悪の献身 〜アイドルを夢見る少年は、優しい大人に囲まれて今日も頑張ります〜

木曜日午前

文字の大きさ
52 / 58

第54話 悪い事は連鎖する

しおりを挟む
 
「ファンの方は、宿舎に来ないよう言われていますよ」
 
「そんなこと、どうでもいい。あの男は何? おじさんと水族館デートってどういうこと?」
 
 警告をどうでもいいと切り捨てられ、迫りくる男。流石にやばいかもしれない、と体が硬直する。それに、何故俺がジノ兄さんと水族館に行っているのを知っているのか。あの時の写真はどこにも使わずにいたのに。
 
「ねえ、シグレ、答えて。なんで、俺がいるのに、他の男とデートするの?」
「デート……じゃないです。お世話になってるプロデューサーと遊びに行っただけですよ」
「それをデートだって、言ってんだ!!!!!」
 
 男は大きな声で叫んだ。あまりのことに身体が震える。どうすればいいのだろう、混乱すれば混乱するほど身体は動かなくなる。
 
 男は手を振り上げた。叩かれる。
 
 頭の中が真っ白になる。怖い、叩かないで、怖い、叩かないで、叩かないで。
 
 ああ、どうしよう! どうしよう! どうしよう!! ごめんなさい!!! おとぉ……
 
「さっきから、うるさい!!!! 警察に通報しましたから!!!」
 
 向かいのマンションから女性の甲高い声が響いた。
 バッとそちらを見ると、マンションのベランダから輪郭を包帯巻きにし、鼻にギブスを着けた女性がスマートフォンを握ってこちらを見ていた。
 
「クソアマ! 俺たちの邪魔をするな!」
「侵入者のくせに! ずっと聞いてたからね! さっさと捕まれ! 不法侵入者!」
 
 その言葉で男は状況がわかったのだろう、舌打ちをすると敷地内から逃げようとする。しかし、それよりも早く警察のサイレンが近づいていた。
 
 
「シグレ!」
 
 後ろから声がする。振り向くとそこには、ソンジュンとハオランが慌てた形相でこちらに向かってきていた。
 
 
 
 
 
 その日の仕事は流石にお休みをした。事務所からの心遣いでもあったと思う。流石に、こんな事件が起こるとは前代未聞だろうし。
 
 事務所からはファンに向けての警告文が出ており、事件の概要についても告知されている。
 ネットニュースにも勿論なったし、そのコメントは様々だ。
 
 俺に優しいコメントも、「あんなイロモノなことをしてたから」という厳しいコメントもある。
 最近、部屋まで来て、声を掛けてきた人はやはりあの人だったらしい。
 
 【シグレ、大丈夫か? 】
 
 ぼおっと、天井を見つめていた俺に連絡をくれたのは、オーガストくん。
 
 【怪我はしてないから、大丈夫だよ】
 【でも、怖かっただろ】
 【まあね、でも、凶器は無かったから】
 
 【そうじゃないけど……無理すんなよ、いつでも話聞くから】
 
 優しい言葉から本当に心配してくれてるのが伝わってくる。
 
 【ありがとう】
 
 けど、それに気を効いたことを返せない。勿論男のことは怖かった。でも、それ以上にあの時確かに思い出したのだ。
 
 今まで思い出したことのない血の繋がらない父の顔を・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 思い出したくなかった記憶は、俺が捨てられたことを改めて理解させられてしまう。
 
「アイドルに、なったのは、間違えだったのかな」
 
 アイドルにならなければ、こんな怖い目に合わなかった。アイドルにならなければ、こんな思い出したくないことを思い出さなくてよかった。
 
 アイドルにならなければ、誰かのために身を犠牲にしなくてよかった。
 
 ジウの曲が認められればよかった。だって、彼は天才だから。けど、結局彼の曲よりも、ダウンと俺のミックステープのがみんな知っている。
 ジウのスター性をみんなに知ってほしかった。けど、結局今はイロモノの俺が悪い意味でも目立ってしまっている。
 
 今まで自分が行ってきたことが、すべて裏目に出ている気がしてならない。
 
 なんならば、今回の原因は突き詰めれば、俺がセファンさんの美味しい話に食らいついてしまったからでもある。
 
 自分が今まで行ってきた献身は間違っていた。そう思ってしまう。
 
 ぼろぼろと涙を溢しながら、俺は目を瞑る。今だけは、何も、何も考えたくない。
 
 体も心もボロボロの俺は、案外すんなりと眠りにつく。
 
 どうか、今日くらいはいい夢を見せてほしい。
 どんな夢を見ていたかはわからない。けれど、どこかの長閑な田舎でのんびり過ごす自分がいたような気がする。
 
 穏やかな気持ちの中、外は無情にも日が昇る。
 まだ、日が昇って直後の朝、スマートフォンから鳴り響き続ける着信音で起こされた。
 
「んんっ、誰だ……?」
 
 着信には、イファンさんの文字。
 
「……もしもし、シグレです。遅くなり『シグレ! 聞いてくれ、これは大事なことなんだ』
 
 悠長に寝ぼけた俺に対して、イファンさんは焦りに焦った様子で、只事でない雰囲気に俺は目が醒めた。
 
「な、なんですか?」
『ピ・ユリが……』

「え?」
 
 続けられた言葉に、俺は絶句する。
 
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...