楽しい転生

ぱにこ

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68話

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 交流会の目玉━━冒険者の方達によるお話が終わった後。
 近衛騎士団の皆様による、基本に忠実で美しい剣技を見ながらダリウスパパとお話をしております。

「御前試合? 」
「ええ、御前試合です」
「えっと……意味がよく分からないのですが。それがどうして、ケンゾーと関係あるのです? 」
「この遠征に同行する予定だったケンゾーくんが、予定変更してBランクアップ試験の護衛依頼を受けたのはご存知ですよね? 」
「はい、その件は聞いております。すごくウキウキした表情で『お嬢様。私、ケンゾーはランクアップ試験を受けて参ります。遠征にお供出来ないのは誠に残念でなりませんが、2週間ほど留守にするのをお許しください』と言って旅立って行きましたわ」
「フフ、なかなか声真似がお上手ですね」
「ありがとうございます。長い付き合いですもの、癖などは知り尽くしておりますわ。この声真似、ケンゾーには不評ですが、ジョゼやぴよたろうには好評ですのよ」

 反面、ケンゾーも私の声真似をして茶化してくるけれどね……。

「フフ、楽しそうで何よりで御座います。それはさておき、護衛依頼の行き先はお聞きになりましたか? 」

 急な予定変更だったし、行き先まで聞かなかったわ。
 なので、私は頭を振った。

「それもそうですね……ランクアップ試験の内容は当日まで極秘扱いですし、きっとお聞きになったとしても、答えられなかったと思いますよ」

 へぇ、当日まで極秘なのね……。
 では、ケンゾーは何処へ行っているのかしら?

「シュナウザー伯爵? ケンゾーは何処まで行っておりますの? 」
「ケンゾーくんの向かった場所は、『ソマリ帝国』です」
「そ、ソマリ帝国まで行ったのですか!? 2週間の休暇で帰ってこれますの? 」

 ソマリ帝国と言えば、ヨークシャー王国の南に位置する国。
 王都テリアから、ソマリの端っこまで行くだけでも、馬車で半月ほどかかるはずです。

「……2週間は厳しいでしょうね。2ヶ月はかかるかと……」
「? なぜ、シュナウザー伯爵が申し訳なさそうなお顔をされますの? 確かにランクアップ試験で2ヶ月も要するのは、些か……っ! 父様ですね! このランクアップ試験の行き先を決めたのは父様ですのねっ!? 」

 父様が絡んでいるからこそ、ダリウスパパが知っているのであろう。
 じゃないと極秘扱いされているランクアップ試験の内容を今ここで語るはずもない。
 ギュッと拳を握り、私の後ろで陛下と談笑している父様をキッと睨みつけます。
 すると、父様はゾクリとしたのか、一瞬ブルリと震えた後、辺りを見渡し始めました。
 なので、私は父様と視線が交わる前に、知らないフリをしてダリウスパパに話しかける事に致します。
 ふん、ですわ。私の従者を勝手に2カ月も要する場所へ追いやるだなんて。
 せめて、一言。相談やお話をして下さるだけでも印象は違いますのに。
 勝手な事をした報いを受けていただきましょう。

「シュナウザー伯爵……もとい、ダリウスパパ。父様がケンゾーをソマリ帝国まで向かわせた理由をお聞かせ願えますか? 」

 父様の好きな、首を傾げておねだりするポーズをこれ見よがしにダリウスパパに披露しながら、問いかけてみました。

「る、ルイーズ嬢……あざといですね。いいでしょう、貴女のその姿、私も嫌いではありません。宰相閣下の思惑、洗いざらい語ってしまう事に致します」
「まぁ! ダリウスパパ、素敵ですわ! その決断力、長いものに巻かれない精神力と判断力は、さすが近衛騎士団の団長をお務めになられるお方。さぁさぁ、洗いざらいお聞かせくださいまし」

 そう言って、私はダリウスパパに懇願いたします。
 でも、まぁ。
 こういう駆け引きは茶番で、最初から話すつもりで話を振ったのでしょう? ね、ダリウスパパ。

「現在、ソマリ帝国では腕に自信のある冒険者、騎士などを募り、御前試合に向けて予選が行われております」
「御前試合の予選ですの? でも、護衛依頼で行ったケンゾーがそれに参加しますでしょうか? 」
「それが……陛下の勅命で……」
「勅命? 」
「はい。ソマリ帝国に着いたら開封する様にと手紙を渡してあるのです」

 父様だけでなく、陛下も絡んでいたのですか! 確かに、父様が悪知恵を働かせている時、陰に陛下在りですものね。

「その手紙に書かれている内容はご存知ですの? 」
「ええ、知っております。2位の賞品━━『ガンダルヴァの竪琴』を手に入れてくるようにと書かれておりました」

 『ガンダルヴァの竪琴』! ジョゼのユニーク武器じゃない!
 装備するだけで、敵の動きを鈍重にするパッシブスキルはとても便利だったけれど、終盤は物足りなくて、タンスの肥やしになっていた武器じゃない。
 音を奏でる事によって、よくわからないダメージが敵を混乱させ、同士討ちさせる。
 雑魚戦にはピッタリなんだけれど、精神攻撃無効のボス戦だと役に立たたない『ガンダルヴァの竪琴』。
 それが、なぜ。ソマリ帝国にあるの?
 確か、この武器はサブクエストをクリアした後、商人から手に入れたはずなのに……。
 もしかして! ケンゾーが護衛している商人はあのサブクエストを発注した人!?

「ダリウスパパ。ケンゾーが護衛している商人は『バルナベ』という名ではありませんか? 」
「ほう、よくご存じですね。『キースホンド子爵領』で有名な商人だったらしいのですが、王都へ流れてきたのです」
「流れて? 」
「それは、大人の事情という事で。深く追求しない方が御身の為でもありますよ」
「……承知いたしました。それでは、違う事をお伺いしても宜しいですか? 」
「ええ、なんなりと」
「優勝賞品はなんですの? きっと、『ガンダルヴァの竪琴』よりも価値のある賞品でしょう? とても気になりますわ」

 2位の賞品が『ガンダルヴァの竪琴』。
 じゃあ、優勝賞品ってそれ以上に価値がある物になるじゃない。
 私の知っているユニーク武器かしら。それとも、すごく便利な魔道具かしら。
 物によっては、特攻してこようかしら。うふふ。
 ソマリまで飛んで……3日? いえいえ、ぶっ通し飛ぶのは草臥れるし、休み休み行って5日って所ね。
 私がニヤケながら、そんな目論見をしていると、ダリウスパパは視線を泳がせつつ、口を開きました。

「あ、ああ……そうですね……ある意味、価値はあるかと……人を選びますがね……」
「あ、もしかして、大人の事情で伏せておかないといけない内容でしたか? 」
「いえいえ。伏せる必要のない内容ですが……人によっては……」

 とてもとても言い難そうにモニョモニョしているダリウスパパ。

「その優勝賞品が何かは存じませんが、それをケンゾーが持ち帰ってくる可能性は? 」
「あるかもしれません……その場合、全力でお詫び申し上げます」

 ?????
 大体の物は受け入れられる私に、手に負えない物?
 …………。

「家に持ち帰られると困る賞品なのは理解致しました……で、優勝賞品とは何なのです? ハッキリ仰って下さらないと、その優勝賞品をダリウスに押し付けますわよ」
「っ! そっ、それは困りますっ。我が家では手に余ります。……仕方がありません。白状いたします……優勝賞品は……」
「優勝賞品は? 」
「ソマリ帝国の第一王女なのです」
「!? えっ! ええぇぇぇーーーっ!!! おっ、王女様を賞品にっ? いやいや、駄目でしょう。娘である王女を賞品にするなんて。これは、人身御供と同じではないですかっ! ソマリ帝国の王は極悪ですわね! 」
「いえいえ、そうではないのですよ。ソマリ帝国の第一王女の希望でして」
「希望? ああ、自ら身を捧げ、御前試合を盛り上げていると言う訳ですか」

 世界中からたくさんの人が集まると、それだけ国が潤うもの。
 ひいては国益も上がりますし、強者達がソマリに定住すると、兵力の底上げも出来ますものね。
 王女様の鏡というべきなのか……何なのかは分からない。
 国が違えば、考え方も変わるし。
 でも、自己犠牲はいただけませんわ。

「ある意味そうかも知れませんが、王女の真意は……」
「真意? 」

 言い難い事を話してくれているのは分かる。
 けれど、途切れ途切れでまどろっこしいですわ。
 ちゃちゃっと話してくれないかしら?

「はい。御前試合が行われるに至ったのは、王女の提案『どうせ、嫁ぐと同時に王家を追い出されるのですもの。でしたら、私はこの世で一番の強者と結婚したいわ』を王が呑んだからでございます」

 国の繁栄の為、犠牲になり身を投じるのではなく。
 ただ単に強い者と結婚したいですか……。
 うん。

「王女様のお気持ち、わからないでもないです。では、男性のみが参加できる御前試合ですのね」
「男性のみとは記載されておりませんでしたね……」
「あら?! まっ、まあ、ご本人が男女構わずと仰っているのであれば、深く追求しませんけれど………」
「……」
「ダリウスパパ……万が一、ケンゾーが優勝賞品を手に入れてしまったら引き受けて下さります? 」
「申し訳ございません。それは、引き受けかねます」
「ダリウスの兄、カロン様の許嫁としては? 」
「カロンはすでに許嫁がおります」
「ですよね……はぁ……」
「申し訳ございません」
「ダリウスパパが謝罪する必要はありませんのよ。元凶は後ろで談笑している陛下と父様ですもの」
「…………」
「はぁ、王女様に侍女が務まるかしら……」
「侍女? 」
「ええ。だって、ケンゾーは一生、私の従者で旅にも同行しますのよ。夫婦は共に暮らし、愛を育むものでしょう? でしたら、私の侍女として務めるのが一番ではなくて? 」
「仮にそうなった場合。降嫁するとはいえ、元王女ですよ。侍女は務まらないと思いますが」
「では、どうしろと……ケンゾーを辞めさせろと仰るのですか? そうなるとぴよたろうはどうするのです? ぴよたろうは悲しみますよ。父であるケンゾーがもう侯爵家の一員ではないと知れば、きっと、ぴよたろうは鳴き暮れますわ。まだ、ほんの子供のぴよたろうにそんな酷い仕打ちをしろと仰るのですか……」
「る、ルイーズ嬢……泣かないで下さい。貴女が泣くと、後ろからの殺気で気が遠くなりそうです」
「う、後ろからの殺気なんて、飛ばしてしまえば宜しいのですわっ。私を悩ませる元凶を持ち込んだ父様なんて、知らない」
「そ、そうは言ってもですね。あ、ああ! そうです、失念しておりました。ルイーズ嬢、大丈夫ですよ。手紙には、優勝賞品だけは持ち帰らない様、厳命として記しておりました。ですから、ケンゾーくんは、良いさじ加減で手を抜き、2位の賞品を持ち帰ってきますよ」
「……ほ、本当ですの? 」
「ええ、本当です。私を信じて下さい」

 信じて下さいという、ダリウスパパの真摯な瞳。
 けれど、口元は引き攣っております……。
 これ以上、無関係な人間を困らせるのも忍びないので、信じる事に致しましょう。

「……はい、ダリウスパパを信じます」

 ホッと、胸を撫で下ろすダリウスパパ。
 そして、少し、失礼いたしますねと言って、後ろに居る父様と陛下の元へ行ってしまわれました。 

 ぽつんと放置された私は、この隙を利用して天に願います。
 ケンゾー、お願いだから良いさじ加減で手を抜いて来てね……と。


 ◇ ◇ ◇


 冒険者の方達や騎士団の方達との楽しい交流会を終えた私達は、帰り支度に勤しんでおります。
 とはいっても、ポンポンと詰め込むだけでOKなアイテムバッグを持っている私━━私達にぬかりはございません。
 サクッと終わり、今は他の学生達を眺めて暇を潰しております。

「アイテムバッグって便利だよね」

 一緒にぼう~っと佇んでいるフェオドールがそう呟き、私のアイテムバッグを見つめております。

「便利よね……でも、いくら便利でも馬車を入れろって言われた時は、驚愕したわ」
「だよね。僕も驚愕したよ。いくらなんでも馬車は入らないだろうと思ったのに、ルイーズのアイテムバッグにスルっと入っちゃうんだもん」
「うんうん。いくら容量を増やしたと言っても、馬車が丸ごと入るとは私も想像だにしなかったわ」

 イルミラさん達が乗って来た馬車をアイテムバッグに収納した私。
 その一連の流れを簡単に説明いたしますね。
 まず、騎士さんその1が呟きました。
 馬は兎も角、馬車は獣道を通れないどうしよう。
 騎士さんその2がこう提案しました。
 仕方がない。馬車はこの場に捨てていこう。馬だけを連れて行けば問題ないだろう。
 そこへダリウスパパがこう仰いました。
 馬鹿者! 我々がこの場に訪れている事を、ロットワイラー伯爵は知っているんだぞ。
 外聞的にも、馬車を投棄して帰れる訳がないだろう。
 ダリウスパパのすごい剣幕に騎士さんその1とその2はたじろぎながらも、聞き返しました。
 じゃあ、どうするのですか? と。
 ダリウスパパは模索しました。何か良い手はないものかと。
 そこへ、ダリウスパパの目に、とある光景が飛び込んできます。
 アイテムバッグに荷物をポンポン放り込んでいる私達の姿だったそうです。
 騎士さんその1とその2に向けて、ダリウスパパが叫びました。
 そうだ、アイテムバッグになら、入るんじゃないか? 
 ルイーズ嬢の持つアイテムバッグは家一軒分くらい入るそうだ。
 それを聞いた騎士さんその1、その2が瞠目します。
 そりゃあ凄い。是非、頼もう。
 で、呼び出された私は、その無茶ぶりに反論しました。
 無理ですよ。いくら、容量があると言っても、馬車ですよ。
 ほら、入ら━━入っちゃったわ!

「ねぇねぇ、ルイーズ」
「なぁに? フェオドール」
「誰もいない家だったら、入るかな? 」
「……入らないだろうし、入れないわよ。家というものは、アイテムバッグに収納する物じゃないもの」
「そっか……持ち運び出来る家があったら、旅に便利だろうと思ったんだけどなぁ」
「……過ごしやすい天幕を開発するわ。それで我慢して」
「…………妥協案だね。わかった、僕も我儘を押し通す子供でもないし、それで我慢するよ」

 …………。
 切り株に座り、足をプラプラさせながらペロペロキャンディを舐めている子が、子供じゃないと?

「いやいや、子供でしょう。子供ではないのなら、ペロペロキャンディ返しなさい」
「えぇ~! 無理。僕、子供だし」

 フェオドールったら。
 都合によって、子供だったり、大人だったりするんだから。
 本当、難しい年頃になったわね。

「ルイーズ。口の中が甘くなってしまったので、口直しのお茶をいただけますか? 」

 一緒に隣でペロペロキャンディを舐めていたダリウスが薄くなった飴をカリカリッと噛み砕きながら、お茶の催促をします。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。━━あ、これは『ほうじ茶』ですね。はぁ~落ち着く~」

 両手でカップを包み込む様に持ち、ほう~っと息を吐くダリウス。
 その姿はまるで、縁側で日向ぼっこしているお爺ちゃんのようです。

「ルイーズ嬢。私にもお茶」
「はいはい。どうぞ」

 同じく、殿下からも催促されました。
 虚空を見つめたまま、一心不乱にペロペロキャンディを舐めていた殿下でしたが。
 ほうじ茶の湯気で正気に戻った様です。

「ついでだから、ララとカリーヌもどうぞ」
「「ありがとう」」

 皆でほうじ茶を啜り、ほう~っと一息ついていると、ぴよたろうの姿が目に飛び込んでまいりました。
 ……。
 家の子━━ぴよたろうは、リーヌスくんを背に乗せ走り回っております。

「ねぇ、ルイーズ」
「なぁに? フェオドール」
「リーヌスくんだっけ? あの子の成長する速度っておかしくない? 」
「……やっぱり? 私もおかしいかなとは思っていたのだけれど。ここはファンタジーの世界だし、アリなのかな? って無理やり納得してたのよ」
「? 『ふぁんたじぃの世界』って言うのは、よくわからないけど。明らかに早すぎるでしょう」
「不思議よね~」

 昨日は生後7~8ヶ月くらいの赤ちゃんだったのに。
 朝起きてみたら、2歳児くらいに成長してるんだもの。
 本当、異世界って不思議。

「不思議だけで済ませるの? 」

 私の返答が不満だったのか、フェオドールがキリリとした表情で見つめてくる。

「だって、母親であるイルミラさんですら、目を見開いて驚いていたくらいだし。私達に理解できるはずがないわ」
「そうだけど。でも、このまま成長し続けてしまったらどうするの? 10日もすれば大人だよ」
「……そうなると、リーヌスって呼べないわね。リーヌスって呼ばないと」
「そういう問題じゃないのっ! 」

 あらら。フェオドールがこれまで見た事もないくらい怒っている。
 どうした?
 ポカンとしていると、ダリウスが手をポンと叩きました。
 何か察したようですね。
 そして、ダリウスが口を開きます。

「ルイーズ。フェオドールの言いたい事がなんとなくわかりました」
「では、教えてくださる? 」
「ええ。昨晩、リーヌスくんと一緒に水浴びしたでしょう? 」
「ええ、したわ。長旅でむっちりした首の間とか、肉に埋もれた手首に汚れが溜まっていたからね」

 他に、ギュっと握りしめた手の平も埃と汚れが溜まっていたわ。

「それですよ。姿は赤ちゃんや幼児ですが、大人と同じ思考を持っていたら? 」

 あ、ああ。そういう事ね。

「…………フェオドール、それで怒ってるの? 」

 そう聞くとフェオドールはコクンと頷いた。
 でもね、皆。
 忘れているかもしれないけれど、このルイーズ・ハウンドの中身も元お婆ちゃんなんだよ。
 体に合わせて、思考も幼児化しているけれど、お婆ちゃんなんだよ。
 ……ん? でも、外見は少女なんだよね……。
 …………。

 あちゃ~っ! 

「ルイーズ」

 自分の失敗を反省して押し黙っていると、ダリウスが優しい声音で私の名を呼んだ。

「何? ダリウス」
「リーヌスくんの水浴びはルフィーノさんか、私やフェオドールに任せて下さい」
「わかったわ」

 そう返答するしかなかった。

「ごめんなさいね、フェオドール」
「うん、次からは気を付けてね」
「ダリウスも教えてくれてありがとう」
「どういたしまして」

 私が素直に謝罪すると、フェオドールはニッコリと微笑んでくれた。
 ダリウスも頭をポンポンと撫でてくれる。
 うんうん、本当に心優しい少年に育ってくれたわね。
 未だに、子や孫を見守るお婆ちゃん気分は抜けない。
 けれど、羞恥心を持つことを学んだ、遠征4日目の午後でした。

 ◇ ◇ ◇

 帰路へ着く私達。
 行きと同じく、帰りも殿しんがりを務めております。
 ただ行きと違うのは、イルミラさんとルフィーノさん、ぴよたろうとリーヌスくんが居る事です。
 イルミラさんの監視役が私しか居ないって事で押し付けられ━━もとい、お任せされた次第で御座います。
 ちなみに、イルミラさんの魔眼を恐れて、妙齢の男性は前方に集まっております。
 なので、シモンさんも前方に配置されてしまいました。

 帰りもマナの練り方を伝授しようと思っていたのに、予定が狂いましたわ。
 王都に戻ったら、時間を割いてもらうとしましょう。
 下手に発動する魔法を、そのままにしておく訳にもいきませんでしょう?
 実戦に役立つ魔法でないと、いざという時、困りますもの。

【ココッコ】

 ぴよたろうの背中に乗る殿下とリーヌスくん。
 ぴよたろうが、乗り心地は如何ですかと尋ねた様です。

「はぁ~いっ! 」
「うむ、良い乗り心地だ」

 うん、2人とも大満足な様で、満面の笑顔です。

【ココ】

 道が険しいので、しっかり掴まっていてくださいねとぴよたろうが告げる。

「はぁい~」
「うむ、しっかり掴まっているゆえ、もう少し飛ばしても良いぞ」
【コホゥ】

 前がつかえている状態で飛ばせと仰る殿下に、ぴよたろうが申し訳なさそうに謝罪しております。

「ハハハ、冗談だ」
「きゃはは」
【コッコ】

 殿下が冗談だと笑い飛ばすと、リーヌスくんもぴよたろうも釣られて大笑い。
 うん、楽しそう。
 殿下のお世話はぴよたろうに任せて、問題ないでしょう。
 この隙に、私はルフィーノさんに気になっている事を聞いてみる事に致します。

「ルフィーノさん。少しお聞きしたい事があるのですが、宜しいですか? 」
「…………」
「ルフィーノさん? 」
「……」

 ルフィーノさんにいくら問いかけても、ぴよたろう達を凝視しているだけで、返事をしてくれません。
 どうされたのでしょう?
 ぴよたろうはいつも通りですし、殿下もいつも通り、キラキラを振りまいて王子様みたいですし。
 リーヌスくんは成長いたしましたが、今朝と変わらずですし……。

「ルフィーノさんっ! 」

 パンっと柏手を打ち、大きな声で呼び掛けます。

「っ! あっ! ああっ、る、ルイーズ様っ。な、なんでしょうか? 」
「ああ、気が付いて下さいましたか。放心されていた様でしたので、少々大きな声を出させていただきましたわ。それで、どうされたのです? 」

 私がそう問いかけると、ルイフィーノさんは殿下を見遣り、こう答えた。

「あの方はどなたでいらっしゃいますか? 」
「えっ? 先ほども紹介いたしましたが、この国の王太子殿下でいらっしゃいますよ」
「お、王太子殿下…………名はなんと仰るのですか? 」
「レイナルド・ヨークシャー殿下に在らせられます」
「レイナルド・ヨークシャー殿下……なんと、美しい…………」

 ? 美しい?
 なんのこっちゃ? 
 理解できず、意味を問おうと口を開きかけた時。
 ルフィーノさんが殿下に跪いた。
 ?

「レイナルド・ヨークシャー殿下。私、ルフィーノは貴方に忠誠を誓います」
「っ?! はぁ~っ?! 」
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