ネコは、いる。

おひさの夢想

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エピローグ

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 ネコカメラが、彼女――藤田このみの笑顔をアップで映した。かの者はうっとりとため息をつく。
「うんうんっ――以前の儚い笑顔も素敵だったけど、今の晴れやかな笑顔も素敵ねぇ~!」
 空に浮いているモニターを手のひらに載せて、かの者は踊るように回る。
「やっぱり、怪物キャストに指示して良かったわ~。やっぱり…こんなに素敵な笑顔、近くで撮らないともったいない」
 その言葉の意味する所は、彼女の護衛が強固だったことから始まる。彼ら――吉田まことと津田はじめ、猫又のお福さんの警戒網が広範囲に及び、彼女にネコカメラが少しでも近づこうものなら瞬時に破壊されてしまっていた。如何にネコカメラが無限に量産出来るとはいえ、次々と破壊されて撮影を邪魔されるのは面倒なものだ。故にかの者は怪物キャストに命じた。ネコカメラが無限なら、怪物キャストもまた無限にいる。本物の怪物キャストは、野良怪物キャストとは違い、統率が取れて複数で行動できた。要は、かの者の命令に忠実なのだ。そして命令は『次の命令があるまで吉田と津田を襲撃し、そして、彼女に近づく野良怪物キャストを倒せ』だった。そしてこの意味は、警告だ。しばらくそのまま様子を見る予定だったが、案外早くネコカメラの破壊を彼らはやめた。
 かの者は喜んだ。
「彼らがすぐに理解してくれてよかった。これ以上、彼女を見れないなんてつまらないもの。それに――」
 かの者は回るのをやめて、空中にモニターを浮かせて大きくした。モニターを見上げれば、彼女と彼らの微笑ましく穏やかな映像が映っている。
「この笑顔は彼らにしか引き出せないだろうし、ね」
 かの者は笑った。
 死ななくて良かった。いや、これからも死んでもらっては困る。そう、彼女が映えるために。
 かの者が指を鳴らす。モニターの映像に怪物キャストがぬぅっと現れた。
「さあ、もっと見せてちょうだい」
 その感情、その一生、その全てが映画となる。

 ネコカメラは、今日も地球にいるのだから。




〈了〉
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