生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
317 / 715

第317話 アニタ失踪

しおりを挟む
「九条殿! 起きてくれ! 大変なことになった!」

 コクセイの声で目が覚める。辺りはうっすらと霞がかった早朝。天幕の中に顔だけを突っ込みコクセイが俺の頭をガツガツと小突く。

「どうした?」

「すまぬ! アニタ殿がどこかへ行ってしまった!」

「――ッ!?」

 焦った様子ではあるが、声を押さえているのはジョゼフを起こさないようにだろう。急ぎ天幕を出ると、火の消えたトーチが置かれていただけ。その炎は消えてからしばらく経っている。朝露で湿っているのがわかるほどだ。
 それとほぼ同時に別の天幕から顔を出したのはシャーリー。

「あれ……朝になってる……。見張りの交替は?」

「アニタがどっか行った……」

「ふーん…………はぁ!?」

 眠そうだったシャーリーの目が一気に見開き、素っ頓狂な声を上げる。俺も一緒になって「はぁ!?」と言いたいが、それどころではない。

「コクセイ。匂いは辿れないのか?」

「無理だ……。既に消えかけている……。恐らく途中までしか追えないだろう」

「そもそも、どうして気付かなかった」

「わからぬ……。アニタ殿の杖が目の前で光ったかと思ったら、気付けば朝に……。……不覚だ……すまぬ……」

「いや、コクセイの所為じゃない。気にするな……」

 恐らくは、魔法で眠らされたのだろう。それよりもこれからの事である。幸いにも何かを盗まれた形跡はなく、御者とジョゼフはまだ寝ている。
 リブレス内での問題はパーティ全体の責任だ。何としても見つけなければならないが、ジョゼフが起きる2時間の間に見つけられるかと問われれば、絶望的だと言っていい。

「どっちに行ったかわかるか?」

「恐らくだが北だ。サザンゲイア方面。フェルヴェフルールの方からは匂いはしない」

「そうか……」

 そのままこっそり国境を越えてくれれば、最悪の事態は免れる。だが、アニタのことだ。マナポーションを求めてリブレス内の全てのギルド支部を徘徊する……なんてことも考えられる。

「……ジョセフさんを殺すか……」

「ちょっと九条!?」

「冗談だよ……」

 もちろんそんなことはしないが、口止めはしなければならないだろう。ジョゼフさえ何とかすれば、時間は稼げる。
 ぶっちゃけてしまえば、仕事なんて放棄して逃げてしまえばいいのだが、尾行しているイーミアルがどう出て来るかにかかっている。

「素直に話すしかないか……。騒ぐようならカネを握らせて黙らせよう」

「九条らしい考え方……って言いたいけど、それ以外に方法がないのも確かよね……」

 カネは全てを解決する。簡単な話だ。ちょっと話を合わせてくれればいいのだ。アニタは体調が悪くて別の街で休んでいると……。
 そうすれば、冒険者の付き添いなんかとは比べ物にならない程の報酬が手に入る。ジョゼフと御者は王宮とは関係のない第3者機関の者。恐らくは受け取るだろう。
 最悪従魔達を使って脅せばいい。後は、彼等が俺のような性格ではないことを祈るばかりだ。


「おはようございます皆様。昨日は良く眠れましたか?」

 ジョゼフが起きて来ると、爽やかな挨拶を交わす。俺もシャーリーもミアもシャロンも、その笑顔は何処となくぎこちない。

「おはようございます。ジョゼフさん」

「では、野営撤収の準備を……。おや? アニタ様はまだおやすみになられてますでしょうか? 見当たらないのですが……」

 何気なくジョゼフの後ろに回り込む従魔達。準備は万端である。

「撤収の前に少しお話があるんですよ。ジョゼフさん」

 俺はジョゼフに手を回し、肩を組む。少々前かがみになったジョゼフの困惑した様子は、これから聞くであろう衝撃の事実なぞ知る由もないといった表情。
 ジョゼフを笑顔で取り囲む仲間達は、正直言って怖すぎる。

「実は、アニタが失踪しましてね……。あぁ! 言わなくてもわかります。悪いのはこちらだ。それは重々承知していますとも。どんな罰でも受けましょう。だが、ジョゼフさん。考えてもみてください。それは同時に監督していたあなたの責任も問われるんじゃないですか? もちろん、俺達はジョゼフさんのことを全力で庇いますとも。ジョゼフさんは何も悪くはないのだと。……ですが、エルフではない俺達の意見なんかを聞いて貰えるのかが心配で……。……そこでいい解決法を思いついたんですよ! ジョゼフさんはお金に困っていたりしませんか? いや、結構。困っていなくともあって困ることはない。そうでしょう? カネは天下の回りものだ……」

 怪しい宗教団体の勧誘かとも思えるほどの早口で、まくし立てた。
 そんな俺を、もの言いたげな目で見ていた仲間達の考えていることなぞ、手に取るようにわかるのだ。どうせまた悪人みたいだと言われるのがオチである。もちろん自覚はある。
 ジョゼフの返答次第では土下座も辞さないと考えていた。……いたのだが、ジョゼフは慌てる様子もなくケロリとしていたのだ。

「そうですか……。アニタさんが……。それは大変ですね。でも大丈夫ですよ? この事は報告しないでおきますから」

 買収されるか、断固拒否するかの2択だと思っていたのだが、予想に反した答えが返ってきてしまい、空いた口が塞がらなかった。
 それが信じられず、シャーリーが逆に聞き返してしまったほど。

「え? 私達の監視なんでしょ? そんなことして大丈夫なの?」

「ええ。立場上はそうなりますが、まぁ大丈夫でしょう。ご報告したいのであれば、私は止めませんが……?」

「いやいや。目を瞑ってくれるのならありがたい」

 チラリと送った視線に気付いたカガリは、首を横に振った。ならばジョゼフは嘘をついていない。俺達の監視として送り込まれていることをわかっていて報告をしないつもりなのだ。
 それが何故なのかはわからない。だが、それを根掘り葉掘り聞くわけにはいかなかった。ひとまずはジョゼフのおかげで危機は脱したのだから。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

迷宮アドバイザーと歩む現代ダンジョン探索記~ブラック会社を辞めた俺だが可愛い後輩や美人元上司と共にハクスラに勤しんでます

秋月静流
ファンタジー
俺、臥龍臼汰(27歳・独身)はある日自宅の裏山に突如できた洞窟を見つける。 語り掛けてきたアドバイザーとやらが言うにはそこは何とダンジョン!? で、探索の報酬としてどんな望みも叶えてくれるらしい。 ならば俺の願いは決まっている。 よくある強力無比なスキルや魔法? 使い切れぬ莫大な財産? 否! 俺が望んだのは「君の様なアドバイザーにず~~~~~っとサポートして欲しい!」という願望。 万全なサポートを受けながらダンジョン探索にのめり込む日々だったのだが…何故か元居た会社の後輩や上司が訪ねて来て… チート風味の現代ダンジョン探索記。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...