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承
しおりを挟むまだだっ。
諦めるのはまだ早いっ早過ぎるっ。
破滅へのカウントダウンを止めるんだ!
野球はツーアウトからだって、ドカベ〇で読んだ。
諦めたらそこで試合終了だって、安〇先生も言ってた。
考えろっ
智慧を働かせろっ
ねだるなっ 勝ち取れっ さすれば与えられんっ……。
一万年と二千年前からあ・い・し・て・る~
……違う それはアクエリ〇ン。
俺が言いたかったのはエウレ〇セブン。だいぶ混乱してるぞ俺。
「エリザベス・エクセター! 貴様はここにいるマーガレット嬢を、メグを、苦しめ傷つけたんだってな! 全部メグから聞いてるぞ!」
待て騎士団長子息、ダン・ウェイマス。(赤)
それは勇み足だ。向こうで騎士団長が目を剥いてこっちを見てんぞ?
王族であるうちの両親の警護任務がなけりゃ、すぐにでもこっちに来そうな雰囲気だぞ?
そもそも、マーガレットから聞いた話だけを根拠とするのは片手落ちだ。第三者の証言も必要じゃないのか?
「エリザベス! 貴様は姑息にもメグの持ち物を破損し彼女の清い心を踏み躙った! この罪、万死に値する!!」
待て待て、宰相子息ヒューイ・ブリスベン。(青)
その持ち物をエリザベスが壊したって証拠は? 壊した現場をお前は見たんか?
んでそれが一万回死ぬ事と同等になるって?
一万個の持ち物を壊したってか?
一万個も物を持ってたっていうのか?
「アレクサンドラ。君もでしょう? エリザベス・エクセターに同調して彼女の意に従いメグを仲間外れにしたのでしょう? 私は全て聞いています」
ちょい待てや、神官長子息のアンヘル・フェートン。(黄)
飛び火したよ! アレクサンドラ・カレイジャス伯爵令嬢を巻き込むなよ! いくら彼女がエリザベスの親友だからって……。
いやいや。アレクサンドラ嬢は君の婚約者だったと記憶してるよ?
しかも彼女、聖女の称号を持ってなかったかな? 持ってたよね? 俺の記憶、正しいよね?
神官の資格持ちで神官長の息子である君が、聖女様と敵対したら、不味くね?
その時。
エリザベスの隣に柔らかな微笑みのアレクサンドラ嬢が並んで立った。エリザベスの背を撫でてるみたいだ。
反対側の隣には(いや、斜め前だな)リリベット・グローリアス辺境伯令嬢がエリザベスを守るように音もなく立った。
彼女は剣豪揃いの辺境伯家随一の剣の使い手と聞いている。剣の天才で、だからこそエリザベス── 未来の王子妃 ── の友人兼護衛として傍に居る。
確か、既に近衛隊入隊資格持ちだ。
今日はドレス姿だけど、素手でも強そうだし暗器も仕込んでそう……。
あれ? 彼女、赤頭の婚約者じゃなかった? すんげー厳しい目で赤頭を睨んでるよ? あれは敵認定されてるよ?
「僕たち、知っているんだよ? エリザベス嬢とその取り巻きたちが徒党を組んで、メグを除け者にして虐めてるんだって。通りすがりに足をかけられて転ばされる、噴水に突き落とされる、お茶会にも呼ばれない。どこまで卑怯なの?」
ちょっと待とうか、大商会会長子息ルイ・チャタムくん。(緑)
俺、それ聞いてないぞ? え? 本当なのか?
転ばされた? 噴水に落とされた? いつあったの? 記憶にないぞ?
考えろ。
なにか、変だ。
そういえば。
お茶会に呼ばれないって確かに言ってたな。
マーガレットは友だちが居ないって、言ってた気がする。
あぁ、そうだ。
思い出した。だからエリザベスに『お願い』した事があった。『マーガレットを除け者にするな、仲間に入れてやれ』と。
待て俺。
それ、『お願い』か?
仲間に入れてやれって、そんな言い方したら間違いなく『命令』になるんじゃないの? だって俺王子だもん……。
エリザベスは困った顔を一瞬した。一瞬だけで、直ぐにいつものアルカイックスマイルに戻った。
そして『畏まりました、殿下』って頭を下げた……。
あれは婚約者の態度じゃねーよ。
臣下の態度だ。臣下として、エリザベスは俺に接していたんだ……。
違うよな。君と俺は小さい頃から遊んだ幼馴染で、婚約者だ。臣下だなんて、思ったことないよ、俺。
いつからだ?
いつから君は『臣下』になってしまった?
俺はなぜその態度を良しとした?
そのまま放置した?
思い出せ! なんか大切なことのような気がする。なぜ忘れている?
いつから?
王立学園に入学して、1年間は何事も無かった……と思う。
普通に幼馴染として、婚約者として接していた。君も俺を『殿下』なんて他人行儀に呼ばなかった。ちゃんと名前で呼んでくれてた。
異変は……2年生の途中でマーガレットが転入して来てから。
そうだ。マーガレットが来てから、なにか、どこか少しずつ、変わっていった。
エリザベスとの距離がだんだんできて、マーガレットと過ごすようになった。
……変じゃないか?
「リリベット・グローリアス。俺は貴様との婚約を破棄する」と、赤頭。
「アレクサンドラ・カレイジャス。私も貴女との婚約を解消させて頂きます」と、黄頭。
「私もアリス・ドレイク侯爵令嬢との婚約を破棄する」と、青頭が続き。
「僕もルイーズ・ノーサンプトンとの婚約を破棄するよ」と緑頭がほざいた。
会場内の『ざわ・・・』が増え、空気が重くなった。
お前たち、なぜこれに気が付かない?
なぜみんなしてドヤ顔してる?
『言ってやったぜ俺すげぇ』みたいな顔してるのは、第三者的に見て間違いなく紛れもなく……滑稽だぞ?
考えていたら、怖い事に気が付いた。
俺の名前。
俺の名前、今までなんの疑問も持った事なかったが。
コージー・イノセント・コーナーって
もろっ!
日本人がつけた名前っぽくね?!
セカンドネーム取っ払ったらコージーコーナーだぞっ!!!
そして王族だけが持つセカンドネームも!
【イノセント】?! なんだこれ!!
純粋無垢とか潔白とか無邪気を意味する英語じゃんか。
しかもその上に『単純バカ』とか『悪気のない』とか『無知』……要するに天然って意味になる単語だ。
これは間違いなく日本人が作ったゲームか小説の中だ。
しかも王子の俺は『単純バカ』と名付けられている。本人は『潔白』のつもりで行動する『無知な単純バカ』の役を割り振られている。
善意で拳を振り上げ、悪を倒す正義の味方気取り。
その実、ただの道化。
悪気なく、善意100%で他者を傷付ける己を省みない社会の害悪……。
どうしよう、じいちゃん。
今、俺、害悪になっちゃってる!
ざまぁされるの、俺確定、じゃん……。
眩暈がする。
冷や汗が背中を伝う。
……絶体絶命状態の俺の脳裏にじいちゃんの声が。
『こうじ。強い男は常に一人で敵と戦うものじゃ。
見てみぃ。仮面ラ〇ダーもウルト〇マンも、ドラゴンボ〇ルの孫悟空も、みーんな敵とは一対一で戦っとる。悟空も強敵と戦う時はベジ〇タと合体してまで、個人になって戦ったじゃろう?
ラオウとトキの争いにケンシ〇ウは加勢せんじゃろ? そういう事じゃよ。
それは男のプライドであり、ロマンじゃ。男の価値を高める戦い方じゃよ。
集団で徒党を組んで戦うのは女子の戦い方よのぅ。セ〇ラームーンやプリキ〇アがそうじゃな。
プリキ〇アも初代は二人組だったが、回を追うごとに人数が増えおった。終いにはオールスターとやらで全員攻撃じゃ。
女子に逆らったらいかん。最悪、多勢に無勢で死ぬ事になるのぅ。男はいつでも女子に弱い。それで世の中平和になるものじゃて』
『じいちゃん、なんとか戦隊は? 団体戦で戦ってるよ?』
『奴らも最終形態はロボに乗って合体して、ひとつの巨大ロボが戦うじゃないか!』
『おぉっ! そういえばそうだ!』
じいちゃん。
よく俺と一緒にテレビ見てたからアニメに詳しくなったじいちゃん。
俺とテレビ見ながら、バカ話をしてくれたじいちゃん。
大好きだったじいちゃん。
今、このピンチでじいちゃんを思い出したのは。
きっと俺を助ける為だと思う。
俺は一歩二歩と、対峙するエリザベス達の方へ足を進め、丁度、真ん中辺りで歩みを止めた。
そして今まで一緒に居た奴らを振り返る。
「お前たち。本当に、いいのか? 後悔はないのか?」
きっと後悔するぞ。
学園主催のダンスパーティー。王族を主賓に招いてするそれは、学期末最大のお祭りだ。そして俺たち3年生が卒業を前にして有終の美を飾る最後のイベント。そう、3年生だけのイベント。
そのイベントの真っ最中にこんな騒ぎを引き起こした。集団婚約破棄宣言なんて、前代未聞だ。
醜聞なんてもんじゃない。
でも後悔って読んで字のごとく、後からするものだから、今悔やんだりできねーんだろうなぁ……。哀れ。
「ありません」
青頭が答える。他の奴らも頷いている。
赤から順に視線を合わせる。俺と視線を合わせて頷く赤頭。
青頭も頷く。黄色も、緑も……みんな
狂ってやがる。
どー考えてもおかしいだろ?!
今まで皆、婚約者と上手く付き合ってたはずだ。
それがどうだ? 揃いも揃って、どうしてこうなった?!
さっき婚約破棄宣言をした全員、頭の中、腐ってやがる。青頭と緑頭にいたっては、奴らの婚約者はこの場にいないんだぞ?
いや違う。青! お前もひとつ非常識をしでかしてるぞ! 学年が違っても婚約者なら参加資格がある。公式パートナーだから。それなのにお前の婚約者のアリス・ドレイク侯爵令嬢はこの場にいない。
お前、婚約者のエスコートをドタキャンしやがったな! そのうえで、この場に居ない婚約者に向けて婚約破棄宣言したのか! 欠席裁判もここまで非道はしないぞ?
3年生のみのイベントに下級生は参加資格がない。なのに緑頭。お前2年生だろ? なんでここにいるんだよ!!
本人はマーガレット嬢のパートナーだからって言い訳しそうだけど、冗談じゃない、マーガレット嬢には他にも赤青黄と男が揃っている。
(俺もか? 俺も勘定に入るのか? どうしよう、涙目になりそうだ)
にも関わらず、お前はこの場に居て、俺たちに続けて破棄宣言しやがった。
まるで何かのシナリオに沿って動いているみたいに。
俺は一つ、わざと大きなため息を吐いた。
顔を俯け、足元を見る。
いやだぞ!
俺はこの汚名、返上するっ。
絶対するっ!! 諦めるものかっ!!
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪
退かぬ!媚びぬ!省みぬ!
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