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7 西の町
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夜半を過ぎたころ、王都から西にある町。3人の男が鎧をガチャガチャと鳴らし、町の入り口である門に向かって規則的な足取りで歩いていた。男たちは騎士団に所属する人間だった。今日の朝から昼にかけ、町を魔物が襲撃したときもその最前線で戦った。今は、夜に再び町に魔物が現れないか見回り中だ。このまま、2手に別れ町の外周を見回ろうと話していると、暗闇の中に見知った人物を見つけた。
「団長」
「町の様子はどうだった」
門に寄りかかり、彼らを待っていたのは騎士団のリーダー、グレンノルトだった。男たちはさっと敬礼し、異常がなかったことを伝える。グレンノルトは男たちの報告を聞くと頷き、基地に戻って休めと指示した。
「しかし、町の外の見回りはまだ、」
「私が見てきた。手負いの魔物が2匹いたが討伐済みだ。もう今夜は奴らも、この町に来ないだろう」
男たちはグレンノルトの言葉を聞き、静かに驚いた。手負いだったとはいえ魔物を2匹、既に倒していたなんて。見回り中、戦闘の音や声なんて一度も聞こえなかった。それだけ手早く片付いたということなのか。驚いている男たちは、グレンノルトがじっと自分たちを見ていることに気付き、慌てて「了解しました」と敬礼した。グレンノルト・シルヴェスター、名門シルヴェスター家の嫡男であり、若くして騎士団の団長に任命された人物。実力、人格ともに申し分なく、国の剣と謳われる騎士。そんな彼は、最近ふとしたことで硬い表情を浮かべることが多かった。
「……何をしている? 戻れ」
「は、はっ!」
グレンノルトに睨まれ、男たちは慌ててきた道を戻った。しばらく歩いた後、男たちの中の一人が口を開いた。
「なあ。団長、疲れた顔してないか?」
「朝からずっと気張ってるからな」
「いや俺が言いたいのは……今日だけじゃなくて、最近のことなんだけど」
「まあ、笑顔は減ったよな。一時期は恋人でもできたんじゃないかって噂されるくらい、調子良さそうだったのに」
誰かがそう言ったとき、男たちの中でずっと無言で歩いていた男が歩くのを止めた。他の男たちがどうしたんだと後ろを振り向く。無言だった男は、「……知ってるか」と小さく呟いた。
「その噂、どうやら本当だぜ」
「本当かよ!」
「あの団長に恋人!?」
「しーっ! 声がでかい! ……噂が出始めたころに、丁度目撃したんだよ。団長が恋人と会ってるところ」
男の話を聞いた他の2人は、半信半疑と言った様子だった。なぜなら、噂の人間があのグレンノルトだからである。どんな美女にも靡かず、聞いてるこちらが恥ずかしくなるようなラブコールも微笑んで受け流し、あまつさえ「自分にあなたはもったいない」と卑下し告白さえさせてくれない。同じ男として、うらやむ気持ちも抱かせないほどに、グレンノルトはできた貴公子だった。そんな彼に恋人がいたとは、正直信じられない。
「で、相手は誰なんだ?」
信じられない、だからと言って興味がないわけではなかった。グレンノルトの心を射止めたとされる人間は誰か、男たちが知りたいと思うのは仕方がないことだった。どの貴族の娘だろう、いやもしかしたらどこかの国のお姫様かも。2人の男の想像は広がっていく。しかし、男は「それがな……」とため息を吐いた。
「顔は見えなくてな、相手までは分からないんだ」
男の言葉を聞き、他の2人も残念そうにため息を吐いた。どうせこんなオチだと思っていた。顔も見えないのにその人間が本当に恋人だったなんでわかるんだ。そもそも、その話でさえ怪しいぞ。2人は口々に文句を言う。
「いや、本当に見たんだ。あの様子は間違いなく恋人だった!」
「はいはい、分かった分かった」
もう2人は、男の話に興味をなくしていた。こいつの話は本当かも、と少しでも期待していた分、その期待がなくなるのも早い。後ろで「本当の話なのに!」と小声で騒いでいる男を無視し、2人はグレンノルトの様子について話を戻していた。
「でも最近は変だよな、団長」
「恋人の噂が流れたの、結構前だよな。えーっと……そうそう、転移者様が町に住みだす少し前くらいじゃなかったか?」
相手の言葉を聞き、男は「そうだった」と頷いた。異世界から喚ばれた転移者が、城ではなく町に住むと言って出て行ったのは当時ちょっとした騒ぎになった。だから時期も覚えている。丁度、4カ月前くらいだろうか。
「そうすると結構長いな。団長の不調」
「今度、きちんと休むよう進言するか……」
「あの人俺たちの言葉素直に聞くかなぁ」
それこそ、恋人くらいの言葉じゃなくては素直に聞きそうにないなと男は思った。3人の男は基地に着くと、疲れからすぐに寝てしまった。起きてしまえば、夜に交わした下世話な会話なんてほとんど覚えていないだろう。西の町は静かに朝を待っていた。
「団長」
「町の様子はどうだった」
門に寄りかかり、彼らを待っていたのは騎士団のリーダー、グレンノルトだった。男たちはさっと敬礼し、異常がなかったことを伝える。グレンノルトは男たちの報告を聞くと頷き、基地に戻って休めと指示した。
「しかし、町の外の見回りはまだ、」
「私が見てきた。手負いの魔物が2匹いたが討伐済みだ。もう今夜は奴らも、この町に来ないだろう」
男たちはグレンノルトの言葉を聞き、静かに驚いた。手負いだったとはいえ魔物を2匹、既に倒していたなんて。見回り中、戦闘の音や声なんて一度も聞こえなかった。それだけ手早く片付いたということなのか。驚いている男たちは、グレンノルトがじっと自分たちを見ていることに気付き、慌てて「了解しました」と敬礼した。グレンノルト・シルヴェスター、名門シルヴェスター家の嫡男であり、若くして騎士団の団長に任命された人物。実力、人格ともに申し分なく、国の剣と謳われる騎士。そんな彼は、最近ふとしたことで硬い表情を浮かべることが多かった。
「……何をしている? 戻れ」
「は、はっ!」
グレンノルトに睨まれ、男たちは慌ててきた道を戻った。しばらく歩いた後、男たちの中の一人が口を開いた。
「なあ。団長、疲れた顔してないか?」
「朝からずっと気張ってるからな」
「いや俺が言いたいのは……今日だけじゃなくて、最近のことなんだけど」
「まあ、笑顔は減ったよな。一時期は恋人でもできたんじゃないかって噂されるくらい、調子良さそうだったのに」
誰かがそう言ったとき、男たちの中でずっと無言で歩いていた男が歩くのを止めた。他の男たちがどうしたんだと後ろを振り向く。無言だった男は、「……知ってるか」と小さく呟いた。
「その噂、どうやら本当だぜ」
「本当かよ!」
「あの団長に恋人!?」
「しーっ! 声がでかい! ……噂が出始めたころに、丁度目撃したんだよ。団長が恋人と会ってるところ」
男の話を聞いた他の2人は、半信半疑と言った様子だった。なぜなら、噂の人間があのグレンノルトだからである。どんな美女にも靡かず、聞いてるこちらが恥ずかしくなるようなラブコールも微笑んで受け流し、あまつさえ「自分にあなたはもったいない」と卑下し告白さえさせてくれない。同じ男として、うらやむ気持ちも抱かせないほどに、グレンノルトはできた貴公子だった。そんな彼に恋人がいたとは、正直信じられない。
「で、相手は誰なんだ?」
信じられない、だからと言って興味がないわけではなかった。グレンノルトの心を射止めたとされる人間は誰か、男たちが知りたいと思うのは仕方がないことだった。どの貴族の娘だろう、いやもしかしたらどこかの国のお姫様かも。2人の男の想像は広がっていく。しかし、男は「それがな……」とため息を吐いた。
「顔は見えなくてな、相手までは分からないんだ」
男の言葉を聞き、他の2人も残念そうにため息を吐いた。どうせこんなオチだと思っていた。顔も見えないのにその人間が本当に恋人だったなんでわかるんだ。そもそも、その話でさえ怪しいぞ。2人は口々に文句を言う。
「いや、本当に見たんだ。あの様子は間違いなく恋人だった!」
「はいはい、分かった分かった」
もう2人は、男の話に興味をなくしていた。こいつの話は本当かも、と少しでも期待していた分、その期待がなくなるのも早い。後ろで「本当の話なのに!」と小声で騒いでいる男を無視し、2人はグレンノルトの様子について話を戻していた。
「でも最近は変だよな、団長」
「恋人の噂が流れたの、結構前だよな。えーっと……そうそう、転移者様が町に住みだす少し前くらいじゃなかったか?」
相手の言葉を聞き、男は「そうだった」と頷いた。異世界から喚ばれた転移者が、城ではなく町に住むと言って出て行ったのは当時ちょっとした騒ぎになった。だから時期も覚えている。丁度、4カ月前くらいだろうか。
「そうすると結構長いな。団長の不調」
「今度、きちんと休むよう進言するか……」
「あの人俺たちの言葉素直に聞くかなぁ」
それこそ、恋人くらいの言葉じゃなくては素直に聞きそうにないなと男は思った。3人の男は基地に着くと、疲れからすぐに寝てしまった。起きてしまえば、夜に交わした下世話な会話なんてほとんど覚えていないだろう。西の町は静かに朝を待っていた。
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