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第473話 最後のお仕事
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「どぉかな? ファフナー?」
「流石は我が巫女。よく似合っている」
王宮の迎賓館。部屋の窓から覗いているのは、縦に細長い瞳孔を持つコバルトブルーの巨大な瞳。
「人間のファッションなんか、わかるのか?」
そんなやりとりに、ボソリと小さくツッコミを入れたのは、他人のベッドに勝手に寝転がっている俺である。
その姿は、さながら釈迦涅槃像といったところか。隣には、同じ体勢のミアも健在だ。
キャロは俺がデザインした巫女服に身を包み、満面の笑顔をファフナーへと向けていた。
ベヒモスの襲撃があった日。祖霊還御大祭の最終日から一週間の時が過ぎた。
あれだけのことがあったのだ。最終日の目玉である獣従王選手権は中止を余儀なくされ、街中が大騒ぎとなっていた。
ネヴィアとその他八氏族評議会の面々は、その火消し作業に大慌て。
俺達は、ほとぼりが冷めるまで王宮の迎賓館に閉じ込められているといった状態であった。
その間、ベヒモスが眠っていたであろうスノーホワイトファーム所有の鉱山にて捜索隊、及びスノーホワイトファーム職員たちが発見され、帰還を果たしていた。
殆どの者が外傷もなく無事ではあったが、全員の意識が朦朧としていて、要領を得ない解答ばかりを繰り返す廃人のような状態に陥っていたのだ。
恐らくは魔眼の影響だろう。その治療にはエルザが責任を持つとのことで、ひとまずはネクプラにて療養中である。
俺はというと、やることもないのでファフナーからベヒモスに関する昔話などを聞いて過ごしていた。
ファフニール、レグルス、ウロボロスの、三大厄災と呼ばれる魔獣たちの枠組みからあぶれた4番目の魔獣。それがベヒモスなのだそう。
四大厄災として数えられなかった理由は至って単純。目立った闘争を起こさなかった事に起因しているようだ。
ベヒモスは、対立した者達を魔眼で支配してきた。故にガチンコで戦った事は少なく、実力は未知数。それは、魔眼の効かぬ相手には手を出さない慎重派――ということでもある。
故に、三大厄災とは対立しないよう避け続けてきたのだ。
魔王が三大厄災を滅したことによって、ようやく表舞台へと出て来た――という事らしい。
「なんで、今更復活したんだ?」
「さぁな。我の復活に、少なからず影響を受けたのではないか?」
話す事がなかっただけで、別に気になるわけじゃない。脅威は去った。今更理由なぞどうだっていい。
死霊術師なのだ。どうしても知りたければ、魂から直接聞くだけ。
もちろん面倒なので、そんなことに労力を割くつもりはないのだが……。
「そろそろ、時間だな」
太陽が最も高くなる時間。ノックと共に部屋の扉が開かれると、そこへ立っていたのは俺達のお世話係りでもあるローゼスだ。
「お迎えに上がりました、キャロ様」
恭しく頭を下げるローゼスに、何故か顔を強張らせ緊張の色を見せ始めたキャロ。
「じゃ……じゃぁ、また後でね。ファフナー……」
「うむ」
「キャロちゃん! カンペ忘れてるよ!」
それに気付いたミアはベッドから飛び降り、テーブルに置かれていた1枚の紙をキャロへと差し出した。
「あ……ありがとうミアちゃん……」
不安そうなミアに向けたキャロの笑顔は、どう見てもぎこちない。
受け取ったカンペをクシャっと握り潰したキャロは、ローゼスを見上げ小さな声を発した。
「ごめんなさい、ローゼスさん。少しだけ部屋の外で待っててもらえますか?」
ほんの少しだけ眉間にシワを寄せたローゼスであったが、すぐにそれを聞き入れる。
「畏まりました。では5分程、席を外させていただきます」
そう言ってローゼスが部屋を出て行くと、キャロは俺の元へと駆け寄った。
「……九条にぃにぃ……。やっぱり前みたいに、お体交換しよう?」
助けを求めるかのような震えた声に、ほんのり乗せた甘い誘惑。
今のキャロは見た目通りの儚い少女。ベヒモス相手に啖呵を切るほどの勇敢なキャロは何処へやらだ。
そんなキャロに絆されそうになるものの、ここはグッと我慢である。
「キャロ……。自分で選択した未来だろう。助けてやってもいいが、俺がいなくなったらどうするんだ?」
涙目のキャロを、断腸の思いで突き放す。
「俺達はいずれコット村へと帰るんだぞ? 今度は俺の代わりにメリルになんでも頼るのか? キャロはもっと強い子だと思ったが、どうやらルイーダの勘違いだったようだな……」
母親の名を出す事に少々の抵抗はあったが、これもキャロの為である。
「――ッ!?」
キャロはそれを聞き、ハッとした。
今にもとろけそうな目元をキッと吊り上げ、巫女装束の袖でゴシゴシと顔を擦る。
「私、がんばる! ママが見守ってくれるもん!」
キャロは、くしゃくしゃになってしまったカンペを綺麗に畳んで帯に仕舞うと、先程とは違う凛々しい顔つきで部屋を飛び出していった。
「……泣かれたらどうしようかと思ったが、どうにかなったな……」
ため息をつき、安堵する。
出来ないことなら手を貸そう。しかし、やる前から出来ないと決めつけるのは、臆病なだけ。
今回の場合、たとえキャロが失敗したとしても、取り返しのつかない事態へと発展することにはならないはず。
今後、キャロは人の前に立つことも覚えなければならない。ならば、何事も経験である。
そもそも、最初からなんでも出来る完璧な者なぞいないのだ。キャロのような年端もいかぬ子供なら、尚更である。
「俺達も、そろそろ行こう」
差し伸べた手が小さな手に握られると、そこへ便乗してきたのは2つの肉球の感触。
「もちろん、お前達もだ」
仲間外れになぞしない。ミアにカガリにワダツミ。皆から向けられた笑顔に頷いて見せると、俺達は最後の仕事に向かって歩き出した。
「流石は我が巫女。よく似合っている」
王宮の迎賓館。部屋の窓から覗いているのは、縦に細長い瞳孔を持つコバルトブルーの巨大な瞳。
「人間のファッションなんか、わかるのか?」
そんなやりとりに、ボソリと小さくツッコミを入れたのは、他人のベッドに勝手に寝転がっている俺である。
その姿は、さながら釈迦涅槃像といったところか。隣には、同じ体勢のミアも健在だ。
キャロは俺がデザインした巫女服に身を包み、満面の笑顔をファフナーへと向けていた。
ベヒモスの襲撃があった日。祖霊還御大祭の最終日から一週間の時が過ぎた。
あれだけのことがあったのだ。最終日の目玉である獣従王選手権は中止を余儀なくされ、街中が大騒ぎとなっていた。
ネヴィアとその他八氏族評議会の面々は、その火消し作業に大慌て。
俺達は、ほとぼりが冷めるまで王宮の迎賓館に閉じ込められているといった状態であった。
その間、ベヒモスが眠っていたであろうスノーホワイトファーム所有の鉱山にて捜索隊、及びスノーホワイトファーム職員たちが発見され、帰還を果たしていた。
殆どの者が外傷もなく無事ではあったが、全員の意識が朦朧としていて、要領を得ない解答ばかりを繰り返す廃人のような状態に陥っていたのだ。
恐らくは魔眼の影響だろう。その治療にはエルザが責任を持つとのことで、ひとまずはネクプラにて療養中である。
俺はというと、やることもないのでファフナーからベヒモスに関する昔話などを聞いて過ごしていた。
ファフニール、レグルス、ウロボロスの、三大厄災と呼ばれる魔獣たちの枠組みからあぶれた4番目の魔獣。それがベヒモスなのだそう。
四大厄災として数えられなかった理由は至って単純。目立った闘争を起こさなかった事に起因しているようだ。
ベヒモスは、対立した者達を魔眼で支配してきた。故にガチンコで戦った事は少なく、実力は未知数。それは、魔眼の効かぬ相手には手を出さない慎重派――ということでもある。
故に、三大厄災とは対立しないよう避け続けてきたのだ。
魔王が三大厄災を滅したことによって、ようやく表舞台へと出て来た――という事らしい。
「なんで、今更復活したんだ?」
「さぁな。我の復活に、少なからず影響を受けたのではないか?」
話す事がなかっただけで、別に気になるわけじゃない。脅威は去った。今更理由なぞどうだっていい。
死霊術師なのだ。どうしても知りたければ、魂から直接聞くだけ。
もちろん面倒なので、そんなことに労力を割くつもりはないのだが……。
「そろそろ、時間だな」
太陽が最も高くなる時間。ノックと共に部屋の扉が開かれると、そこへ立っていたのは俺達のお世話係りでもあるローゼスだ。
「お迎えに上がりました、キャロ様」
恭しく頭を下げるローゼスに、何故か顔を強張らせ緊張の色を見せ始めたキャロ。
「じゃ……じゃぁ、また後でね。ファフナー……」
「うむ」
「キャロちゃん! カンペ忘れてるよ!」
それに気付いたミアはベッドから飛び降り、テーブルに置かれていた1枚の紙をキャロへと差し出した。
「あ……ありがとうミアちゃん……」
不安そうなミアに向けたキャロの笑顔は、どう見てもぎこちない。
受け取ったカンペをクシャっと握り潰したキャロは、ローゼスを見上げ小さな声を発した。
「ごめんなさい、ローゼスさん。少しだけ部屋の外で待っててもらえますか?」
ほんの少しだけ眉間にシワを寄せたローゼスであったが、すぐにそれを聞き入れる。
「畏まりました。では5分程、席を外させていただきます」
そう言ってローゼスが部屋を出て行くと、キャロは俺の元へと駆け寄った。
「……九条にぃにぃ……。やっぱり前みたいに、お体交換しよう?」
助けを求めるかのような震えた声に、ほんのり乗せた甘い誘惑。
今のキャロは見た目通りの儚い少女。ベヒモス相手に啖呵を切るほどの勇敢なキャロは何処へやらだ。
そんなキャロに絆されそうになるものの、ここはグッと我慢である。
「キャロ……。自分で選択した未来だろう。助けてやってもいいが、俺がいなくなったらどうするんだ?」
涙目のキャロを、断腸の思いで突き放す。
「俺達はいずれコット村へと帰るんだぞ? 今度は俺の代わりにメリルになんでも頼るのか? キャロはもっと強い子だと思ったが、どうやらルイーダの勘違いだったようだな……」
母親の名を出す事に少々の抵抗はあったが、これもキャロの為である。
「――ッ!?」
キャロはそれを聞き、ハッとした。
今にもとろけそうな目元をキッと吊り上げ、巫女装束の袖でゴシゴシと顔を擦る。
「私、がんばる! ママが見守ってくれるもん!」
キャロは、くしゃくしゃになってしまったカンペを綺麗に畳んで帯に仕舞うと、先程とは違う凛々しい顔つきで部屋を飛び出していった。
「……泣かれたらどうしようかと思ったが、どうにかなったな……」
ため息をつき、安堵する。
出来ないことなら手を貸そう。しかし、やる前から出来ないと決めつけるのは、臆病なだけ。
今回の場合、たとえキャロが失敗したとしても、取り返しのつかない事態へと発展することにはならないはず。
今後、キャロは人の前に立つことも覚えなければならない。ならば、何事も経験である。
そもそも、最初からなんでも出来る完璧な者なぞいないのだ。キャロのような年端もいかぬ子供なら、尚更である。
「俺達も、そろそろ行こう」
差し伸べた手が小さな手に握られると、そこへ便乗してきたのは2つの肉球の感触。
「もちろん、お前達もだ」
仲間外れになぞしない。ミアにカガリにワダツミ。皆から向けられた笑顔に頷いて見せると、俺達は最後の仕事に向かって歩き出した。
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