なまけものは、今日も修羅の道を行く

闘者 在前

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第一章

真打ち参上!

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 森の中を馬が駆けて行く。
 早い、確かに馬は早い、そんな中オレは思った。
(そういやノネット村にも馬いたよなぁ、馬を使わせてくれれば楽チンだったじゃん、なんで初めに思いつかなかったんだろ)
 後の祭りである。
(だけどあの村であまり目立ちたくないんだよなぁ、本当に村が襲われていればの話だけど)
 そんな事を考えていたら村に到着した。
(もしかしたらアシリアに追いつくと思ったけど、アシリアの方が早かったみたいだなぁ)
 村から少し離れた所で降ろしてもらい、オレは歩を進めた。

 村の中に入ったが人が外にいない。
 イツキが入って来た方とは違う入り口の方に人影が見える。
(これはエルフの村長の予想的中って事っすか、やれやれ)
 近づいていくと、アシリア、フローラ、村長と三人が囚われているのが見える。
 イツキは昔、父親に言われていた事を思い出す。
(乙葉の血は大なり小なり争いごとに引き寄せられるだっけ?元の平和な世界だったら小さな事ばかりだったんだろうけど、ここは世界が違うから大きな事にも遭遇するってか)
 イツキは後ろからヴィレムに近づき、横に並んだ。
 ハシッドも気が付ていたが、様子を見ているようだ。
 アシリアは少しパニックになっているようで言葉が出てこない。
 イツキはヴィレムに質問した。
「色々聞きたい事はあるが、とりあえず三人を助ければいいのか?」
「お前はこの状況がまるで分ってないようだな!」
「あぁ、だいたいは想像がつくぜ」
「あの母さんがあっけなく負けたんだ、あいつらは強すぎる」
「やってみなけりゃ分からんさ」
 イツキはそう言いながら前に歩き出した。
「よせ、イツキ、死にに行くようなもんだぞ、お前にそこまでしてもらう義理は無い」
 ヴィレムはイツキの肩を掴み止めようとする。
「世話になった分くらいは返すさ」
 そう言ってヴィレムの手をどかし、再び歩き出した。
(あ~ぁ、面倒だなぁ、交渉なんて無理だろうし、戦えば村から出て行かなけりゃならなくなるかもしんねえし、やっと村の人達とも仲良くなれた所だったのに、でもこのまま見過ごせるほど恩知らずじゃないんだなぁ、オレは)
 イツキは歩きながら、そんな事を考えるのだった。

 窃盗団とイツキが対峙する。
 最初に口を開いたのはアムディルだった。
「おいガキ、お前なんてお呼びじゃねぇんだ、死にたくなかったら、とっとと失せな」
「あんたにゃ用は無い、用があるのはそっちの人だ」
 そう言ってイツキはハシッドを見た、するとアムディルが剣を抜いた。
「お頭、こいつ死にたいらしい、構いませんよね?」
 しかしハシッドはアムディルの肩を叩いて。
「まぁ、ちょっと待て」
「あぁ、すまんなぁ、勇気のある少年、血の気の荒いヤツらばかりなんでね、許してやってくれ」
「いや、構わないさ」
「そりゃ助かる、それで、今アシリアちゃんと大事な商談中なんだわ」
「へぇ、それは商談って呼べるもんなんだろうな?」
「そりゃそうさ」
 イツキはアシリアに大きな声で聞いた。
「おい、アシリア、どんな脅迫を受けてるんだ?」
 ハシッドはお手上げのポーズをして首を振っている。
 アシリアは恐る恐る答えた。
「私がこの人達に付いていけば、村には手を出さないって、でも三人は連れていかれるみたい」
「なるほど、悪党らしい商談だ」
 イツキはハシッドを睨みつけた。
「おいおい、こっちは村の前まで来たら、戦いを挑まれるわ、仲間がいきなり切りかかられるわで、迷惑してるのはこっちなんだぜ、だからアシリアちゃんが一緒に来てくれれば水に流そうってんだ、まぁそこの二人にも事情をよ~く聴きたいから、一緒に来てもらうがな」
 ハシッドはそう言ってアシリアの横に並んだ。
「そうかい、アシリアが作る飯は旨いんだ、だからアシリア達を連れて行かれるのは困るんで、オレが戦いを挑んでも構わない、だろ?」
「ん~、まぁ構わねぇけど、お前が負けたら村からそれなりに頂いていく事になるが、それでもオレ達に挑むと?」
 しかしアシリアはイツキに止めるよう叫ぶ。
「イツキ止めて、この人達は本当に強いわ、適う相手じゃない、村が無くなったら帰る場所が無くなっちゃう」
 イツキは笑いながら、答える。
「アシリア、オレはこの村に感謝しかない、どこの誰だか分からないオレを受け入れてくれた、それを少しだけ返すだけだ、まぁ見てなって」
 ハシッドは村を襲う理由が出来たからか、笑いながら言う。
「小僧、無謀と勇敢、お前がどっちの人間だか教えてやる、アムディル、丁重にお相手して差し上げろ」
 アムディルが前に出ながらハシッドに問う。
「お頭、それは本気で殺しても構わねぇって事でいいんですかい?」
「あぁ、構わんよ、覚悟の上だろ」
 そう言いながらもハシッドは少し気になる事があった。
(こいつは何故こんなに余裕なんだ?オレ達を知らないだけにしちゃぁこの人数の前で落ち着いている、まるで負けると思ってない、その自信はどこからくる?まぁアムディルが遅れを取る事は無いだろうが)
「アムディル油断はするなよ、足元をすくわれる事になるかもしれんぞ」
 アムディルは後ろ向きにハシッドに手を振りながらイツキの前に立ち口を開く。
「おい、いやに落ち着いているな、少しは楽しませてくれよ」
「落ち着いてる?オレは今少々頭にきてるんだぜ、加減は出来ないと思ってくれ」
 アムディルは構えを取っているが、イツキはいまだにただ立っているだけだ。
「ふんっ、調子に乗っていられるのも、今のうちだけだ」
 そう言いながらイツキに切りかる。
 イツキは動かない、いや皆が動けないのだと思った、その瞬間アシリアは目を閉じてしまった。
 そしてアシリアが目を開けると、イツキはまだ立っていた。
 アムディルの剣を後ろに下がり避けていた。
 すぐにアムディルは後ろに下がり構えを取る。
「避けたか、面白い、だが次は無い」
「そうだな、つまらない、終わりにしよう」
 イツキの目が鋭くなる、しかし構えは取らない。
 アムディルがまた先手を取って同じ様に切りかかる。
 しかしさっきとは違い、イツキは一瞬で懐に飛び込む、その動きを目で捉えられた者がいないほどに一瞬に。
 そして右の手のひらをアムディルの心臓の部分に当てて技名をつぶやく。
「乙葉神刀念流『掌破』」
 その瞬間アムディルの心臓の裏側から波動と共に骨が折れ飛び出した、心臓は体の中で潰れ止まっている。
 アムディルがその場に崩れ落ちる音だけが響き渡る。
 イツキ以外の誰もが何が起きたのか理解できず、静寂が辺りを包んだ。
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