16 / 68
告白騒動
「それ以上の接近を禁止する。下がれ」
と、冷たく言うキャシー。
侍女の身形だけど、近衛モードに入っているわね。気配がピリピリしているもの。
「お話をさせてください、お願いします」
ピンクブロンドはめげないのね。
もしや、このピリピリを感じていないの?
キャシーを見た目どおりの綺麗なお姉さまだと、いいえ、ただの侍女だと侮っている?
空気が読めないのは致命的よ? ダメだと思うわ。
「リュメル様。この方は貴方の手の届く方ではないの。悪いことは言わないわ、諦めなさい」
高圧的なキャシーと違い、メルセデス様は優しく諭すように話されるのね。
同じ学生としての温情なのかしら。
「手が届かないって……。なぜ? こんなに近くにいるのに」
そんな泣きそうな顔でわたくしを見ないで欲しいわ。
不快よ。同情を買おうというのかしらね。
あら。変ね。
さきほどのメルセデス様の涙目には、心打たれたというのに、今はピンクブロンドの涙目を見ても不愉快に思うだけだわ。
どちらも美形。
違いは性差?
わたくし、女性に対しての判定が甘いのかしら。
……いいえ。
このピンクブロンドには自分の顔面の威力をよく理解して、それを活用している印象を受けるのよ。
なんだかわざとらしい、というか……驕りが見えるというか……。
「お前の身分で釣り合う方ではない」
冷たく切り捨てるキャシーの声に、ピンクブロンドの口が小さく「釣り合う方ではない?」と繰り返した。
分かってくれるといいんだけど……と見守るわたくしを、彼はキッと見返した。
あ。
なんでか分からないけど、彼が無駄に闘志を燃やしたのが分かったわ。
「せめて! 手紙の返事を頂けませんか?」
門前払いは嫌、ということかしら?
わたくしとの交流をなんでもいいから欲しいと?
ピンクブロンドの背後にいる騎士科クラスの男子学生たちが固唾を呑んで見守っている気配を感じるわ。
嫌ね。“え? 告白受けてくれないの? なんで?”って聞こえてきそうよ。
「無理だ。お前の手紙はあの方に届くまえに検閲され不適切だと判断された。あの方はお前の手紙自体、目にしてない。目にしていない物に返事などできない」
不適切だと判断された『何か』があったのね。でなければ、手紙があった事実だけは、わたくしの元に来るはずだもの。
なにがあったのかしら。知るのが怖いわね。
「検閲? 他の人が読んだんですか! 酷い! 僕はちゃんと“親展”と書いたのに! 表書きに“親展”と書いてあれば、本人以外が読まないのは常識ですよ!」
……なるほど。想定の出発点が違うわね。
彼は貴族というより、商人としての常識で動いているわ。
もともとお家が商会だからでしょうけど。
わたくし達は王族としての常識で動いている。王家の人間への書簡が検閲もなく届くなどあり得ない。
それが公爵家など特別な家門ならいざ知らず、一介の男爵家からの書簡が、たとえ“親展”などと記されようと素通りできないのは自明の理。
……解釈がすれ違うわけね。
「そちらの常識は通じない。駄目なものはダメだ。諦めろ」
溜息混じりのキャシーの言葉は冷たいようだけど、他に言い方もないわよねぇ。
駄目なモノはダメだし、諦めて貰う他、方法がないわ。
まったく。こんな大事にしたくなかったのに!
「そんな! ローゼ様!
ローゼ様ご自身は、どう思っていらっしゃるのですか? 僕のこと、憎からず思ってはいませんか?」
うわぁ。
今、ゾワゾワっと鳥肌が立ったわ。
なにか、得体の知れない気持ち悪さが背筋を這い上ってきたわ。なによこれ?
気持ち悪い。
ピンクブロンドが片膝立てて跪いた。右手を胸に当て、騎士が忠誠を誓う姿勢をとる。
「ローゼさまっ。ずっとお慕いしてました。どうか、哀れな僕にお情けを!」
はぁ?
もしかして、この子、わたくしに好意を寄越せと言っている? ……のよね?
せっかくキャシー達が引き下がれと言っているのに、わたくしに直接声をかけて“お情けをくれ”?
それって、こちらには不敬罪を適用するな見逃せ、と要求しているようにしか聞こえないわよ?
わたくしとしては、そんな大事にはしたくなかったのが本音だけど、ここまで大っぴらにしたらなんらかの処分が必要になるじゃない!
「ねぇ、クルト。あれ、君の教え子に当たるんだろう? 止めないと君、免職ものだよ?」
「え? 誰だ……うぇっ?! る、ルーク様?!」
すっかり傍観者としてピンクブロンドの告白劇を見物していた騎士団隊長に声をかけたのは、わたくしの敬愛するサラお義姉様の弟君。
ベッケンバウワー公爵家の次男、ルーク・フォン・ベッケンバウワー様。
「やぁ。アンネローゼ。久しぶりだね。元気だった? 制服姿を初めて見たけど、まるで君が着る為に作られたようなデザインだね」
「あたりまえです。わたくしが着たくて作ったのですもの!」
朗らかにわたくしに声をかけてくださるルークお兄様。
黒い髪に、わたくしの大好きなサラお義姉様と同じ翡翠の瞳。大好きな……。
そのルークお兄様が、どうして学園にいらっしゃるの?
確か、大学部で研究に励んでいらっしゃるとばかり思っていたのに。
大学部はこの学園の隣の塔にあるとはいえ、かなり距離があるわよね?
「えぇ?! アンネローゼって……えぇぇぇ?!!! あぁっ!! キャサリン様っ!?」
クルト隊長は、やっとわたくしの顔に注目したらしいわね。彼もわたくしを『制服を着ている』から下級貴族の娘だと認識していたのでしょうね。
そして侍女服を着ているキャサリンにも。
気が付くの、遅すぎるわよ。
そんな風に注意力散漫だと、お仕事に悪い影響がでるんじゃないかしらね。
あなたにおすすめの小説
婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。
待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。
そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。
MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。
記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。
旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。
屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。
旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。
記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ?
それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…?
小説家になろう様に掲載済みです。
姉の方を所望していたと言った婚約者に、突然連れ帰られて気づいたら溺愛されています
もちもちほっぺ
恋愛
侯爵家の地下室に住み、姉の食べかけで飢えをしのぎ、婚約者には初対面で「老婆のようだ、姉の方がよかった」と言われた令嬢リリアーナ。
ある日その婚約者に問答無用で公爵邸に連れ帰られた。
庭の恵みを口にするたびに肌が輝き、髪が艶めき、体に力が満ちていく。首に巻いたお守りの秘密、十数年続く国の不作の真実、虐げられ続けた令嬢の出生の謎。
全てが明かされる時、地下室令嬢の逆転劇が始まる。
なお婚約者は今日も庭でグルメリポートを最後まで聞いている。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】
本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。
Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited.
© 魯恒凛 / RoKourin