DEAR ROIに帰ろう

紫野楓

文字の大きさ
34 / 104

13

しおりを挟む



「ごめんね、通話に出られなくて……ううん、着信拒否じゃないよ。電源を入れてなかったんだ……うん、そう……一昨日? からずっと……嘘じゃないよ、ミサトのこと、嫌いになったとかじゃない」

 咄嗟に建物の影に隠れてしまった。僕は何をやってるんだろう、と思ったけど、体が動いてしまったんだから仕方ない。

「それは平気、ミサトだけじゃないし……ああ、そうなんだ……サキコとは、さっき連絡とったよ、っていうか、電源入れた瞬間に着信が入ってサ……だから気にしないで」

 背筋に冷たい汗が流れた。聞いてはいけないことを耳にしているような気がする。仄かな街頭の下で、それも遠目からだったから、僕は翔の表情を伺うことはできない。

「最後に会ってまだ一週間くらいしか経ってないじゃん、そんな悲しそうな声しないで、だって春休みだもん……会いたい? うーん……そうだなあ」

 聞きたくないのに、耳が彼の声を拾ってしまう。

 翔の声はいたって落ち着いていた。弾んでもいなければ沈んでもいない。フラットで平然として、平常な感じがした。好意も嫌悪もない、素直な声色だった。受け取り方によって印象が大きく変わるに違いない。

 例えば、例えばだけど……通話相手の、ミサト、って人が……。

「会いたくないとかじゃないよ、君を嫌いにもなってない……好きだよ、安心して」

 翔に好意を抱いていたら、自分のことが好きなんじゃないか、って勘違いしてもおかしくない感じだった。

 僕は自分の胸を思わず抑えてしまった。

 この人、やっぱり僕、分からないかもしれない。僕もこんなフラットな言葉と表情に、惑わされているだけなのかもしれない。

 やっぱり翔にとって、僕は千人いるうちの一人に過ぎないのかな、って、頭が重くなりかける。

「でもごめんね、今は会いにいけないんだ」

 翔は暗闇に火を灯すような優しい声で言う。

「すぐに会いに行ける場所に、今いないんだ、それにね……こんなことを君に言うのはすごく、心苦しいんだけど……」

 翔は流れ星に祈るような間の後に言った。

「今、誰にも、邪魔されたくない場所にいるんだよ。だから電源を切ってたの。すごく大切なところにいるんだ……俺、もう少しここにいたいんだ、やりたいことができたんだよ……一緒に過ごしたい、って思う人たちができたんだ……ミサトが俺のこと、好きでいてくれるのは嬉しいけど……もう応えることはできないんだ。サキコにも、同じこと、さっき言った……泣かないで、でも、もう、俺は、君と二人きりで、会うことはできないかな」

 ごめんね、と彼は言う。

「やっと好きな人を見つけたから」

 彼の言葉が途切れた。

 通話が終わったんだと思う。

 僕は今だったら建物の隙間から飛び出して、今日の昼間のことを謝って、雪崩れるように僕は君のことを考えるとあったかくなったりどきどきしたり恥ずかしくなったりするし昨日初めてあったのにずっと前から知っているんじゃないかって思えるくらい君のそばにいることは心地いいんだって打ち明けることができるかもしれないって思った。

 建物の間から溢れる明かりの先にいる彼へ向かって一歩踏み出そうとした。

 その瞬間、彼のスマートフォンが着信を知らせるために鳴り響く。

 足が竦んでしまった一瞬の隙に、翔は着信を受けた。

「はい、翔です……なに? え? 絹ちゃん……だよね?」

 さっきとは明らかに違う。

 取り繕ってない声色だった。

 打ち解けている口調だった。

 慣れ親しんだ雰囲気だった。

「……急すぎない? 俺、今ちょっと立て込んでるんだけど……」

 僕の感覚が、それを目ざとく感じ取る。






 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

出来損ないΩの猫獣人、スパダリαの愛に溺れる

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
旧題:オメガの猫獣人 「後1年、か……」 レオンの口から漏れたのは大きなため息だった。手の中には家族から送られてきた一通の手紙。家族とはもう8年近く顔を合わせていない。決して仲が悪いとかではない。むしろレオンは両親や兄弟を大事にしており、部屋にはいくつもの家族写真を置いているほど。けれど村の風習によって強制的に村を出された村人は『とあること』を成し遂げるか期限を過ぎるまでは村の敷地に足を踏み入れてはならないのである。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

わがまま子息は七回目のタイムリープで今度こそ有能執事と結ばれる! ……かな?

大波小波
BL
 上流階級・藤原家の子息である、藤原 昴(ふじわら すばる)は、社交界の人気者だ。  美貌に教養、優れた美的センスの持ち主で、多彩な才覚を持っている。  甘やかされ、ちやほやされて育った昴は、わがまま子息として華やかに暮らしていた。  ただ一つ問題があるとすれば、それは彼がすでに故人だということだ。  第二性がオメガである昴は、親が勝手に決めた相手との結婚を強いられた。  その屋敷へと向かう道中で、自動車事故に遭い短い人生を終えたのだ。  しかし昴には、どうしても諦めきれない心残りがあった。  それが、彼の専属執事・柏 暁斗(かしわ あきと)だ。  凛々しく、寡黙で、美しく、有能。  そして、第二性がアルファの暁斗は、昴のわがままが通らない唯一の人間だった。  少年以上・青年未満の、多感な年頃の昴は、暁斗の存在が以前から気になっていた。  昴の、暁斗への想いは、タイムリープを繰り返すたびに募る。  何とかして、何としてでも、彼と結ばれたい!  強い想いは、最後の死に戻りを実現させる。  ただ、この七回目がラストチャンス。  これで暁斗との恋を成就できなければ、昴は永遠に人間へ転生できないのだ。    果たして、昴は暁斗との愛を育み、死亡ルートを回避できるのか……?  

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます

トモモト ヨシユキ
BL
気がつくと、なぜか、魔王になっていた俺。 魔王の手下たちと、俺の本体に入っている魔王を取り戻すべく旅立つが・・ なんで、俺の体に入った魔王様が、俺の幼馴染みの勇者とできちゃってるの⁉️ エブリスタにも、掲載しています。

ペイン・リリーフ

こすもす
BL
事故の影響で記憶障害になってしまった琴(こと)は、内科医の相澤に紹介された、精神科医の篠口(しのぐち)と生活を共にすることになる。 優しく甘やかしてくれる篠口に惹かれていく琴だが、彼とは、記憶を失う前にも会っていたのではないかと疑いを抱く。 記憶が戻らなくても、このまま篠口と一緒にいられたらいいと願う琴だが……。 ★7:30と18:30に更新予定です(*´艸`*) ★素敵な表紙は らテて様✧︎*。 ☆過去に書いた自作のキャラクターと、苗字や名前が被っていたことに気付きました……全く別の作品ですのでご了承ください!

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

処理中です...