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第658話 先発隊と奴隷1号
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新たな旅立ちの朝。湿った土の香りが鼻をくすぐるのは、昨晩の雨の名残だろう。
108番ダンジョンに集まったのは、オーガの事情を知る者たち。
ミアにエルザにフードルにシャーリー。オーガたちの代表オルガナとバルザックだ。
アーニャは、恐らくまだ寝てる。
「じゃぁ、後はよろしく頼む。オルガナたちはダンジョンから出るなよ? 絶対だぞ? フリじゃないからな?」
デスマスクを握り締めながらも、オルガナに向け指をさす。
俺がいない間、リリーにオーガたちの存在がバレては大変だ。切実な願い……というより、不安が勝る。
「わかっている。それよりも、アミーの事を頼む……」
今回の作戦の都合上、俺だけが先行してサザンゲイアへと赴く事になった。
リリーには、俺が先に転移して魔導船の停泊先を確保しておくと知らせてはいるが、実際のところはそうじゃない。
本当の目的は、鉱匠都市グリムロックにて、鍛冶師のバルガスを訪ねることにある。
ゴーレムっぽいプレートアーマーの制作。それを頼めるだろう最有力候補としてあがったのが、バルガスだ。
バルガスならこちらの事情を考慮し、秘密裏に動いてくれるかもしれない。鍛冶師としての腕は確かで、なによりエクアレイス側で制作してから出発――では、時間の無駄だ。
「おにーちゃん。一人だからって、羽目を外しちゃダメなんだからね!」
「大丈夫だ、ミア。そもそも目立たないための1人だからな」
「合流するまで、こっちのことはまかせて九条!」
「ああ、頼んだぞ、シャーリー」
ミアを含めた後発組は、ファフナーの引く魔導船に乗り、サザンゲイアの王都トゥームレイズを目指す。
途中で合流予定だが、それまでの引率は、結局シャーリーに頼むことに。
ガストンの監視役という意味もあるが、船旅の間、クリスに冒険者のイロハを叩き込んでもらう為でもある。
どちらにせよ初心者冒険者だが、ある程度のノウハウがあれば、冒険者達の行動パターンを予測したうえでの立ち回りが出来るかもしれない。
まぁ、クリスに多くは望んでいないが、最悪自分の身を守る程度の知識は必要だろう。
「じゃぁ、行ってくる」
軽く手を上げ、短い別れ。俺は持っていたデスマスクを被ると、グリムロックに近いダンジョンへと転移した。
急に床が抜け落ちたような、ふわっとした感覚に不快感を覚えるのも一瞬だ。次に足が地に着くと同時に目を開けると、そこには見たことのないダンジョンハート。
大きさも見た目も108番の物とあまり変わりはないが、それが別物だろう確信が持てるのは、中身が空だから。
デスマスクを外し荷物の中に押し込むと、出口を目指し見知らぬダンジョンを歩き出す。
呼び出したデスナイトを先行させ、蜘蛛の巣を払いながらの索行。
外までの経路は、108番から聞いている。それらが崩落等により、通行不能であった場合のみ戻って別のダンジョンへと転移する予定だったが、それも杞憂。出口は、あっさり見つかった。
長い時の流れに埋もれ、誰の記憶からも忘れ去られた地下ダンジョン。
その出口は、まるで自然そのものが隠そうとしているかのように、密生した木々と絡み合う蔦に覆われていた。
風が吹き抜けるたびに、葉がざわめき、木々の影が揺れる。そんな自然のカーテンを、デスナイトは容赦なく切り拓く。
「ありがとう。助かったよ」
その返事が、返ってこないのはわかっている。
ダンジョンの入口を出来るだけ隠し、デスナイトが土に還ると、俺は街道を目指し歩き出した。
ここからグリムロックまで、徒歩で向かうとなると約半日ほどだが、正門からは入れない。
冒険者はクビになってしまった為、通行証の代わりとなるプレートに価値はなく、かと言ってお忍びの為、身分を明かす訳にもいかないのだ。
「やっほ。九条み~っけ!」
街道を歩き始めて1時間。その解決策は、馬とともにやって来た。
聞き覚えのある女性の声に、全てを察して溜息を漏らす。
「なんだ……。お前かよ……」
その言葉に腹を立てたのか、馬上で腰に手を当て、ぷりぷりと頬を膨らませているは、エルフのケシュア。
ネクロガルドの構成員でありながら、ゴールドプレートの冒険者。森の賢者と呼ばれるほどの樹術師だ。
白い肌に長い耳、身長はそれほど高くない。ブロンドの髪を後ろで二つに束ねている所為で幼くも見えるが、その実力は折り紙付き。
グランスロードで、ベヒモス相手に共闘したのは、まだ記憶に新しい。
「あのさぁ、もっと嬉しそうにしてくれても良くない? それとも、知らないおっさんの方が良かったわけ?」
そう言われると、確かに知り合いの方が何倍もマシである。
俺がグリムロックに滞在するにあたり、身を隠す場所として提供されたのが、ネクロガルドの隠れ家だ。
バルガスとの交渉以外で外出するつもりはなく、その間、俺の身の回りの世話をしてくれる者を付けるとエルザに言われていたのだが、それがまさかのケシュアだった。
「ほら、一応私は九条の奴隷経験者でしょ?」
「その設定、まだ生きてんのかよ……」
俺の秘密を漏らした罰として、確かに奴隷にするとは言ったが、結局は口先だけのファッション奴隷。
俺が奴隷の扱い方を心得てはいなかった……というのも大きな誤算。本場の奴隷にはほど遠い、ぬるい結果に。
「あの衣装、まだあるよ? 着替える?」
「逆に目立つだろうが! 今回はお忍びで来てんだよ!」
あの衣装とは、バニーガールのコスチュームのこと。
罰として着させてはいたが、最終的にはそれにも慣れてしまい、本当に罰としての効果があったのかは甚だ疑問だ。
「ハイハイ、わかってるって。それより早く乗って。今日中にグリムロックに入りたいでしょ? 野営の準備はしてないわよ?」
そう言って、馬上から手を伸ばすケシュア。
「乗るって……」
「見ればわかるでしょ? タンデムサドルなんだから、二人乗り前提だって事くらい理解してよね」
それは2つの鞍を連結させたような見た目で、俺も見るのは初めてだ。しかし、問題はそこじゃない。
ケシュアの背後に座るということは、必然的に彼女の腰に手を回さなければならないということ。
「後から、セクハラで訴えたりしないよな?」
「くだらないこと言ってないで、早く乗ってよ……」
呆れたような表情を向けるケシュアの手を掴み、馬の背に飛び乗ると、思った以上の密着具合。
ケシュアから微かに香る甘い匂いに、意識しないようにと口呼吸に切り替える。
「ねぇ、後ろではぁはぁ言うのやめてくんない? なんか怖いんだけど……」
「悪かったな。花粉症で鼻が詰まってるんだよ」
「花粉症? 何それ?」
「鼻水が止まらなくなる恐ろしい病気だ……」
「それって、伝染ったりしないわよね?」
「しねぇよ……」
別に花粉症でもなんでもないが、変態の汚名だけは免れた様子。
「じゃぁ、しっかりつかまって。振り落とされても知らないからね!」
その瞬間、ケシュアが手綱を引くと、馬が勢いよく駆け出し、俺は思わずその腰にしがみついた。
「お、おい! 急に走らせるな!」
「言ったでしょ! 時間が無いんだから、暫くは我慢しなさいよね!」
そういうケシュアの声は何処となく楽し気で、俺はただ必死に馬の揺れに耐えるしかなかった。
108番ダンジョンに集まったのは、オーガの事情を知る者たち。
ミアにエルザにフードルにシャーリー。オーガたちの代表オルガナとバルザックだ。
アーニャは、恐らくまだ寝てる。
「じゃぁ、後はよろしく頼む。オルガナたちはダンジョンから出るなよ? 絶対だぞ? フリじゃないからな?」
デスマスクを握り締めながらも、オルガナに向け指をさす。
俺がいない間、リリーにオーガたちの存在がバレては大変だ。切実な願い……というより、不安が勝る。
「わかっている。それよりも、アミーの事を頼む……」
今回の作戦の都合上、俺だけが先行してサザンゲイアへと赴く事になった。
リリーには、俺が先に転移して魔導船の停泊先を確保しておくと知らせてはいるが、実際のところはそうじゃない。
本当の目的は、鉱匠都市グリムロックにて、鍛冶師のバルガスを訪ねることにある。
ゴーレムっぽいプレートアーマーの制作。それを頼めるだろう最有力候補としてあがったのが、バルガスだ。
バルガスならこちらの事情を考慮し、秘密裏に動いてくれるかもしれない。鍛冶師としての腕は確かで、なによりエクアレイス側で制作してから出発――では、時間の無駄だ。
「おにーちゃん。一人だからって、羽目を外しちゃダメなんだからね!」
「大丈夫だ、ミア。そもそも目立たないための1人だからな」
「合流するまで、こっちのことはまかせて九条!」
「ああ、頼んだぞ、シャーリー」
ミアを含めた後発組は、ファフナーの引く魔導船に乗り、サザンゲイアの王都トゥームレイズを目指す。
途中で合流予定だが、それまでの引率は、結局シャーリーに頼むことに。
ガストンの監視役という意味もあるが、船旅の間、クリスに冒険者のイロハを叩き込んでもらう為でもある。
どちらにせよ初心者冒険者だが、ある程度のノウハウがあれば、冒険者達の行動パターンを予測したうえでの立ち回りが出来るかもしれない。
まぁ、クリスに多くは望んでいないが、最悪自分の身を守る程度の知識は必要だろう。
「じゃぁ、行ってくる」
軽く手を上げ、短い別れ。俺は持っていたデスマスクを被ると、グリムロックに近いダンジョンへと転移した。
急に床が抜け落ちたような、ふわっとした感覚に不快感を覚えるのも一瞬だ。次に足が地に着くと同時に目を開けると、そこには見たことのないダンジョンハート。
大きさも見た目も108番の物とあまり変わりはないが、それが別物だろう確信が持てるのは、中身が空だから。
デスマスクを外し荷物の中に押し込むと、出口を目指し見知らぬダンジョンを歩き出す。
呼び出したデスナイトを先行させ、蜘蛛の巣を払いながらの索行。
外までの経路は、108番から聞いている。それらが崩落等により、通行不能であった場合のみ戻って別のダンジョンへと転移する予定だったが、それも杞憂。出口は、あっさり見つかった。
長い時の流れに埋もれ、誰の記憶からも忘れ去られた地下ダンジョン。
その出口は、まるで自然そのものが隠そうとしているかのように、密生した木々と絡み合う蔦に覆われていた。
風が吹き抜けるたびに、葉がざわめき、木々の影が揺れる。そんな自然のカーテンを、デスナイトは容赦なく切り拓く。
「ありがとう。助かったよ」
その返事が、返ってこないのはわかっている。
ダンジョンの入口を出来るだけ隠し、デスナイトが土に還ると、俺は街道を目指し歩き出した。
ここからグリムロックまで、徒歩で向かうとなると約半日ほどだが、正門からは入れない。
冒険者はクビになってしまった為、通行証の代わりとなるプレートに価値はなく、かと言ってお忍びの為、身分を明かす訳にもいかないのだ。
「やっほ。九条み~っけ!」
街道を歩き始めて1時間。その解決策は、馬とともにやって来た。
聞き覚えのある女性の声に、全てを察して溜息を漏らす。
「なんだ……。お前かよ……」
その言葉に腹を立てたのか、馬上で腰に手を当て、ぷりぷりと頬を膨らませているは、エルフのケシュア。
ネクロガルドの構成員でありながら、ゴールドプレートの冒険者。森の賢者と呼ばれるほどの樹術師だ。
白い肌に長い耳、身長はそれほど高くない。ブロンドの髪を後ろで二つに束ねている所為で幼くも見えるが、その実力は折り紙付き。
グランスロードで、ベヒモス相手に共闘したのは、まだ記憶に新しい。
「あのさぁ、もっと嬉しそうにしてくれても良くない? それとも、知らないおっさんの方が良かったわけ?」
そう言われると、確かに知り合いの方が何倍もマシである。
俺がグリムロックに滞在するにあたり、身を隠す場所として提供されたのが、ネクロガルドの隠れ家だ。
バルガスとの交渉以外で外出するつもりはなく、その間、俺の身の回りの世話をしてくれる者を付けるとエルザに言われていたのだが、それがまさかのケシュアだった。
「ほら、一応私は九条の奴隷経験者でしょ?」
「その設定、まだ生きてんのかよ……」
俺の秘密を漏らした罰として、確かに奴隷にするとは言ったが、結局は口先だけのファッション奴隷。
俺が奴隷の扱い方を心得てはいなかった……というのも大きな誤算。本場の奴隷にはほど遠い、ぬるい結果に。
「あの衣装、まだあるよ? 着替える?」
「逆に目立つだろうが! 今回はお忍びで来てんだよ!」
あの衣装とは、バニーガールのコスチュームのこと。
罰として着させてはいたが、最終的にはそれにも慣れてしまい、本当に罰としての効果があったのかは甚だ疑問だ。
「ハイハイ、わかってるって。それより早く乗って。今日中にグリムロックに入りたいでしょ? 野営の準備はしてないわよ?」
そう言って、馬上から手を伸ばすケシュア。
「乗るって……」
「見ればわかるでしょ? タンデムサドルなんだから、二人乗り前提だって事くらい理解してよね」
それは2つの鞍を連結させたような見た目で、俺も見るのは初めてだ。しかし、問題はそこじゃない。
ケシュアの背後に座るということは、必然的に彼女の腰に手を回さなければならないということ。
「後から、セクハラで訴えたりしないよな?」
「くだらないこと言ってないで、早く乗ってよ……」
呆れたような表情を向けるケシュアの手を掴み、馬の背に飛び乗ると、思った以上の密着具合。
ケシュアから微かに香る甘い匂いに、意識しないようにと口呼吸に切り替える。
「ねぇ、後ろではぁはぁ言うのやめてくんない? なんか怖いんだけど……」
「悪かったな。花粉症で鼻が詰まってるんだよ」
「花粉症? 何それ?」
「鼻水が止まらなくなる恐ろしい病気だ……」
「それって、伝染ったりしないわよね?」
「しねぇよ……」
別に花粉症でもなんでもないが、変態の汚名だけは免れた様子。
「じゃぁ、しっかりつかまって。振り落とされても知らないからね!」
その瞬間、ケシュアが手綱を引くと、馬が勢いよく駆け出し、俺は思わずその腰にしがみついた。
「お、おい! 急に走らせるな!」
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