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明治の有識者ってすげぇなぁという思いを野球用語に垣間見る

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 そもそも『野球』という単語からして、スゴイと思う。
 BaseBallという球技名を直訳すれば『基地球』『底球』だったはず。

 Baseの意味は
 1 もとになるもの。基礎。基本。土台。「ラム酒を—にしたカクテル」
 2 根拠地。基地。
 3 野球で、塁。「二塁—」
 4 塩基。また、塩基1個を示す単位。
(weblio辞書より)

 これを『野球』と名付けたのは中馬庚ちゅうまんかなえ
 広めたのは正岡子規。
 直球 打者 走者 死球 飛球 などの単語、正岡子規が命名したのだとか。

 ちな、『塁球』といえばソフトボールを意味します。マメ知識。

 ところで上記した『死球』。デッドボールのことだと解りますよね? ピッチャーが投げたボールがキャッチャーミットに収まらず、バッターの身体に当たる状況のことを指します。
 打者は打たずに一塁へ行けます。

 この状況を『死球』と訳した正岡子規のセンスたるや。

 デッドボールという単語、とてもわかりやすいのですが、英語で正しくこの状況を言うなら『hit by a pitch』です。『投手にぶつけられた』って訳していいのかな。『dead ball』だなんて怖い単語は使いません。

 明治から大正になり、昭和の戦争期には日常生活から英語を廃止。学生は英語の教科書の外国語部分を墨で塗りつぶす作業を授業中にしたとか。
 そんな状況下でも、なお野球を愛した人々は野球用語をすべて日本語に直してプレイし続けます。
 戦後、英語禁止が解禁され普通に使ってもいいよってなってから、今まで使っていた変な単語を英語に戻そうとします。
 そういった経緯があるせいか、野球は和製英語の宝庫になってしまいました。

『デッドボール』という和製英語はその代表格。
『死球』という言葉が定着したあと、英語に直訳しなおした単語です。


 しかしまぁ、そもそもですね、『hit by a pitch』を『死球』とした正岡子規がすげぇのですよ。
 打たずとも一塁へ行ける。(もうひとつ、打たずとも進塁できる状況が『四球フォアボール』。同じ音なのがとても興味深いです)
 バッターはのに一塁へのですよ。
 矛盾というか恐ろしい状況というか。ゾンビが往行するグランド。恐ろしい。

 ほかのスポーツでここまで物騒な単語を使うスポーツはあるのだろうか。(あるかもしれません)

 わたくし、スポーツ観戦が好きでよくTV中継を観ます。
 しかし、野球ほど恐ろしい単語――生き死にに直結する――が使われるスポーツ、他にないと思うのです。(あるかもしれません)

 野球は厄介な用語が溢れています。
 野球中継でアナウンサーが使う言葉の数々を耳にしたとき、平和主義のみなさまは我と我が耳を疑うに違いありません。

 例えば一塁ランナーが二塁へ『盗塁』した場合。

『源田(西武の選手。足が速い。嫁が可愛い)、二塁をおとしいれました』

 などとアナウンサーは言います。
 が平然とあるのですよ? 怖くないですか?

 おとし‐い・れる【陥れる/落|(と)し入れる】
 読み方:おとしいれる
 [動ラ下一][文]おとしい・る[ラ下二]
 1 だまして苦しい立場に追いやる。わなにかける。「罪に—・れる」
 2 城などを攻めて取る。「砦|(とりで)を—・れる」
 3 (落とし入れる)落として、中へはいらせる。「公衆電話に硬貨を—・れる」
(weblio辞書より)

 そして塁を巡って本塁を踏み、チームに1点追加! となったとき。

『ランナー本塁に!』

 聞きました? 奥さん(誰)
 生還ですよ? 生きて帰ってきたって言ってるんですよ?
 ランナーは今までどこにいたんですか? 死線を彷徨さまよったんですか? 戦場ですか? 

 そして盗塁を阻止するために、キャッチャーからの送球があった場合。

『甲斐(ソフトバンクの捕手。その唸る右腕は『甲斐キャノン』と褒め称えられる)! 見事、二塁で源田を!』

 などとアナウンスされます。
 刺すか刺されるか。
 野球のフィールドはまるで仁侠の討ち入りのごとく、危険と命のやり取りが平然と行われる現場なのです。

 塁上に立っていれば安全だけれど、そこから一歩離れると、いつ刺され命を落としても可笑しくない戦場と化します。
 明治の野球を愛する日本人は、かくも重々しい覚悟を胸に秘め野球に臨んでいたのです!(違う)



 なろうの方では以下のような感想もいただきました。

 →「捕殺」,「刺殺」,「封殺」,「挟殺」,「併殺」と、ベースボールグラウンドは米花町以上にコロしが日常茶飯事の危険地帯ですね。(引用おわり)



 アナウンサーの言葉で聞くとただのアウトだったり、ダブルプレーだったりするはずなのに、文字におこすと殺伐感がましましになりますね。

 そもそも『OUT』を『殺』で表したあたりがもうね(笑)
 アメリカさんが「out of game」的な意味で使っている『OUT』が日本では『殺』に該当するという。

 ファールフライを漢字にあてると『邪飛』になるのも面白いです。
 グランドは『邪』なるものが飛び交いあちこちに『殺』が待ち受けている、米花町も真っ青な危険地帯。たすけて、コナ○くーん! 蘭ねーちゃーん!

 これらの状況が当たり前のように高校野球でも行われています。
 あんなにうるさい高野連はこの現状に気がつかないものですかね。選手たちの髪型にケチをつけたり、ホームランを打った選手がガッツポーズすることに文句を言うくせに、こんな怖い戦場にこどもたちを立たせているという現状に気がつくべきですね(けっ)
 おっと、蛇足蛇足。
(わたしは言葉を変えろと言っているわけではありません。高野連がいちゃもんをつける箇所が嘆かわしいという意味)

 とはいえ、言葉の数々が作られたのは明治時代。
 当時のご時勢を考えれば、面白く分かりやすくするのに物騒な言い回しを使ってしまっても致し方ないなと思うのです。



 最近、「んん?」と思ったアナウンサーが言う野球用語は『リクエストを要求する』。
 テニス、バレーボール、サッカーでもやるようになった『映像を見て、もう一度ジャッジしなおす行為』
 微妙なジャッジをビデオ判定できる権利を野球では『リクエスト』というのだけど、なぜか日本プロ野球では『リクエストを要求します』などと言う。

 そもそもリクエストとは『なにかを要求する』という意味の英語なのに、要求を要求するとはこれ如何に(笑) 馬から落馬か?
 アナウンサーによっては「リクエストですねぇ」で留めてくれるから違和感を覚えずにすむ。
 審判がビデオを見ている時間、球場では大画面に問題のシーンをリプレイしてる。その間、流れている曲が球場ごとに違うので、その違いが楽しかったりする。
 (甲子園はエヴァのヤシマ作戦のときの曲)(ネルフのテーマ?)


 試合開始の掛け声は『play ball !』、『ボールで遊ぼう!』の意味。
 本来、危険や命のやり取りはしません。ゲームですからね。

 日本の『野球道』は物々しい。そんな野球、嫌いじゃないです。




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