悪の献身 〜アイドルを夢見る少年は、優しい大人に囲まれて今日も頑張ります〜

木曜日午前

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第57話 悪かった、ごめんね

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「皆、最後までごめんね」
 
 俺がそう言うと、他のメンバーたちは複雑そうにお互いを見合う。そこで、最初に口を開いたのはソンジュンだった。
 
「シグレ、もう、ほぼ会うことはないかもしれないけど、元気で暮らせよ」
「うん、わかってる。お互い体には気をつけて」
 
 その次に、ダウンが声を出した。
 
「俺は……ナイトタイムコール、歌うために、俺たちビッグになるから、その時は絶対にステージで歌おう。絶対にだぞ」
 
「ありがとう、その時まで歌う練習するね」
 
「シグ兄ぃ……ご飯美味しかったです、まだ食べたいのぃ」
「ハオラン泣かないで」
 
 ずぴずぴと涙を流しているハオランの鼻を拭いてあげる。
 そして、その隣のヒュイルは憐れむ顔で俺を見ていた。
 
「シグ兄、本当にいいのかよ。俺たち、知らなかったとは言え、一番の功労者なのに、こんな体の良い厄介払いありなのかよ」
 
 苦しい叫びに胸が締め付けられる。
 
「仕方ないよ、俺の役目はここまでだから。かぐや姫は月に帰ります」
 
 俺はただ微笑むことしか出来ない。
 月に帰る、俺はこのパラニュイから抜けて、アイドルもやめて、どこかに帰るのだ。
  
 メンバーには、一昨日、事の真相を話した。
 
 そして、俺がセファンさんの元で体を使って、お金を稼いでいたことも。結果、この混沌とした状況を作り出してしまったことも。
 
 この話をして、最初に怒ったのはダウンだった。
 
「そんな、事されても、嬉しくねぇよ!」
 
 俺に向かって吠えた言葉。それは真っ直ぐなほどに正論だった。
 
「そうだよね、ごめん。俺わからなかったんだ」
 
 自分の浅はかさを謝る。そのうち、ユンソルとルイズーは何も言わず席を立った。特に優しいルイズーの信じられないものを見るような目で見られたのは、少しばかり堪えた。
 
 
 そして、ジウは口を開いた。
 
 
「だ、ら、……ぃだった……ょ」
「え?」
 
 その言葉小さく、振り絞った声で、思わず聞き返すと、ジウは顔を上げた。
 
「だから! 嫌いだったんだよ!」
 
 びりびりと身体を痺れさす言葉。その形相は鋭く、俺を睨みつけていた。
 
「嫌なこととか、何も言わない。いつもいつも、人の顔色ばっか見て、自分さえ我慢すればいい! いつもそれが透けてみえて!」
 
 ぐさり、ぐさり、ジウの言葉が心に刺さる。
 
「俺が好きだから、って、いつも言ってたけどさ。好きなのに……なんで、いつも邪魔するんだよ……! シグ兄の期待もいつも重いんだよ!」
 
 絞り出されたその声で、彼がずっと溜めていた本心というのがよく伝わった。
 そして、やはり、自分が今までやってきたことがすべて、無駄だったのだと改めて認識する。
 
 少しは残っていたらしい心を支えていた足場がさらさらと崩れていく。
 
「ごめんなさい」
 
 何もない俺にできることは、謝ることしかない。
 ジウはハッと俺の顔を見た後、バツの悪そうに作業部屋へと走っていった。
 
 その姿を見て、俺は迷わず決めたのだ。
 
 グループを抜けることを。
 
 そして、最後にファンと交流して、終わろうと思ったのだ。事務所に話しに行き、今までのことを黙ることを条件に会社を退社することになった。
 
 借金も、今まで俺が働いた分をすべて上納して、すべてチャラに。
  
 最後は、ユドンさんとノウル社長にお願いして、『墨』の完全版を一発撮りしてもらった。
 
 日にちを見て、俺が退社したことを事務所が発表するだろう。
 
 事務所から出ると、最近張り込んでいるマスコミたちと、ファンの何人かがいる。そして、そこには『Hey! Take see!』さんもいた。
 
「シグレ!」
 
 宿舎から出てきた所、彼女が呼び止めた。ボロボロと涙を流している姿を見て、ああこの子は俺が辞めることを気づいたんだろうなと思った。
 その彼女に対して、俺は涙を堪えながらニッコリと笑う。
 
「ありがとうございます。俺を愛してくれて!」
 
 手を降った彼女は、俺の笑顔とは反対に目を見開いた後、絶句した様子で俺を見ていた。最後くらい、アイドルの俺を愛してくれた人を幸せにしたかった。
 
 最後まで、間違いだらけだったな。
 
 そして、多分これからも俺は間違うだろう。
 
 けど、もう、彼女のように、ジウのように、メンバーのように、人を傷付けないように生きよう。
 
 事務所が手配したタクシーに乗り込む。眩いフラッシュの光を幾つか感じながら、タクシーは仁川国際空港へと向かっていった。
 
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