正確に言うと、アイドルも、です」
 
 そう言うとイファンさんは、少しばかり目を見開いたあと、俺の手を握った。驚いてイファンさんの目を見つめると、イファンさんは俺の目をじっと見た。
 
「夢だったのに?」
「夢だった、からこそ、ですね……他のメンバーが幸せに家族と暮らしてる中、俺はここで何をしてるんだろうってなったんです」
 
 ぼおっ、と宙を見る。特に何かあるわけではないが、目の前にはメンバーの楽しそうな姿が脳裏に過ぎる。
 
「シグレはさ、アイドルになって、メンバーとデビューしたかったんだよね?」
「そうですね、メンバーと……特にジウの音楽を皆でやっていけたらと思ったんです。けど、このままでいいのかな? って」
 
 誰に吐くこともなく溜めていた心の内を零す。
 
「でも、今辞めたら、シグレの頑張りも水の泡だよ」
「……そうですよね。でも、アイドルなのに悪い子だって、みんな言うんです。これって、枕営業だって、いけないことなんですよね。いけない事して、メンバーに迷惑かけたらって、思うし。なにより、もう正直アイドルも辛くなってきてて……」
 
「シグレ、辛くない夢ない、夢への正攻法なんてこの世にない」
 
 ガタガタと震える手元、滲む視界、込み上げてくるものを耐えていたが、決壊するように心の声が漏れる。そんな俺に向かって、イファンさんは驚くほど優しい声でそう話した。
 
「でも、もう、夢を頼りに、頑張れないです……あの、緑の玉・・・も、本当に怖いし……」
「そっか、頑張るのに疲れたんだね。けど、メンバーたちの運命はシグレちゃんに掛かってるよ、シグレちゃん、メンバーのためなら頑張れるって言ったから、セファンも信頼してこうして人脈回してくれてるんだよ」
「わ、わかってます、わかってますけど……」
 
「ジウくんだっけ、その子の曲をまたこの世に出したくないの?」
 
「それは……出したいです……」
 
 イファンさんの鋭い指摘に、あの時ファンに指摘されて落ち込むジウの姿が脳裏に浮かぶ。
 ファンから曲を褒められたと喜んでいたのに、とても悔しそうだった。
 あの時のファンを見返すためには、新しい曲を出すしかない。
 
「それにね、悪い事なんて、大なり小なり皆してる。悪いアイドル?  セファンだって、いいアイドルとは言えないでしょ。それに、シグレを金出して抱いてるやつらも人のこと言えない。勿論、俺も悪い俳優だしな。また、新しいCM、この身体で取ってきた」
 
「イファンさん……?」
 
「夢を叶えるのに、正攻法で勝ち取るなんてホンの一握りだよ。俺も、シグレも、手段を選ばなかっただけ」
 
 美しく強い視線が、俺をどすりと貫く。
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