いじる僕といじられる君

かげやま◢

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序章

2話 僕の日課はいじること

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 その時だった。僕が初めて彼女と言葉を交わしたのは。
「あっあの、澄野すみの・・・くん。」
「ん?」
この子・・・見たことあるな。誰だっけ。
「えと・・・私、学級委員の小谷こたにです。」
「あー、小谷さんね。で、僕になんか用?」
「えっと、先生から、澄野くんを注意しろって言われまして・・・。」
「先生って、成島なりしま先生?」
「はい。」
「はぁ・・・。なんでこんなか弱そうな子を選択するかね。学級委員だからって押し付けんの理不尽だろ。」
「ぇ・・・。」
──────────
 この時私は思った。澄野くんは、悪い人ではないんだろうと。
「んまあ、注意するなら勝手にしてくれ、僕は構わないから。じゃあね。」
「え?ちょっ!」
それから私は、いじられることが日課になってしまった。
────────
 僕がいつも通り裏庭で遊んでいると、今までしなかった可愛い声が耳に入った。
「ぁ・・・あの。」
「ん?」
顔を上げると、そこには小谷さんがいた。
「どしたの?授業もう少しで始まるんじゃない?」
「いや、始まっちゃうから、澄野くんを教室に連れ戻しに・・・。」
「へぇ・・・。やってごらん?」
「えっと・・・。どうやって・・・?」
「ほら無理じゃん。君が遅刻する方が一大事でしょ。早く戻んな。」
そう言うと俺は芝生に寝転がった。
「・・・。」
小谷さんは少し黙っていた。
ザッザッ。
足音が聞こえた。僕はこの足音を、「僕を起こすことは不可能だと思ったから大人しく教室に戻ろう。」と解釈した。だが違った。
「こちょこちょ。」
小谷さんは僕の横腹をくすぐった。
「・・・。なんか意外だな。小谷さんがこういうことするの。」
「えぇ?!効かない?!」
「あぁ、うん。僕効かないよ?」
そう。僕は擽りは効かない体質だ。
「・・・。ねぇ、お返ししていい?」
僕は咄嗟とっさに、小谷さんをいじることを思いついた。これが、僕のいじる日課の始まり。
「え?ちょ・・・。」
「こちょこちょ。」
「きゃっ?!ちょ、やめ!」
小谷さんは驚くほど擽りが効いた。体をくねくねさせながらその場に倒れ込んだ。
「すっげぇ効くじゃん。おもしろ。」
「うぅ・・・。」
小谷さんは弱々しそうに立った。
「あ。」
僕は何かに気づき、小谷さんに近寄った。
「え?!また何かするんですか?!」
小谷さんは警戒していたようだが、そんなのお構い無しに小谷さんの背中に触れた。
サッサッ。
小谷さんの制服に草がついていたのだ。
「草取り払ってたんだよ。」
「えっあ・・・ありがとうございます。」
僕は腕時計を見た。あと1分ほどでチャイムが鳴る。
「そろそろ戻ったら?授業始めるよ?」
と、腕時計を見せながら言った。
「・・・。澄野くんが戻るまで、私も戻りません。」
「・・・。分かった分かった。」
「え?」
──────────
 私は意外だった。澄野くんが簡単に教室に戻ると言ったのだから。
「ほら、行くぞ。」
「え?ちょ、待ってください!」
この時私は、澄野くんを軽く見ていた。簡単に戻るんだろうと思っていた。だが違った。いじりの本番はこれからだと、悟っていなかった。
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