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Ⅱ
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身体が扉の向こうの風変わりな微睡みに包み込まれた。恐る恐る俯いて一歩、踏み出す。顔を上げた先には誰もいなかった。
僕は胸がすごく苦しくなった。自分の頭がとうとうおかしくなってしまったのかな、って、思った。
だけどベッドには小さな子が安らかな寝息を立てて眠っている。この子は確かにノエルだった。どうして眠ってるんだろう。でも凄く穏やかで健やかに眠っていた。だから多分大丈夫なんだと思う。なにがどう大丈夫なのかは分からないけどとりあえず大丈夫ということは分かった。
ノエルがいるっていうことは、さっきの会話の半分は幻聴ではないはずだ。ノエルと会話をしていた人……翔はどこ? どうしていないの?
待って、どうしていないの、って、僕。
翔に会いたいみたいだな。やだな。でも、氷が溶けてくみたいな、花が散っていくみたいな、死骸が朽ちていくみたいな、この気持ちが苦しくて苦しくて辛い。
誰か僕に話しかけてほしい、僕という存在を証明してほしい。一人は嫌だ。
もう。
一人は嫌だよ。
僕は。
僕は翔に会いたいよ。
冷たい風が吹いてきて、そこでようやく部屋の窓に隙間ができていることに気付いた。両開き窓だ。ゴシック調のデザインになっている。
その窓の、カーテンが揺れている。呆然としながら一歩、一歩と近づいた。
窓の外はバルコニーと呼ぶには狭すぎる空間があることにはあるけれど、そこには花の植木を置いてあるだけだ。まさかね、と思ったけれど、僕はその窓を開かずにいられなかった。
背中が見えて、はっとした。一瞬浮いているのかと思ったから。
彼はバルコニーの柵に座って、脚を外側に投げ出して、空を見上げているんだった。
「危ないよ!」
会いたいと思っていた人に心細い思いをしながら、やっと会えたのに、第一声はこれだった。正直もう会いたいとか寂しいとか切ないとか苦しいとかそういうことじゃなくてただただ危ないという気持ちにしかならなかった。
「落ちるよ!」
僕の声に、翔が振り返った。
「優月! 起きたんだ! ……うわ!」
僕を振り返った拍子にバランスを崩した。
僕は反射で植木を乗り越え、彼へ手を伸ばす、服の裾を掴んでグッと引き寄せた。落ちないようにと体に腕を巻きつける。
「あっぶね! 落ちるとこだった!」
翔が笑ってる。
「笑いごとじゃない」
僕は半分怒っていた。彼のお腹のあたりに巻きつけた腕は離さない。
翔はごめんね、と言いながら自然な手つきで僕の頭を撫でるんだった。
「でもたった今、笑いごとになったよ」
「そういうのを屁理屈って言うんだ、いいからとりあえず降りて」
「やだよ」
なんでだよ、ってキレかけたら、翔が言った。
上弦の月に照らされた彼の瞳は、優しくて艶っぽくて、少し戯けて見えた。
「だって降りたら優月とくっつけないから」
僕の体は一気に熱くなる。
僕は胸がすごく苦しくなった。自分の頭がとうとうおかしくなってしまったのかな、って、思った。
だけどベッドには小さな子が安らかな寝息を立てて眠っている。この子は確かにノエルだった。どうして眠ってるんだろう。でも凄く穏やかで健やかに眠っていた。だから多分大丈夫なんだと思う。なにがどう大丈夫なのかは分からないけどとりあえず大丈夫ということは分かった。
ノエルがいるっていうことは、さっきの会話の半分は幻聴ではないはずだ。ノエルと会話をしていた人……翔はどこ? どうしていないの?
待って、どうしていないの、って、僕。
翔に会いたいみたいだな。やだな。でも、氷が溶けてくみたいな、花が散っていくみたいな、死骸が朽ちていくみたいな、この気持ちが苦しくて苦しくて辛い。
誰か僕に話しかけてほしい、僕という存在を証明してほしい。一人は嫌だ。
もう。
一人は嫌だよ。
僕は。
僕は翔に会いたいよ。
冷たい風が吹いてきて、そこでようやく部屋の窓に隙間ができていることに気付いた。両開き窓だ。ゴシック調のデザインになっている。
その窓の、カーテンが揺れている。呆然としながら一歩、一歩と近づいた。
窓の外はバルコニーと呼ぶには狭すぎる空間があることにはあるけれど、そこには花の植木を置いてあるだけだ。まさかね、と思ったけれど、僕はその窓を開かずにいられなかった。
背中が見えて、はっとした。一瞬浮いているのかと思ったから。
彼はバルコニーの柵に座って、脚を外側に投げ出して、空を見上げているんだった。
「危ないよ!」
会いたいと思っていた人に心細い思いをしながら、やっと会えたのに、第一声はこれだった。正直もう会いたいとか寂しいとか切ないとか苦しいとかそういうことじゃなくてただただ危ないという気持ちにしかならなかった。
「落ちるよ!」
僕の声に、翔が振り返った。
「優月! 起きたんだ! ……うわ!」
僕を振り返った拍子にバランスを崩した。
僕は反射で植木を乗り越え、彼へ手を伸ばす、服の裾を掴んでグッと引き寄せた。落ちないようにと体に腕を巻きつける。
「あっぶね! 落ちるとこだった!」
翔が笑ってる。
「笑いごとじゃない」
僕は半分怒っていた。彼のお腹のあたりに巻きつけた腕は離さない。
翔はごめんね、と言いながら自然な手つきで僕の頭を撫でるんだった。
「でもたった今、笑いごとになったよ」
「そういうのを屁理屈って言うんだ、いいからとりあえず降りて」
「やだよ」
なんでだよ、ってキレかけたら、翔が言った。
上弦の月に照らされた彼の瞳は、優しくて艶っぽくて、少し戯けて見えた。
「だって降りたら優月とくっつけないから」
僕の体は一気に熱くなる。
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