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AIの活用法その一『森の中で』

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 AIに言われたとおり、注意深く目を凝らし耳を澄ましながら、俺は森の中を歩いて行く。焦らずじっくりと進んでいると、かすかに水の音が聞こえて来た。

「おっ、来た!」

 早歩きしていたら足音で聞こえない、そのくらいの小さなせせらぎだがたしかに水が流れる音が聞こえる。
 俺は耳に手を当て音のする方向を慎重に探りながら歩いて行く。

 しばらく進むと、湧き水が大きな岩から染み出ている場所を見つけた。清浄な水のようなので飲んで喉を潤す。

「ふう……生き返った。とりあえずこの場所を覚えておけば、脱水症状で死ぬことはないね。ひとまずは安心」

 音が小さかったのは川じゃなく湧き水だったからなんだな。
 これは注意してなきゃ聞き逃してたかもしれないし、AIの意見を頭に入れておいてよかった。

「さて、AIは食べ物のことも言ってたし、水が確保できたことだからここで詳しく探してみようか――ん? これは?」

 目を凝らしたら早速、変わったものが見つかった。
 湧き水が流れ落ちた窪みに小さな水たまりができていたのだが、その底に微かに色が違うところがあったのだ。

 身をかがめて土をどけてみると、赤色の真珠のようなものが数個あらわれた。これが見えていたらしい。

「おお、きれいだな……でも食べられないんじゃ今は意味ないな。でも宝石の類のように見えるし、一応持っておこうか。人里を見つけた時のために。さて、それじゃ他に食べられそうなものはどこかな――」

 草を書き分け、岩陰に目を向けて食べられるものがないかも探すと、湧き水の出る岩の裏に赤い傘の肉厚のキノコがあった。
 角が丸みを帯びた星形という奇妙な傘の形をしている。
 他にも黄色い食用菊みたいな植物も咲いていて、ベリーみたいな実もなっている。どれも食べられそうだけど……でもキノコってちょっと怖いな。

 少し考えて、伸ばした手を引っ込めた。

「今すぐ飢え死にするわけでもないなら食べるリスクの方が高いか、さすがに。でも餓死寸前になった時のために場所はちゃんと覚えておこう」

 石を拾ってそばにある木の幹に傷をつけて印をつけた。

 しかし、食べられそうなものを見つけても、それが本当に食べられるかっていうのは、やっぱり現地の詳しい人に聞かないと確定しないのは辛いな。
 腹が減って一か八か食べる前に、やっぱりこの異世界の人間を見つけたい。

 というわけで、人を見つけるため森を出る方法をAIに聞いてみることにした。水と食料の実績もあることだし。

──────────────────────
《質問》
私は見知らぬ森にいます。森から早く出る方法を知りたいです。なお通信手段はありません。
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《回答》
見知らぬ森にいる場合、以下の手順を実行することができます。

1.落ち着いて、周囲を探索してください。道や道標があるかもしれません。

2.太陽や星など、天体観測をして方位を特定してください。南側に流れる川や傾斜がある場合は、それらを利用して方向を決定することもできます。

3.進む方向を決めたら、その方向に向かって進んでください。もし進む途中で迷子になった場合は、足跡をたどって戻ることができます。

4.周囲の音や匂い、植物の生育状況などから、人の居住地や道路に近づいたことがわかるかもしれません。

5.最悪の場合、高い場所に登って周囲を見渡し、救助を待つこともできます。

以上の方法で、見知らぬ森から脱出することができるかもしれません。しかし、もし危険な状況に遭遇した場合は、冷静に対処し、危険を避けるために行動してください。
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 この至れり尽くせりな回答が表示されるまで、ほんの数秒。凄い。
 もうシンギュラリティは目前に迫っているんだよね。

 それじゃあ早速AIを参考にして……まず第一に落ち着くことか。
 たしかに落ち着きは大事だ、深呼吸をして一拍おこう。

「すぅー……はぁー……よし、落ち着いた。そして第二に周囲に道や道標がないかをあらためて確かめる、と」

 落ち着いて辺りを再び観察するが、やはり道や道標はない。
 となればその次にAIが勧めていることは、方位を特定してくださいか。

 空を見上げると太陽が右手側に見えている。
 同じところをぐるぐるまわって迷わないように、常に太陽が右手方向にくるように進むことにした。

 この貴重な水場を離れて探索を続けよう。
 定期的に木の幹にマーキングして、どこから来たかがわかるようにしておく。AIも迷ったら足跡をたどれって言ってたしね。しかし足跡は雨風で消えやすいから、二重に対策しておけばより安全だろうという計算だ。
 そしてその時はついでに太陽の位置を確認して向きを修正して、まっすぐに歩く。時間と共に太陽の方角が変わることには一応注意をしておく。

 そんな風にして人の痕跡を探していると……お、これは!

 雑草に隠れるように一本の矢が落ちていた。
 これはつまり、誰かがここで狩りをしたってことを意味しているわけで、人跡未踏の奥深い森に俺がいるわけではないってことだ。

 そして同時にこの異世界は銃ではなく弓矢を用いて狩りをする文明だということもわかった。そしてスキルという不思議な力があるということは……魔術やスキルを利用する中世~近世程度の文明の異世界に違いない!

 色々とわかりモチベが上がってくる。
 俺は足を早めて森の中をさらに進んで行く。
 そしてしばらく早足で歩いた後――。

「道が開けた! 森の終わりだ!」

 ついに木々が生い茂る森を出て、開けた場所に来ることに成功したのだ。
 そこは平原であり、轍のあとが残る街道まで見えるではないか。

 道があるってことはもう安心。ここを辿れば町や村に確実にたどり着く。

「っていうか、町がそもそも見えてるじゃないか。これは勝ったな」

 俺が進んで来た向きから左手の方向に、小さな建物が建ち並んでいる様子が見えた。風車や畑らしきものも見える。間違いなく町だ。

 無事生存の第一段階はクリアした、これも【スキル:AIチャット】のたまものだ。
 俺は急いで町へと向かった。
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