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初めて死にたいと思った

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「春人、考えても見てください」


 額に優しくキスをされた。春人の中に入っている芒のものは、まだ熱を持っていて張りつめている。


「お前のような淫乱が普通の恋愛なんかできるわけないでしょう?」


 ぞくぞくした。重い快楽に目の前が真っ白になった。


「あっ! あぁあ! ……ま、まだ、や、っ、ッ待ってぇ、ッ……!」


 まだイった余韻が引き裂かれるように、さらに激しい快楽が襲ってきた。


「ほら、こんな欲情した顔をして、いつも他の男の精液をお腹の中にぶち込まれて、腕も身体も傷だらけで……こんな体に欲情できるのは、セックスをお金で買う人だけですよ……ふつうは目を逸らしたくなります……お前はそれを分かっているから、普段は地味に暮らしていますね、周りから嫌われたくないんですね……でも自分で傷をつけるのはやめない……酷いですねえ、自分から煙たがられるようなことをしてしまうなんて……可哀想な春人……」

「ああぁ、っ……ん、んんぅ、あ、はぁああ……」

「こんなベビードールも着て、セックスは好きなだけやってくれて、今の春人の姿を、お前の好きな人に見せたらどう思うのでしょうか」


 芒の性器は彼が言葉で春人を責めるたびに張りつめ、熱を帯び、大きくなっていった。


「っ、あ、ぁ、ぁあッ」

「お前はせいぜい『ICHIKA』なんて通り名で一生もの好きな男のおもちゃになって過ごすのが一番ですよ。お金にも困りませんし、学校なんて通わなくてもいいんですよ」

「い、やぁぁッ!」


 最奥を穿たれた瞬間、勝手に収縮する中で、芒のものが爆ぜたのが分かった。

 少し汗ばんだ芒が、それでも余裕たっぷりの笑顔で春人を見下ろしている。


「春人、もうお前は変われないんです。あったことを無かったことにすることはできないんです。分かりますね?」

「あ、ん……は、ぃ……」

「お前は幸せにはなれません。その恋心は諦めなさい。それは相手の為でもあるんですよ」


 春人は憔悴しきった体と、快楽で摩耗した頭の中で、呆然と考える。

 ミチルのため、そうかもしれない。こんな、こんな僕が関わるような人じゃない。こんな姿とても見せられない。僕の全部を知ってしまったら、もうミチルは、僕に笑ってはくれないだろう。好きなんて軽々しく言わなくなるだろう。だったら今のままのほうがずっといい。特別になれなくてもいい。傍にいてくれるだけで、いい。

 ミチルが幸せなら、僕はどうでもいい。忘れてしまえば、忘れてしまえばいい。


「返事は」

「……は、……い」

「いい子ですね。可愛い春人……いい子なお前には、もうそんな恋心を芽生えさせることなんてないように、芒がたくさんなじって、いたぶって、もてあそんで、気持ちよくしてあげますね……」

「……は、い」


 初めて死にたいと思った。





 
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