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20話

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 街の中は人で騒がしかった。王都までとはいかないが、いくつかの店が並び、店員が客を呼び込んでいる。屋台で何か料理を作っていた男性が話しかけてきたので、俺は「魔物の調査をしに来た魔法使いの手伝いです」と伝えた。

「ああ、依頼を出した魔法使い様ですか。すいませんね、遠くからわざわざ。市長なら奥の屋敷にいるはずですよ」

「ありがとうございます! もしよかったらなんですけど、魔物の被害について知ってることってありますか?」

 男性は顎に手を当て、「そうだな……」と呟いた。鉄板の上では串に刺さった餅みたいな見た目をしたものがじゅうじゅうと焼けて、こうばしい香りを漂わせている。どんな料理なんだろう。

「確か畑が荒らされたり、けが人が出たりしたかな」

 なるほど、けが人まで出ているのか。俺は「ありがとうございます」と男性に伝えた。そして、料理を1つ注文する。渡されたものを食べながら、俺は街の奥にあると言う屋敷を目指した。



 俺は屋敷で話を聞いた後、集合場所と言われたところでノースが来るのを待った。この世界の時計を持ってないから分からないけど、多分20分くらい経ったかな。茂みがガサゴソと揺れて、陰からノースが顔を出した。

「すごいところから出てきましたね」

 ノースはきょろきょろと周りを見回してから、ようやく出てきた。なるほど、近くに人がいないか確認してたのか。人嫌いと言っても、人間を攻撃するタイプだったり、人間を避けるタイプだったり、いろいろ種類があるけど、ノースは完全に後者だ。人間と関わるのを全力で避けている。でも、今回みたいに依頼を頼まれたら引き受けるあたり、憎んでるとか害を与えたいとかそういう気持ちはなさそうだなと思った。

「街の人から被害を聞いてきました。この街の近くには、街が所有する畑があるんですけど、そこが2度荒らされまたそうです。その、2度目のときにけが人が出ていて、」

「魔物に襲われたのか?」

「いや、ちょっと違うみたいです……1回目、荒らされたのが夜だったので夜に見張りをしていたそうで。それで魔物が現れて、暗い中追い返そうとしたら、転んでしまったらしくて……」

 魔物が出てけが人が出た。どうやら、街の中ではこの話が独り歩きしているみたいだった。ノースはため息を吐いた。魔物は、目の前で人間が転んだことに驚いたらしく、すぐに森の方に逃げてしまったようだ。だから、実際は1回目に畑を荒らされたことが被害の大半を占めるらしい。それでも、森に魔物がいると怖くて近くの道を使うことができず、不便だと言うことで、ノースのところに依頼がきたと、そういうことだった。俺は、ノースに森で何か見つけたかと聞くと、「魔物がいるというのは本当だった」とノースは言った。

「魔力の痕跡があった。あとは、何か生き物がいた跡と、これが……」

 そう言ってノースは手の平に乗せた、あるものを俺に見せた。俺は顔を近づけて、それを見る。

「これは……毛ですか? 動物の」

「いや魔物の毛だろう。特徴的な色をしている。木の枝に引っかかっていた」

 確かに、銀色の毛は普通の動物の毛じゃなさそうだ。そうなると、畑を荒らした魔物の毛だろうか。ノースは、「この毛が引っかかっていたのは、俺の腰辺りの木だった」と教えてくれた。

「え……魔物、結構大きそうですね」

「そうかもな。しかし、人間や動物を襲うのではなく、畑を荒らしたのか……」

 ノースは何か疑問が残っているようだった。そんな彼を見ながら、俺は魔物の姿を想像する。腰くらいの大きさで毛むくじゃらで、畑から森まですぐ逃げれるくらい足が速い……結構怖いな。もし対面してしまったら、襲われるのだろうか。

「今回、調べてみたが魔物自体は見つけられなかった。警戒心が強いか、もしくは夜に活発に行動するのかもしれない」

「畑を襲ったのも夜でしたよね……じゃあ、夜まで待ってみますか?」

 ノースは俺の言葉に頷いた。知らない森の中で夜まで見張りをするなんて、ちょっと怖いけどワクワクする。俺は木の棒を手に取って、「魔物ってこんな感じですかね」と自分の想像するものを地面に描いた。

「なんだこのクリーチャー」

「森にいるはずの魔物です! 毛は長くてぼさぼさで……あ、ご飯は食べましたか?」

 俺はノースに渡した昼食の存在を思い出した。俺と別れてからずっと森の中にいたみたいだけど、ご飯はしっかり食べたのかな。俺が尋ねると、ノースは「食べた」と答えた。俺は、「そうですか」と答えてから地面に描いた魔物に、尻尾を付け足す。ノースと話しながら思いついたけど、多分、魔物にはふさふさの長い尻尾がある気がする。

「お前は食べたのか」

「はい、市長さんの家でいただきました。ああ、その前に屋台で棒に刺さったこんな感じのものも食べたんですけど、それもおいしかったです!」

 俺は、自分の描いた魔物の隣に、屋台で買ったものの絵を描いた。白くてモチモチした生地に、香りの強い野菜やひき肉が包まれていてすごく美味しかった。ノースはこの料理を知らないみたいだ。夜までいることになったから、夕食をどうするか考えなくちゃいけないけど、ノースのためにもう一回あの屋台で買ってきてもいいかもしれないと俺はそう思った。

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