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第556話 元鞘
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「これはこれは、王女様。お初お目にかかります」
リリーの前で僅かに頭を下げた、白髪の老婆。
ピーちゃんが超特急で連れてきたのは、ネクロガルドの最高顧問を務めるエルザだ。
腰の曲がり具合は、杖をつかねば歩行も困難なほどではあるが、ダンジョンの最下層まで降りてくるのにそう時間が掛からなかったのは、エルザが猫を被っているから。
逆に、見えないところで超ダッシュしてくれていると思うとありがたくはあるのだが、それを想像すると中々に滑稽である。
エルザが来るまでの間、リリーには衣服の着用を許可した。
俺がリリーに欲情しそうだからとか、そう言う訳じゃない。女児の裸は、ミアで見慣れている。
後からエルザに、ロリコンだのなんだのと弄られるのが面倒なだけだ。
「あなたは……」
リリーからすれば、見知らぬ老婆。何の為に呼ばれたのかもわかるまい。
「エルザ、答えてやる必要はない。それよりも、お前の見解を聞かせてくれ」
「イッヒッヒッ……匂いますよぉ。王女様からへったくそな呪詛の匂いがプンプンとねぇ……」
「えッ……!?」
その言葉に、驚きを隠せないのはリリー。
今だからわかる事もある。恐らくはカガリを使って、自分が呪われていることを伝えたかったのだろう。
ケシュアと同じだ。それを口にするだけで、制約が破られたと見なされ死に至る。
呪術師の常套手段らしいが、逆を言うなら術者本人以外でも、解呪する方法が存在しているということ……。
それが、みすぼらしくも見える老婆によって、瞬時に看破されたのだ。
リリーもまた魔法を使う者として、エルザが闇魔法のプロフェッショナルだと言う事くらいは安易に想像ができただろう。
「やはりか……」
呪いで縛っているのなら、魔法書の持ち出しが許可された事にも頷ける。
いくら裏切りを防止する為とは言え、やっていることはネクロガルドと一緒。王族が聞いて呆れる……。
それは最早犯罪者とも同等の扱いではあるが、そのおかげ――と言っては何だが、解決のための糸口は掴めた。
「解呪までに、どれくらい掛かる?」
「ワシだけとなると、すぐにとはいかんのぉ。早くても2週間といったところか……」
俺に呪術の知識はない。専門家がそう言うのならそうなのだろうが、いくらなんでも長すぎる。
「どうにか短縮できないか?」
「そうじゃのう……。お抱えの呪術師を2人ほど呼ぶことが出来れば、数日中には何とかなるが……。サザンゲイアからとなると、そう変わらんのう」
港に埠頭が出来ていれば、もう少し短縮できたかもしれないが、それでも厳しいと言わざるを得ない。
長時間の拘束は、疑いしか生まないだろう。リリーには、帰還までの制限時間が設けられているはずだ。
「そこを何とか、もう一声!」
「簡単に言うがの……。他人のかけた呪詛を解くのは、そう簡単な事ではないんじゃぞ? それに失敗し発動すれば最後、王女様は命を落とす」
「命を落とすほどの呪いが、ヘタクソなのか?」
「呪詛の強さで言えば、申し分ない。ただ、全体的に荒いと言うか……雑なんじゃよ。術の隠ぺいも稚拙。強引であるが故に、身体の中で2つの魔力が反発し合っておる」
そう言いながらも、リリーの身体をまさぐるエルザ。
腕を捲らせ、まるで脈拍でも計っているかのように手首を両手で握り締める。
更には、毛穴でもチェックしているのかと思うほどに顔を近づけ凝視していた。
「死霊術と同じじゃ。1つの身体に2つの魂を共存させるのが難しいように、魔力もまた然り。それが身体に害を及ぼすものであるなら尚更じゃな。今はまだ身体に影響は出ていないようじゃが、制約を抜きにしても王女様の命はあと1月といったところか……」
「それは、解除されなければの話だろう? 王宮に帰れば当然……」
「イッヒッヒッ……。本当にそう思うか? これほど強力な呪詛。恐らくは術者以外にもう一人。王女に強い恨みを持つ者が、力を貸しておるはずじゃ。そんな者が折角の呪詛を解くとでも?」
不敵な笑みを浮かべるエルザに、俺は静かに押し黙る。
王女相手に呪いをかけようと提案できるだけの身分の者。そしてリリーに恨みを持つ者といったら、俺は一人しか知らない。
「俺は……、どうすればいい?」
俺がリリーを受け入れても、呪詛により命を落とし、かといって放っておいても結果は同じ……。
「何を白々しい。お主だって気付いておるじゃろ? もっとも簡単な解呪方法があるではないか」
恐らくは、誰もが最初に思いつく呪いの解除方法。
それは、術者を殺すこと――。
単純明快ではあるが、それが如何に難しい事であるかは言わずもがな。
当然相手も対策はしている。故に表に出てくる事はなく、術者はリリーの帰還まで王宮にて匿われていることだろう。
だが、俺にはその状態でも術者をどうにかできる手段があった。
王宮に潜む、2体のリビングアーマー。
1体はノルディックの。そしてもう1体がグラハムの鎧。
だが、その使い道は決まっていた。
――国王であるアルバートの暗殺。
正直、迷いはなかった。コット村への襲撃を止めさせるには、元凶をどうにかするしかない。
話し合いは無意味。アドウェールの殺害を知り得るだけの力が俺にはある。それは俺を消そうとする理由としては十分。
それだけならまだいいが、ミアやシャーリーの命まで奪おうとしたのだ。それが俺の怨みを買うことくらい、わかっていたはず。
その報いだ。当然ケジメはつけさせる。
重要なのは、確実にアルバートを葬れるタイミングだ。
当然アルバートは、常時誰かに守られている。必要なのは、警備の手薄な時間帯の情報。
それを調べるのが、グラハムの役目でもあった。
グラハムは既に協力者の1人。アンデッドになりたくないという恐怖心もあったのだろうが、村では比較的自由にさせていたからか、信用を得るのは容易かった。
まずはアルバートがどういう人間なのかを、懇切丁寧に聴かせてやった。
自分が王になる為とは言え、実の父親を殺害している。当然そんな者に尽くす忠義はないと怒り心頭。アルバートを見限るには、十分な要素だ。
そもそもグラハムには蟠りがあった。コット村でのことは信じてもらえず、アルバートの親衛隊を除籍されている事に加え、救助には誰も来ていない。
見捨てられたと考えても、おかしなことではないだろう。
「はぁ……。どうせ協力者ってのは、第2王女のグリンダだろ?」
溜息と共に、玉座の背もたれに体重を預ける。
歓喜が溢れんばかりのリリーの顔は、最早答えを聞く必要すらない。
正直、それはアルバートの暗殺よりも安易だろう。グリンダは常にノルディックの鎧と供にいるのだ。
それは処刑の為にと幽閉された地下牢で、俺自身が確認している。
恐らくだが、術者もグリンダの目の届く範囲にいるはずだ。
しかし、リリーの呪いを解く為にリビングアーマーを使ってしまえば、アルバートの暗殺は絶望的。
1度切りのオペレーション。手の内がバレれば、当然2度目はないだろう。
「背に腹は代えられないか……」
正直言うと、リリーには王宮で大人しくしていてほしかった。
アルバートの暗殺に成功すれば、ほぼ間違いなくリリーが次の国王として就任するからだ。
俺は、その後で魔法書の返還を申し出るつもりだった。
リリーとであれば、建設的な話し合いができる。
だからこそ無作法を装い、悪役に徹してまで突き放したというのに、どうしてこうなってしまったのか……。
難しく考えがちではあるが、恐らく答えは単純だ。
俺にはリリーの真意が読めておらず、またリリーも俺の真意が読めなかっただけの話。
お互いを信頼しているからこそ、起こってしまった擦れ違いだ。
とはいえ、リリーはそれに命を懸け俺の元へとやって来た。ならば当然、俺もその期待に応えよう。
もちろん王族である前に、リリーもまた大切な仲間の1人であるからだ。
リリーの前で僅かに頭を下げた、白髪の老婆。
ピーちゃんが超特急で連れてきたのは、ネクロガルドの最高顧問を務めるエルザだ。
腰の曲がり具合は、杖をつかねば歩行も困難なほどではあるが、ダンジョンの最下層まで降りてくるのにそう時間が掛からなかったのは、エルザが猫を被っているから。
逆に、見えないところで超ダッシュしてくれていると思うとありがたくはあるのだが、それを想像すると中々に滑稽である。
エルザが来るまでの間、リリーには衣服の着用を許可した。
俺がリリーに欲情しそうだからとか、そう言う訳じゃない。女児の裸は、ミアで見慣れている。
後からエルザに、ロリコンだのなんだのと弄られるのが面倒なだけだ。
「あなたは……」
リリーからすれば、見知らぬ老婆。何の為に呼ばれたのかもわかるまい。
「エルザ、答えてやる必要はない。それよりも、お前の見解を聞かせてくれ」
「イッヒッヒッ……匂いますよぉ。王女様からへったくそな呪詛の匂いがプンプンとねぇ……」
「えッ……!?」
その言葉に、驚きを隠せないのはリリー。
今だからわかる事もある。恐らくはカガリを使って、自分が呪われていることを伝えたかったのだろう。
ケシュアと同じだ。それを口にするだけで、制約が破られたと見なされ死に至る。
呪術師の常套手段らしいが、逆を言うなら術者本人以外でも、解呪する方法が存在しているということ……。
それが、みすぼらしくも見える老婆によって、瞬時に看破されたのだ。
リリーもまた魔法を使う者として、エルザが闇魔法のプロフェッショナルだと言う事くらいは安易に想像ができただろう。
「やはりか……」
呪いで縛っているのなら、魔法書の持ち出しが許可された事にも頷ける。
いくら裏切りを防止する為とは言え、やっていることはネクロガルドと一緒。王族が聞いて呆れる……。
それは最早犯罪者とも同等の扱いではあるが、そのおかげ――と言っては何だが、解決のための糸口は掴めた。
「解呪までに、どれくらい掛かる?」
「ワシだけとなると、すぐにとはいかんのぉ。早くても2週間といったところか……」
俺に呪術の知識はない。専門家がそう言うのならそうなのだろうが、いくらなんでも長すぎる。
「どうにか短縮できないか?」
「そうじゃのう……。お抱えの呪術師を2人ほど呼ぶことが出来れば、数日中には何とかなるが……。サザンゲイアからとなると、そう変わらんのう」
港に埠頭が出来ていれば、もう少し短縮できたかもしれないが、それでも厳しいと言わざるを得ない。
長時間の拘束は、疑いしか生まないだろう。リリーには、帰還までの制限時間が設けられているはずだ。
「そこを何とか、もう一声!」
「簡単に言うがの……。他人のかけた呪詛を解くのは、そう簡単な事ではないんじゃぞ? それに失敗し発動すれば最後、王女様は命を落とす」
「命を落とすほどの呪いが、ヘタクソなのか?」
「呪詛の強さで言えば、申し分ない。ただ、全体的に荒いと言うか……雑なんじゃよ。術の隠ぺいも稚拙。強引であるが故に、身体の中で2つの魔力が反発し合っておる」
そう言いながらも、リリーの身体をまさぐるエルザ。
腕を捲らせ、まるで脈拍でも計っているかのように手首を両手で握り締める。
更には、毛穴でもチェックしているのかと思うほどに顔を近づけ凝視していた。
「死霊術と同じじゃ。1つの身体に2つの魂を共存させるのが難しいように、魔力もまた然り。それが身体に害を及ぼすものであるなら尚更じゃな。今はまだ身体に影響は出ていないようじゃが、制約を抜きにしても王女様の命はあと1月といったところか……」
「それは、解除されなければの話だろう? 王宮に帰れば当然……」
「イッヒッヒッ……。本当にそう思うか? これほど強力な呪詛。恐らくは術者以外にもう一人。王女に強い恨みを持つ者が、力を貸しておるはずじゃ。そんな者が折角の呪詛を解くとでも?」
不敵な笑みを浮かべるエルザに、俺は静かに押し黙る。
王女相手に呪いをかけようと提案できるだけの身分の者。そしてリリーに恨みを持つ者といったら、俺は一人しか知らない。
「俺は……、どうすればいい?」
俺がリリーを受け入れても、呪詛により命を落とし、かといって放っておいても結果は同じ……。
「何を白々しい。お主だって気付いておるじゃろ? もっとも簡単な解呪方法があるではないか」
恐らくは、誰もが最初に思いつく呪いの解除方法。
それは、術者を殺すこと――。
単純明快ではあるが、それが如何に難しい事であるかは言わずもがな。
当然相手も対策はしている。故に表に出てくる事はなく、術者はリリーの帰還まで王宮にて匿われていることだろう。
だが、俺にはその状態でも術者をどうにかできる手段があった。
王宮に潜む、2体のリビングアーマー。
1体はノルディックの。そしてもう1体がグラハムの鎧。
だが、その使い道は決まっていた。
――国王であるアルバートの暗殺。
正直、迷いはなかった。コット村への襲撃を止めさせるには、元凶をどうにかするしかない。
話し合いは無意味。アドウェールの殺害を知り得るだけの力が俺にはある。それは俺を消そうとする理由としては十分。
それだけならまだいいが、ミアやシャーリーの命まで奪おうとしたのだ。それが俺の怨みを買うことくらい、わかっていたはず。
その報いだ。当然ケジメはつけさせる。
重要なのは、確実にアルバートを葬れるタイミングだ。
当然アルバートは、常時誰かに守られている。必要なのは、警備の手薄な時間帯の情報。
それを調べるのが、グラハムの役目でもあった。
グラハムは既に協力者の1人。アンデッドになりたくないという恐怖心もあったのだろうが、村では比較的自由にさせていたからか、信用を得るのは容易かった。
まずはアルバートがどういう人間なのかを、懇切丁寧に聴かせてやった。
自分が王になる為とは言え、実の父親を殺害している。当然そんな者に尽くす忠義はないと怒り心頭。アルバートを見限るには、十分な要素だ。
そもそもグラハムには蟠りがあった。コット村でのことは信じてもらえず、アルバートの親衛隊を除籍されている事に加え、救助には誰も来ていない。
見捨てられたと考えても、おかしなことではないだろう。
「はぁ……。どうせ協力者ってのは、第2王女のグリンダだろ?」
溜息と共に、玉座の背もたれに体重を預ける。
歓喜が溢れんばかりのリリーの顔は、最早答えを聞く必要すらない。
正直、それはアルバートの暗殺よりも安易だろう。グリンダは常にノルディックの鎧と供にいるのだ。
それは処刑の為にと幽閉された地下牢で、俺自身が確認している。
恐らくだが、術者もグリンダの目の届く範囲にいるはずだ。
しかし、リリーの呪いを解く為にリビングアーマーを使ってしまえば、アルバートの暗殺は絶望的。
1度切りのオペレーション。手の内がバレれば、当然2度目はないだろう。
「背に腹は代えられないか……」
正直言うと、リリーには王宮で大人しくしていてほしかった。
アルバートの暗殺に成功すれば、ほぼ間違いなくリリーが次の国王として就任するからだ。
俺は、その後で魔法書の返還を申し出るつもりだった。
リリーとであれば、建設的な話し合いができる。
だからこそ無作法を装い、悪役に徹してまで突き放したというのに、どうしてこうなってしまったのか……。
難しく考えがちではあるが、恐らく答えは単純だ。
俺にはリリーの真意が読めておらず、またリリーも俺の真意が読めなかっただけの話。
お互いを信頼しているからこそ、起こってしまった擦れ違いだ。
とはいえ、リリーはそれに命を懸け俺の元へとやって来た。ならば当然、俺もその期待に応えよう。
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