花が落ちても

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新しい母親となる人と顔を合わせた後、その年に父が再婚した。
初対面の時、女性と僕達の父親、その二人の間からこっそりと自分達の事を見ていた少女は、何となく、僕達を警戒している様にも見えた事を思い出していた。

どうして、半年前の事を振り返っていたのかと言うと、まだ到着予定の昼は数時間もあるのに、隣に座る弟がソワソワと落ち着きを無くしているからだった。
頬杖を突いて本を読んでいた僕は、それまで気にしない様にしていたものの、つい、溜め息を吐いた。

「そんなに会うの楽しみ？」
「うん！だって、妹だぞ。」

妹が出来た。それが喜ばしい事かなんて分からないけれど、双子の弟が、言葉少なにも楽しみにしているのが伝わって来て、何だか僕もそれに釣られていた。

「サクが綺麗だったから。」

ある朝の日に、読めない目をしていた彼女が、花が咲く様な笑みを浮かべてそう言った日の事は、よく覚えている。
噴き出した弟と、呆気に取られていたものの、面と向かって綺麗と言われたのが初めてで思わず照れてしまった。
将来、僕らの妹が人誑しになるんじゃないかと、少し心配になった出来事でもあった。


だが、いつからだろう。

前は、天真爛漫で、あんなに屈託なく笑っていた筈なのに。今はそんな顔も上手く思い出せない。

贔屓目無しに、可愛らしい彼女が、段々と、その表情に翳りが帯びていって、ふとした時に、僕らと視線が合いそうになると目を逸らす様になった。
反抗期だろうかと弟と顔を見合わせてみたが、何も分からない。少し残念だった。


何かと女子が煩わしいと感じる位には、異性を惹きつける容姿に生まれた事もあって、普通に接してくれる妹みたいな存在は、得難い存在だった。

けれど、徐々に、僕の心の中で彼女が、少しずつ邪魔な人物になっていった事は否定出来なかった。