虚界生物図録

nekojita

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9. ピクトクローラー

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図1:白黒映画"Shadows of Deception"(1948)に侵入中のピクトクローラー(フィルム複製。この画像自体は異常性を持たない)



図2:初期に利用されたアストラ映像(アストラ映像 version 7.0。部分、静止画)。シェルピンスキーのギャスケットに近い。




図3:現在利用されている標準的なアストラ映像(アストラ映像 version 60.0。部分、静止画)。





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#### **1. 名前** 
- **和名:** 絵潜り蛇(えもぐりへび) 
- **学名:** *Serpens imagoimmersa* 
- **別名:** ピクトクローラー 

---

#### **2. 基本情報** 
- **全長:** 1.5~3メートル(知覚されるサイズ。絵画や映像内では変動する場合がある) 
- **形状:** 
黒く細長い体躯。蛇を極限まで簡略化した形状を持つシルエットとして知覚される。
目と口、鋭い牙を持つ。鱗は光を吸収するような質感を持つ。絵画に入り込んだ時は画風に合わせてある程度形状を変化させる。
- **生息地:** 
絵画、写真、映画、動画などの視覚芸術作品内に存在。現実世界では捕獲例がないが、絵画の外に現れた目撃例が多数報告されている。 

- **分布:** 
  - アジア、ヨーロッパ、特にイギリスを中心に報告が多く、北米・南米・オセアニアでの目撃例は少ないが、詳細な分布は不明。 
  - 特に抽象画や風景画、静物画への潜入が頻繁に確認される。 

---

#### **3. 概要** 
絵潜り蛇は、視覚芸術作品に自由に入り込み、その中で活動する異常な性質を持つ虚界生物である。 

- **詳細:** 
  - 絵画や写真に入り込むと、ふつう画角から外れて移動することはない。 
  - 映画や動画に入り込んだ場合、カメラのフレーム外へ移動して、一時的に見失う場合がある。
  - 多くの場合、映画が終わるまでに再び現れ映画から出ていくことになるが、そのまま画面外に消え、所在不明になった事例もある。 
  - 絵画や映像の中で食事を行う場合もあるが、数年間食事をしていなくても異常が観察されない。このことから、作品内では代謝が停止していると考えられている。現実世界では主に小動物を捕食していると思われるが、詳細不明。ごく少数、人間を襲った例もある。

- **習性:** 
  - 現実世界では、観察されると即座に付近の絵画や映像に潜り込む。侵入できる絵画の対象は幅広く、何も描かれていない壁に侵入して壁画となることもできる。脅威が去るまで絵画から出ることはない。
  - 絵画の表面物質の検査では、黒鉛や墨、酸化鉄など、同質の絵画で黒色を表現するのに利用される顔料のみが検出される。
  - ピクトクローラーは入り込んだ絵画や映像に描かれているものに干渉する事ができる。
  - 入り込んだ絵画や映像を物理的に汚損・破壊しても、特に傷ついた様子はないが、その個体は絵画から出てこなくなる。絵画が破損された場合、破損した隙間からフレームアウトして逃げていく場合があるが、行き先は不明。
  - 入り込んだ絵画や映像を複製すると、個体の姿自体は複製にも映るが、異常性は再現されない。 

- **繁殖:** 不明。複数個体が同時に確認された記録はない。 美術館に収蔵されている絵に突然出現した事例があるが条件不明。

---

#### **4. 発見** 
- **最初の記録:** 
  20世紀後半から、絵画や写真の中での目撃が報告されている。デジタル化以前のフィルムや手描き絵画からも発見例がある。 
- **研究史:** 
  ピクトクローラーが入り込んだ作品は収集され、専用の保管施設で管理されている。 
  習性と次元間移動能力の解明のために捕獲・解剖が待ち望まれてきたが、追い詰めると絵画に侵入でき、壁や床にも入り込める特性から、捕獲は事実上不可能と考えられてきた。 
  しかし1990年代に、動画内のピクトクローラーのサイズ変化を調査していたある研究者が、無限に縮小するフラクタル図形を示した動画の中にはピクトクローラーが入りたがらないことを発見し、この発見から、「シェルピンスキーのギャスケット」をもとに隙間なく改良した「アストラ映像」が開発されると、捕獲計画が現実的なプロジェクトとなった。
---

#### **5. 実験記録の抜粋** 
- **プロジェクト080:** 
 【ピクトクローラーが侵入不能である「アストラ映像」を利用した捕獲計画】
  プロジェクト080は、ピクトクローラーの捕獲を目的として実行された一連の実験である。ピクトクローラーの入っている絵画に可動式のシャッターを取り付ける。ピクトクローラーが出てきた1.6秒後にシャッターを閉じる。シャッター、壁と床、天井は全て液晶画面になっていて、「アストラ映像」を映写する。逃走先をなくしたうえで、ピクトクローラーを無力化し捕獲する計画であった。

プロジェクト080-01:
  ピクトクローラーは捕獲を試みた職員の皮膚に入れ墨として入りこんだ。入れ墨は現在も残っている。
  note:職員はかっこいい入れ墨に満足しているようだが、次回以降は作業機械を用いる。

プロジェクト080-02:
  ピクトクローラーは作業機械の表面に模様として入り込んだ。
  note:なぜこんな簡単な事に気づかなかったんだ。とはいえ、隙間なく液晶で構成された作業機械を設計するのは骨が折れそうだ。

プロジェクト080-11:
  ピクトクローラーは監視カメラのレンズに向けて這い、突如その場から消失、管理室の監視モニターから出現した。
  note:監視映像が存在すれば(録画であった場合さえも)そこから抜け出せるようだ。以後は非接触型の熱、立体センサーを利用して探ることとし、目視による監視はしない。

プロジェクト080-34:
  ※本実験は壁、床、天井そのものが狭まり、ピクトクローラーの活動を制限する形式で行われた。
  ピクトクローラーは突如その場から消失。熱、立体センサーの情報によると、何もない空間に向かって「這い出す」ように消失したように見える。行先不明。

プロジェクト080-35~40も同様の結果であった。研究資源を無駄にしているという批判を受け同様のアプローチは凍結された。

---

#### **6. 仮説と理論** 
- **異常性のメカニズム:** 
  ピクトクローラーは、視覚芸術作品が持つ「情報空間」にアクセスする能力を持つ。その存在は、作品内での一種の擬態とも言えるが、物理法則の範囲外で行動している可能性が高い。 
  プロジェクト080で再現性を持って観察された、ピクトクローラーが「何もない空間に向けて消失する」現象について、我々の現実空間より高次な世界が存在する証拠と考える研究者もいる。
  すなわち、この世界そのものがより高次の存在から「描かれた絵画」や「観察対象」として扱われている可能性を指摘し、ピクトクローラーはその高次の世界へアクセスしたのではないか、という仮説だが、他の証拠に乏しく、現在のところは哲学的思考実験の域を出ない。
--- 

### **7. 文献・脚注** 

1. Dolton F., Renwick H. et al. 
   「絵画内の異常生物に関する初期調査報告」 
   **英国異常生物学会紀要**, 1968年 

2. Albright M. C. 
   「抽象画と風景画に潜む未確認生物の比較分析」 
   **近代美術と科学の交差点**, 1982年 

3. Peterson J. 
   「ピクトクローラーの分布と目撃例の国際比較」 
   **異常生態学年次報告**, 2015年 

4. Kingsley P. & Hadwell M. 
   「絵潜り蛇は複製映像内では異常性を消失する」 
   **生物と空間**, 1985年 

5. Astra L. 
   「視覚芸術作品内の次元的移動とその阻害要因:映像による仮想空間生物の封じ込めへの応用可能性」
   **虚界生物学**, 1998年 

6. Roberts E., McIntyre G.  et al.
   「絵潜り蛇の代謝休眠仮説: 視覚芸術作品内での長期観察結果」 
   **次元生物生態学レビュー**, 2007年 

7. Carmichael V., Sterling R., et al. 
   「プロジェクト080: 視覚空間生物捕獲実験報告書」 
   **英国次元生物研究機構技術報告書**, 2013年 

8. Haverton, L.
   「絵画破壊時のピクトクローラーの逃走パターン」 
   **次元生物行動学研究**, 2020年 
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