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氷売りの魔術師

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 かき氷を作ることを思いついたのは、森を出ると決めた時にAIに質問したことからだった。 

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《質問》
私は中世ヨーロッパ程度の文明で魔術が実在するファンタジー世界の町ににいます。今は暑い季節です。氷魔術を使ってお金を稼ぎたいと思っていますが、どのような方法が効率的だと考えられるでしょうか。
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《回答》
中世ヨーロッパのファンタジー世界で氷魔術を使ってお金を稼ぐ方法にはいくつかのアイデアがあります。以下にいくつかの提案をご紹介します。

1.氷を作って販売する:暑い季節であるため、市場で販売するための氷が必要とされるかもしれません。氷魔術を使って、大量の氷を生産し、それを市場で販売することができます。

2.氷の彫刻を作る:氷魔術を使って、美しい氷の彫刻を作成することができます。これらの彫刻は、イベントや祭りの装飾品として使われるか、または豪華な宴会やパーティーで使用されるかもしれません。

3.氷の建物を作る:氷魔術を使って、氷で作られた建物を建設することができます。これらの建物は、特別な場所やイベントにおいて注目を集めるか、または冷涼な場所として利用されるかもしれません。

4.氷の武器を作る:氷魔術を使って、氷の刃や槍などの武器を作成することができます。これらの武器は、戦争や闘技場で使われるかもしれません。

以上のアイデアは、氷魔術を使ってお金を稼ぐためのいくつかの方法です。あなたの魔術の能力と市場の需要に合わせて、最も効率的な方法を選んでください。
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 以前質問した時、気候によって変わるという返答があったので、今は暑い季節だと質問にいれたのだが――長いこと修行している間に夏の気候になっていた――そうしたら1、のように氷を売るといいと言っていた。
 それを見ていい案だと思ったが、ただ氷を売るよりもかき氷にして売ったらなおよいのではないかと思いついたのだ。

 何事もそのものを売るより加工して売る方が利益が出るというものである。それにかき氷はおいしいしね。
 この世界では氷は簡単に作れない。ということは、庶民が氷を普段使いしないってことだ。だったら氷を一般人に売ろうとしても使い道がないのであまり売れないのではないかと思ったのもある。

 その点かき氷なら暑いときに食べて美味しいと単純明快だからな、こっちの方がきっといい。リンの反応もよかったし、この世界の人の口にもあうはずだ。

「よし、この広場でいいかな」

 やってきたのはシトリニスの中心にある中央広場。
 ここでは布を広げて、個人個人が思い思いのものを売っているマーケットが開かれている。俺もここに軒を連ねることにしよう、軒はないけど。

 手作りの道具や、家庭菜園で採れた野菜や、もうサイズ的に着れなくなった子供用の服など、色々な人が色々なものを売っている中に並んで、俺も布をしき大きなボウルに魔術でもっと大きな氷をはみ出るくらいに入れて準備完了。

 するとすぐに、興味を持った若い男が一番に声をかけてきた。

「氷なんて珍しいな。それを売ってるのか?」
「氷は氷でもかき氷だよ、冷たくて甘い食べ物。この氷を食べやすく加工するんだ。この広場で食べるならこの容器の中に作るし、あ、容器は返してね。器を持ってくればそれにいれてあげるから家でも食べれるよ」
「かき氷……聞いたことないな」
「作り方は簡単! まずは氷を削って~! 甘いシロップをかけて~!」

 とまわりに聞こえるように大きい声を出しながら、氷球を空中でふわふわと回転させながら削って、魔術でかき氷を作るのを実演してみせる。
 派手にすれば、他の人達の好奇心もあおれるという寸法よ。

 俺の思惑通り、宙を舞う氷の球とそれが削れて器の中に入り、かき氷が山となっていく様子に、広場を歩いていた人達が集まってきた。
 そこに赤いベリーのシロップをかければ見た目も映えるかき氷の完成。
 
「はい完成! ほらほらほらほら誰か食べてみようって人はいないか!?」
「私! 食べてみたい!」

 と手を上げたのは二人で買い物をしていた女性。
 ショートカットの女性の方がチャレンジしてくれた、俺は出来上がったかき氷を女性に渡す。

 女性はそっと氷を掬い口の中に入れ――その様子を集まった観客が見守り――。

「え? すごいおいしい! こんなの食べたことない!」

 とさらにパクパクと口に運んでいく。
 一緒に来ていた女性も「一口ちょうだい!」ともらうやいなや、自分も注文する。

「ありがとうございます! ちょっとお待ちを!」

 注文を受けた俺は氷魔術を使用し空中に氷球を創り出し、再び削ってかき氷を作っていく。そして完成したものを渡すと、その女性も夢中で食べていった。

 もうそうなったら後はその二人の様子が最高の広告である。
 すごい美味しいと言ってるからには周りの人も食べざるを得ない。俺は次々と注文を受けてかき氷を作っていった。

 途中用意した器が尽きてしまったので無理だと伝えられた男性は、家にダッシュで帰って自宅から容器を持ってくるほどだ。

「マジでうまい! 暑い時にこれって最高にきくなあ!」
「あんたすごいな、この田舎でこんな見たことない珍しいもんが食えるなんてありがてぇ、ありがてぇ」
「明日もまた食べるね! よろしく氷屋さん!」

 そして、俺の作ったかき氷を食べ終えた人は俺に弾む声をかけてくれる。

「これくらいいつでも作るよ。こっちこそよろしく!」

 その笑顔を見ると……これはなかなか良い気分だな。お客さんと対面する仕事は始めてだけど、なかなかいいものだ。



 やはり、冷凍庫のない世界で氷菓子っていうのは最高の贅沢だった。俺の見立てもAIくんの見立ても間違ってなかった。
 お客さんはその後も途絶えることなくやってきた。だがそんなにたくさん客が来ても、森籠もりの修行で増えに増えた俺のMPはそう簡単に尽きることはない。
 
 結局俺はその日一日中、かき氷を売りまくったのだった。

 最終売上は3万ガルトなり。元手は俺の魔力=ただであるので、丸儲けもいいところだ。
 宿代が食事込みで一日5000ガルトもあれば泊まれるので、もう余裕も余裕である。屋根のある場所で久しぶりに眠れる! なんて素晴らしいんだろう。

 俺はかつて泊まっていた宿に久しぶりに泊まり、あの頃寝ていたベッドに横たわった。

「ああー……柔らかい……素晴らしい……ベッド……土とは違う」

 森から屋根の下にランクアップした今日は最高の寝付きが期待できそうだ。
 俺はベッドの柔らかさを確かめるようにゴロゴロ転がりながら、至福の睡眠を味わうのだった。
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