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第720話 九条、クリスに感謝する
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ファフナーを呼び寄せ、超特急でエクアレイスに飛ぶと、クリスは王宮で茶を嗜んでいた。
隣にはリリーと二人の騎士。グラハムとヒルバークは呆れた表情を浮かべている。
「えーっと……一体何が……」
急に王宮の応接室に飛び込んできた俺に、クリスは終始緊張気味で小刻みに震え、その原因かは不明だがリリーの機嫌はよくなさそう。
一体どうすれば、こんな状況に陥るのか……。
クリスが王都にいるという事は、帰還水晶を使ったと見て間違いない。そこまでは想定の範囲内だが、何故コット村へと帰還せず悠長にお茶など啜っているのか……。
「九条。そこに座りなさい」
リリーの声色に混じっているのは明らかな怒気。
それに逆らっても仕方がないので、素直に椅子へと腰を下ろす。
「では、報告をお願いします」
それが一番困るのだ。どこまでを話すべきか……。いや、クリスはどこまでの事をリリーに話してしまったのか……。
リリーには、オーガたちの事を話していない。
仮に今回の件がギルドにバレてしまったとしても、俺が独断で動いたことにすれば、リリーへの責任追及は免れるだろうと思ってのことなのだが……。
ここはひとまず当たり障りないところで……。
「リブレス連合国の魔導船は我が国の手を離れ、滞りなくサザンゲイア王国へと引き渡されました。つきましてはザルマン陛下より親書をお預かりしております。以降、魔導船は二国間によって協議された輸送手段を用い、リブレスへと送り出される予定です」
「……それについては、ご苦労でした。感謝いたします。……それで? 他に言う事はありませんか?」
「えーっと……。トゥームレイズに滞在中、地下都市の一角で崩落事故がありまして……。ザルマン陛下から直々に救援要請を受け、尽力していたため、帰還が遅れてしまい……」
「確かにその噂は聞き及んでいます。九条の働きにより、サザンゲイア王国との間に新たな信頼が芽生えたことでしょう。……それで? 他に言う事はありませんか?」
「えぇ……」
絶対に、知っていて聞いている。しかし、リリーの顔は真剣そのもの。「知ってるなら言ってくださいよぉ~」なんて、冗談でもそう言い出せない雰囲気を醸し出している。
「ガストンさんも魔導船と一緒に……」
「それは最初に言ったのと同じですね? 他には?」
「……特になにも……」
「そんなことないでしょう? クリスがここにいるんですよ?」
やっぱり知ってるやんけ! ……と、心の中で叫びながらも両手を上げて降参だ。
「仕方なかったんですよ。ギルドと敵対する訳にはいかないでしょう?」
そう言う俺に、リリーは小さな溜息を一つ。
「まあ、最初から知ってたんですけどね」
「……は?」
いきなり何を言い出すのかと唖然とする俺に、リリーは耐えていた笑いを解放するかのように吹き出した。
それまで張り詰めていた空気が緩み、応接室を包んでいた重苦しい緊張が一気に和らぐ。
「大丈夫ですよ九条。別に怒ってなんていませんから」
それからリリーは、俺がサザンゲイアへと発った後のことを得意気に教えてくれた。
アシュラ制作のため、俺だけが先に出発。その後、エルザが全てをリリーにゲロったらしい。
「コット村の入口に、あんな大きな穴が出来ていたら気になって当然。そうは思いませんか?」
言われてみれば、確かにそう。今更ではあるが、ちゃんとした言い訳を用意しておくべきだった。
オーガたちを撃退するために使用した落とし穴のことだ。それが何なのかを聞き出すため、エルザをガッツリ問い詰めたらしい。
そりゃ女王陛下に食い下がられたら、隠し事は難しいかもしれないが、それでいいのかネクロガルド……。
「王都で急にオーガの目撃情報が発生したんですよ? それでピンときたんです」
それにグラハムとヒルバークの部隊を派遣し、クリスたちを保護。事情を聞いたとのことのようだ。
「安心してください。アミーとアシュラを乗せた馬車は、今頃コット村へと辿り着いているはずですから」
「そうですか……」
それを聞いてホッと一安心……。と、安堵したのも束の間、リリーとの会話があまりにも自然過ぎて、聞き流してしまうところであったが、そうじゃない。
「いや、ちょっと待って下さい。王都にオーガが出たんですか!?」
「ええ。ですから保護を……」
「ギルドからオーガを引き取ったんですか!?」
「いえ、引き取ったという言い方をするなら、ネクロガルドから……」
「……え? どゆこと……です……か?」
王都にクリスがいるということは、帰還水晶を使ったはず。その出口はギルド本部。
クリスとアシュラだけならまだしも、オーガを引き連れての帰還は無謀以外のなにものでもない。
考えられるとすれば、ギルド本部に潜入しているネクロガルドの工作員が手を回した可能性だが、果たしてそんなことができるだろうか……。
そんな状況を見かねたのか、隣で小さくなっていたクリスが控えめに手を上げた。
「女王陛下。発言の許可を頂けると……」
「ええ、構いません。どうぞお話しください」
「えーっと、女王陛下と領主様の会話が噛み合わないのは、私が原因なのかなって……。多分、私の行動が想定外だったから……」
その口から語られたのは、俺たちと別れ、アミーとオーガたちを救うためにやってきたこと。
最初こそ順調であったが、徐々に歯車が狂い始め、最後は最早疑わしい噛み合い方で難を逃れていた。
にわかには信じがたい話だったが、クリスが今ここにいる現状を鑑みるに、嘘ではないのだろう。
「そうか……。大変だったろうが、がんばったんだな……」
俺からの感謝の言葉に、安堵の表情を見せるクリス。その顔つきは、どこか以前とは違っていた。
迷いが抜け落ち、決意の色を帯びた瞳。まるで人として、一皮むけたかのような――そんな凛とした強さが宿っていた。
完全成功には及ばないと思っていたが、その顔を見れば納得もできる。クリスの機転と執念が、その先入観を覆した。
あらゆる不確定を努力と多少の運でねじ伏せ、クリスのわずかなひらめきから導かれたこの結果は、十分称賛に値する。
「おかげで多くの者が救われた。――ありがとう」
隣にはリリーと二人の騎士。グラハムとヒルバークは呆れた表情を浮かべている。
「えーっと……一体何が……」
急に王宮の応接室に飛び込んできた俺に、クリスは終始緊張気味で小刻みに震え、その原因かは不明だがリリーの機嫌はよくなさそう。
一体どうすれば、こんな状況に陥るのか……。
クリスが王都にいるという事は、帰還水晶を使ったと見て間違いない。そこまでは想定の範囲内だが、何故コット村へと帰還せず悠長にお茶など啜っているのか……。
「九条。そこに座りなさい」
リリーの声色に混じっているのは明らかな怒気。
それに逆らっても仕方がないので、素直に椅子へと腰を下ろす。
「では、報告をお願いします」
それが一番困るのだ。どこまでを話すべきか……。いや、クリスはどこまでの事をリリーに話してしまったのか……。
リリーには、オーガたちの事を話していない。
仮に今回の件がギルドにバレてしまったとしても、俺が独断で動いたことにすれば、リリーへの責任追及は免れるだろうと思ってのことなのだが……。
ここはひとまず当たり障りないところで……。
「リブレス連合国の魔導船は我が国の手を離れ、滞りなくサザンゲイア王国へと引き渡されました。つきましてはザルマン陛下より親書をお預かりしております。以降、魔導船は二国間によって協議された輸送手段を用い、リブレスへと送り出される予定です」
「……それについては、ご苦労でした。感謝いたします。……それで? 他に言う事はありませんか?」
「えーっと……。トゥームレイズに滞在中、地下都市の一角で崩落事故がありまして……。ザルマン陛下から直々に救援要請を受け、尽力していたため、帰還が遅れてしまい……」
「確かにその噂は聞き及んでいます。九条の働きにより、サザンゲイア王国との間に新たな信頼が芽生えたことでしょう。……それで? 他に言う事はありませんか?」
「えぇ……」
絶対に、知っていて聞いている。しかし、リリーの顔は真剣そのもの。「知ってるなら言ってくださいよぉ~」なんて、冗談でもそう言い出せない雰囲気を醸し出している。
「ガストンさんも魔導船と一緒に……」
「それは最初に言ったのと同じですね? 他には?」
「……特になにも……」
「そんなことないでしょう? クリスがここにいるんですよ?」
やっぱり知ってるやんけ! ……と、心の中で叫びながらも両手を上げて降参だ。
「仕方なかったんですよ。ギルドと敵対する訳にはいかないでしょう?」
そう言う俺に、リリーは小さな溜息を一つ。
「まあ、最初から知ってたんですけどね」
「……は?」
いきなり何を言い出すのかと唖然とする俺に、リリーは耐えていた笑いを解放するかのように吹き出した。
それまで張り詰めていた空気が緩み、応接室を包んでいた重苦しい緊張が一気に和らぐ。
「大丈夫ですよ九条。別に怒ってなんていませんから」
それからリリーは、俺がサザンゲイアへと発った後のことを得意気に教えてくれた。
アシュラ制作のため、俺だけが先に出発。その後、エルザが全てをリリーにゲロったらしい。
「コット村の入口に、あんな大きな穴が出来ていたら気になって当然。そうは思いませんか?」
言われてみれば、確かにそう。今更ではあるが、ちゃんとした言い訳を用意しておくべきだった。
オーガたちを撃退するために使用した落とし穴のことだ。それが何なのかを聞き出すため、エルザをガッツリ問い詰めたらしい。
そりゃ女王陛下に食い下がられたら、隠し事は難しいかもしれないが、それでいいのかネクロガルド……。
「王都で急にオーガの目撃情報が発生したんですよ? それでピンときたんです」
それにグラハムとヒルバークの部隊を派遣し、クリスたちを保護。事情を聞いたとのことのようだ。
「安心してください。アミーとアシュラを乗せた馬車は、今頃コット村へと辿り着いているはずですから」
「そうですか……」
それを聞いてホッと一安心……。と、安堵したのも束の間、リリーとの会話があまりにも自然過ぎて、聞き流してしまうところであったが、そうじゃない。
「いや、ちょっと待って下さい。王都にオーガが出たんですか!?」
「ええ。ですから保護を……」
「ギルドからオーガを引き取ったんですか!?」
「いえ、引き取ったという言い方をするなら、ネクロガルドから……」
「……え? どゆこと……です……か?」
王都にクリスがいるということは、帰還水晶を使ったはず。その出口はギルド本部。
クリスとアシュラだけならまだしも、オーガを引き連れての帰還は無謀以外のなにものでもない。
考えられるとすれば、ギルド本部に潜入しているネクロガルドの工作員が手を回した可能性だが、果たしてそんなことができるだろうか……。
そんな状況を見かねたのか、隣で小さくなっていたクリスが控えめに手を上げた。
「女王陛下。発言の許可を頂けると……」
「ええ、構いません。どうぞお話しください」
「えーっと、女王陛下と領主様の会話が噛み合わないのは、私が原因なのかなって……。多分、私の行動が想定外だったから……」
その口から語られたのは、俺たちと別れ、アミーとオーガたちを救うためにやってきたこと。
最初こそ順調であったが、徐々に歯車が狂い始め、最後は最早疑わしい噛み合い方で難を逃れていた。
にわかには信じがたい話だったが、クリスが今ここにいる現状を鑑みるに、嘘ではないのだろう。
「そうか……。大変だったろうが、がんばったんだな……」
俺からの感謝の言葉に、安堵の表情を見せるクリス。その顔つきは、どこか以前とは違っていた。
迷いが抜け落ち、決意の色を帯びた瞳。まるで人として、一皮むけたかのような――そんな凛とした強さが宿っていた。
完全成功には及ばないと思っていたが、その顔を見れば納得もできる。クリスの機転と執念が、その先入観を覆した。
あらゆる不確定を努力と多少の運でねじ伏せ、クリスのわずかなひらめきから導かれたこの結果は、十分称賛に値する。
「おかげで多くの者が救われた。――ありがとう」
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