DEAR ROIに帰ろう

紫野楓

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 翔と別れて5日が経った。でも僕の中では、ひと月もふた月も経ったかのような苦しさだった。

 マダムは僕のことをなんとも言わなかった。きっと勘のいい彼女のことだから、僕が翔と別れた日に何かよくないことをしてしまったことは絶対に分かっているはずだけど、いつもと変わらずに接してくれている。それが優しさからなのか何か面白がってのことなのかはわからない。でも、彼女は雨粒が空から降ってきて地面に落ちるような当たり前さで僕に接してくれている。

 ノエルは違った。僕に元気がないことと翔がいなくなったことに、何かの繋がりを漠然と感じているらしかった。ノエルは僕を露骨に哀れんだような目で見てくる。僕が彼に余計な気を使わせないようにとなんでもないそぶりを見せたり笑ったり、どんな言葉を言っても「どうして嘘をつくの?」と不思議そうで情けをかけるような顔と声で僕の顔を見上げるんだった。彼に嘘を吐くことなどできないなんて分かりきっているのに、僕は5日経っても彼に本当の気持ちを告げられない。

 そのうちなんだか、僕とノエルはよそよそしくなってしまった。ノエルはマダムにくっついて離れず、僕を見ても、たんぽぽみたいに可愛くて、満面の笑顔を向けて抱きついてはくれなくなってしまった。別れ際に翔にくれたアドバイスも、少しも役に立たなかった。

 僕とノエルは、友達以前の地点にあからさまな問題を抱えてしまっているから。

 まるで水中に沈んでいくような日々だった。息が苦しい。心にずっと引っかかっていることがあって、勉強も、店の接客も、蕗ちゃんとの会話も、家事も、ささやかな失敗をいくつかしてしまった。それでもマダムは、なにも言わないで失敗の手助けをしてくれた。

 僕は自分が惨めで情けなくて仕方ない。

「……ただいま戻りました」

 『DEAR ROI』の扉を忍ぶように開けた。

 カウンターに立っているマダムが僕の声がする方へ顔を上げる。

 彼女はいつものように微笑んで、おかえりなさい、と僕へ言ってくれた。

 マダムの前の椅子にはノエルが座っている。これもここ数日の日常風景になっていた。彼は絵を描いたり、黒うさぎとままごとをしたり、おやつを食べたりしている。僕の方をちらと見て、浮かない表情で「おかえり」と彼は言う。いつもなら。

 今日は違っていた。ノエルは僕が戻ったことに気付くと、あからさまにマダムを見上げた。

「行っておいでなさい」

 マダムがノエルに、優しい声で言うんだった。

 なんのことだろう?




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